最近、意外な史実 (灯台もと暗し) を発掘! 実は、ビタミンD3 の抗癌作用を、結腸癌を移植した動物 (マウス) 実験で初めて証明したのは、1987年の昔、豪州メルボルン郊外にあるモナッシュ大学の研究グループだった (2)。投与量は、毎日 5 micro g/kg (腹腔注射) で、「カルシウム過剰症状」を未然に防ぐため、「低カルシウム餌」を与えている。なお、D3受容体 (VDR) が欠乏しているメラノーマでは、抗癌作用が検出されなかった。 皮肉にも、この翌年、私は (D3 の抗癌作用に無知のまま) 米国カルフォルニアから豪州メルボルンに永住し、癌研究所に勤務し始めた。実は、1987年前後に、世界的な発見がいくつか米国 (カルフォルニア) や豪州 (メルボルン)で成された。初の抗癌遺伝子 (RB) や RAS GAP (GTPase Activating Protein) の発見、PCR (Polymerase Chain Reaction), GST融合による蛋白精製法などの発明ラッシュの影に、"D3 に関する発見" は埋没してしまった感がある。少なくとも私自身の意識では、「元号」の変更に伴い、30年以上の歳月を隔てて、ようやく「昭和末期」の遺跡が再掘されるという結果になった。
特筆すべきは、ビタミン D3 の24位を水酸化することによって、D3 を不活化する酵素 (CYP24) が存在し、この遺伝子の変異により、酵素が異常に活性化すると、癌や骨多孔症が発生し易くなる。。。従って、理論的には、D3 と CYP24 阻害剤を併用すれば、D3 の薬効が増強されるはず。しかしながら、効果的なCYP24 阻害剤 (CTA 091, IC50=10 nM etc) は未だ (臨床向けには) 市販されていない。さて、CYP24 遺伝子の発現にはPAK が必須らしい。従って、取り敢えず、D3 にプロポリスを併用して、CYP24の発現を抑え、D3 をより効果的にできるはず。実際、D3 とRAC/PAK 阻害剤とは、アクチン線維の解離に相乗効果を示す。従って、この「アクチン線維の解離」が癌の増殖抑制に直結すれば、極めて面白い。因みに我々は、過去に「アクチン線維の解離」を促進する薬剤で、癌細胞の増殖を選択的に抑制することに成功している。
驚くなかれ、10年ほど昔、我々の後輩 (東大薬学出身で) 帝京大薬学教授の橘高敦史(きったか あつし)研究室で開発された D3 の誘導体 (Mart-10) が、D3 よりずっと (約千倍) 抗癌作用が強いことが、米国ボストン大学の研究グループによって発見された (3)。 この誘導体は、CYP24 によって代謝され難いのが特徴! ただし、Mart-10 に関するUS 特許がようやく認可されたのが2015年で、10年後の2029年には、特許の期限が切れるはず。未だ臨床テストも始まっていないようなので、市販されるかどうか、前途多難。。。
そこで、来る5月21日 (火) の午後3時から、帝京大学薬学部 (板橋キャンパス、JR埼京線「十条」駅から徒歩10分)で 、PAK遮断剤に関する私のセミナーