2019年3月31日日曜日

世界的な有機化学者、中西香爾さん死去


2019329日 (Asahi.com) から抜粋。

有機化学分野の世界的研究者で、米コロンビア大名誉教授の中西香爾(なかにし・こ
じ)さんが28日、ニューヨーク市内の病院で死去した。93歳だった。

スズメバチやイチョウなど動植物の中に存在し、創薬などにつながる微量の物質について、最先端の分析方法を使って解明。約200種の構造を突き止めた。

我々生化学者の間で、最も良く知られている彼の功績は、(私の記憶が正しければ) 東北大学時代に、蚕など昆虫の脱皮 (変態) ホルモン(エクダイソン) がステロールの一種であることを発見したこと。 更に、世間では余り知られていないが、1980年代末に、イスラエル産など温帯プロポリスの抗癌主成分が CAPE (caffeic acid phenethyl ester) であることを突き止め、その化学合成にも成功している。その後の研究で、CAPE PAK遮断剤であることが判明した。

香港生まれ。1947年に名古屋大理学部を卒業。名古屋大助教授東北大教授などを経て、69年に米コロンビア大教授。朝日賞、恩賜(おんし)賞・日本学士院賞、キング・ファイサル国際賞などを受賞。2007年に文化勲章を受けた。

2019年3月30日土曜日

天然PAK遮断剤: 海草由来のフコイダン (硫酸化多糖類) と花椒エキス

褐色の海藻類 (昆布、わかめ、もずくなど) のネバネバ成分は、「フコイダン」と呼ばれる硫酸化した多糖類である。 これは寒天やこんにゃくと違って、胃腸から吸収されて、然るべき薬効 (例えば、抗癌や抗炎症など) を発揮する。古い話だが、豪州のメルボルン五輪 (1956) やローマ五輪 (1960) の水泳長距離 (自由形) で連勝したマレー=ローズは "菜食主義者"で、主に海藻から、その絶大なるスタミナを得ていたと言われている。

前述した詐欺師により通販されている「ブロリコ」(ブロッコーリー由来の多糖類) は、主に日本、韓国、米国で目下通販されているようだが、米国では、いわゆる「東大の権威」が通用せず、フコイダン通販業者から、「ブロリコは擬い品」で寒天同様、腸管を素通りするから薬理作用なし、と言う苦情が殺到している。

それでは、「フコイダン」には一体どんな薬理作用があるのだろうか?  この多糖は、100年以上昔 (1913年)、ウプサラ大学所属のスウェーデン人科学者 H・Z・キリン (H. Z. Kylin) によって発見され、1996年の日本癌学会で制癌作用が報告されて以来、健康食品として、プロポリスについで、一躍注目を浴びるようになった。

2002年にはフランスの科学者による研究で、分子量8,000程度の低分子フコイダンがウサギの血管内膜平滑筋細胞の過形成を抑制することが明らかとなった。フコイダンに関する研究論文は主として培養細胞または実験動物を使った基礎研究で、人間に対する臨床的な研究はほとんど発表されていない。癌細胞に対する効果のほか、炎症反応、免疫反応、感染症 (マラリア、流感、エイズなど)、認知症、脂質代謝、VEGF/PAK依存の血管新生などに対する効果が研究されている。

これら一連の薬理作用は、PAK遮断剤であるプロポリスなどの薬理作用と極めて良く一致するので、私自身は「フコイダンもPAK遮断剤の一種である」 と殆んど確信している。案の定、フコイダンがVEGF に直接結合して、VEGF によるPAK 活性化と (その逆、悪循環) を抑えることが 2, 3年前に判明していた。

余談になるが、ナマコ由来の粘々成分でPAK阻害剤「フロンドサイド A」 (FRA) は硫酸化したオリゴ糖が付加したトリテルペン (サポニン) の一種である。 非常に細胞透過性の高い抗癌剤として、開発されつつある。FRA は水溶性なので、大部分はナマコの煮汁に出てくる。煮汁は通常、石鹸の材料に使用される。ナマコ石鹸に「美白効果」があるのは、FRAなどのPAK阻害剤 (サポニン) による。

もう一つ、水溶性の天然PAK阻害剤を紹介しよう。山椒やその仲間である赤い実のなる四川産の "花椒"  由来のエキスである。山椒はウナギの蒲焼にかけるが、 花椒は胡椒と共に「マーバ豆腐」に使用する香辛料である。 もう10年以上も昔、我々の癌研究室で、山椒や花椒のエタノールエキスあるいは温湯 (45度以上) エキスに、(マウス実験で) すいぞう癌や乳癌などの増殖を抑えるPAK遮断剤が含まれることが発見された (1)。丁度同じ頃、高知大学の研究室からも、山椒エキスに抗癌作用があることが報告された (2)。我々の研究では、山椒エキスよりも花椒エキスの方が数倍、抗癌作用が強いことがわかった。花椒エキスは安価で、然も明らかに毒性がないので、癌やNF患者などに「台所で簡単に調製できるPAK遮断剤」として、奨励し始めた。

その後、ある養蜂家と相談して、花椒エキスとハニーをブレンドして、幼児にも飲みやすくして、商標「花水」として、市販せんとする直前、通販の溶液プロポリス (特にNZ産のBio 30) により強いPAK遮断作用であることが判明して、「花水」はとうとう市販化には至らなかった!  そんなわけで、花椒エキスのPAK阻害成分の同定研究も未完のままである。少なくとも、胃腸から吸収されない (毒にも益にもならぬ) 悪名高き通販「ブロリコ」よりも、ずっと (健康増進に) 実効果がある! 実は、私自身は「CAPE アレルギー」  (100人に一人以下!) なので、CAPEを含む Bio 30 などのプロポリスは飲めない。そこで、今でも、花椒を (プロポリス代わりに) ラーメンなどのスープに加えて、(健康長寿のために) 摂取している。


参考文献:
1. Hirokawa Y1, Nheu T, Grimm K, Mautner V, Maeda S, Yoshida M, Komiyama K, Maruta H. Sichuan pepper extracts block the PAK1/cyclin D1 pathway and the growth of NF1-deficient cancer xenograft in mice. Cancer Biol Ther. 2006 ;5(3):305-9.


2019年3月25日月曜日

東大の顔に泥を塗る (ペテン師の)「ブロリコ」商魂!

もう2年半昔になるが、ブロッコリーには「スルフォラファン」と呼ばれるPAK遮断剤が含れ、マスタード  (からし) などにより活性化されるという記事を紹介した。その後、特にオンラインのしつこい過大広告で、「ブロリコ」と称するイカサマ健康食品錠剤 (ブロッコリー製剤) が、東大の名を語らって、通販され始めた。さて、「驚きの健康パワーはプロポリスの1000倍以上」と名乗るブロリコの実体は、一体何だろうか?
 
2017年に発表された帝京大学の研究グループによる論文 (1) によれば、いわゆる「ブロリコ」は、ブロッコリーの煮汁 (120度で加熱滅菌後、凍結乾燥した物) である。 主成分は、多糖類で、肝心の「スルフォラファン」は水に不溶なので、殆んど含まれていない!  従って、マスターズによる効果はゼロ!  さて、この煮汁の健康パワー(いわゆる生得免疫増強作用) は、蚕の筋収縮で間接的に測定している。多糖類が蚕の体液に接触すると、サイトカインの一種 (麻痺ペプチド) が放出され、蚕の筋肉が収縮する。 しかし、この特殊なサイトカインは我々哺乳類には存在しない! 

さて、プロポリスは蜂の巣のエタノールエキスだから、多糖類を全く含んでおらず、蚕に投与しても筋収縮は全く起こらない はず (否、哺乳類に投与すれば、血管壁の平滑筋が弛緩して、血圧が下がる!) 。 そういうプロポリスと比べて、ブロリコはその収縮能が1000倍以上、という広告は、科学的にも医学的にも、全く意味のない「イカサマ」広告である。プロポリスには、我々哺乳類の(生得及び獲得) 免疫機能を増強する作用が実際にある。それは、そのPAK遮断作用による。 しかしながら、ブロッコリーの多糖類が哺乳類の免疫機能を増強するとか、癌の増殖を抑制するとかいう実験証拠は未だ全くない! 従って、「ブロリコ」中の多糖類に "健康パワー" があること自体、甚だ疑わしい。 ただし、霊芝の多糖類に抗癌作用があるという話は聞いたことがある。

不幸にして、2017年にブロッコリー由来の多糖類が炎症に関与するサイトカイン (IL-6 やTNF-alpha など) を哺乳類の貪食細胞 (マクロファージ) から分泌させることを、中国の研究グループが発見している (2)。 癌の増殖や炎症を抑えるプロポリスは、全く逆の反応を示す。従って、「ブロリコ」は炎症や癌の増殖を促進する「不健康な」食品という可能性が濃厚になった! 従って、私自身の解釈:  ブロッコリーの多糖類 (ブロリコ) は、蚕に対して緩慢な毒性 (筋収縮) を示し、その"毒性"はプロポリスの1000倍以上である。 ブロリコの毒性は哺乳類では、少なくとも "炎症" を伴うはず。

ブロリコの通販を大々的にしきっているのは、「イマジン=グローバル=ケアKKの代表、木下弘貴 (東大医学系保健学博士?) なる人物である。

ことわっておくが、この人物は (天下の難関) 東大医学部 (理3) の卒業生ではない!  医学系大学院の保健学科に編入してきた「元調剤薬局の経営者」(自身は薬剤師免許をもっていない!) である。 従って、科学や医学に関しては、「ズブの素人」である。 そんな人物が東大医学系大学院の入試に合格したとは、信じがたい。

大学院で一体何をしていたのか、全く不明 (この人物が発表したブロッコリーに関する研究は「PUBMED」で検索する限り皆無!) だが、一つだけはっきりしていることは、東大薬学部の「蚕研究グループ」と産学共同研究 (恐らく、この会社が研究助成金を出資) 後、2008年頃にブロリコ (実は、野菜一般の加熱抽出法) に関する特許を共同で申請、(異例にも)  数年を要して、2014年に認可されたという事実である。

さて、この会社から最近取り寄せた資料によると、2012年にブロリコに関する小規模な臨床テスト (フェーズ1、 毒性検査) 結果が、「薬理と治療」という雑誌に掲載されていた。著者は木下弘貴 (東大医学系大学院公衆衛生科) 、小方康至、木下徹 (イマジングローバルケア)、西村潤一 (阪大医学系大学院消化器外科) の4名。被検者は合計20名の健康者 (男性8名、女性12名) で、4週間にわたって、毎日ブロリコ 500 mgを経口投与。論文の結論には、「自然免疫ふ活作用あり」と記載されているが、実際のデータをみると、どの測定値も標準偏差が大き過ぎて、投与前と投与後との間に(科学的にみて) 有意差は全く認められない。従って、私自身の結論は、純水同様「毒性はないが、薬理作用もない」!  恐らく、「寒天 (多糖類) のごとく、胃腸から吸収されず、そのまま排泄された」と私は推測している。蚕の実験では、検体を体内に注射したので、その薬理作用 (筋収縮) が観察された。 更に、この臨床テストの「担当医」が、地元の東大医学部勤務ではなく、「阪大医学部勤務である」のも、非常に「不自然」である。。。会社に問い合わせところ、ブロリコ錠剤18個が、臨床に投与した 500 mg に相当するそうである。従って、お勧めの「毎日3錠」とは、臨床テストの投与量の僅か6分の1 に過ぎない。 全く何の効果も期待できない! 

案の定、「蚕研究」グループ (東大薬学部) は、ブロリコに関する過大イカサマ広告にフンザリして、木下氏とは絶縁したと聞いている。 私の見解では、イカサマ師 「キノシタ」は暴利を求めて、これまで「自らの墓穴を掘り続けてきた」が、彼にもそろそろ「年貢の納め時」が来たようだ!  奢るもの久しからず」

ブロリコの最新チラシによれば、今までに200万個 (単価 6千円) 以上の売り上げ、つまり総額「120億円」を越える大金を我々消費者から騙し取ってきた刑務所に即、ぶち込むべき! 

参考文献:

Structural analysis of an innate immunostimulant from broccoli, Brassica oleracea var. italica. Drug Discov Ther. 2017 ;11(5):230-237.

2. Chen ZE1, Wufuer R1, Ji JH2, Li JF3, Cheng YF1, Dong CX4, Taoerdahong H1. Structural Characterization and Immunostimulatory Activity of Polysaccharides from Brassica rapa L.  J Agric Food Chem. 2017 Nov 8;65(44):9685-9692.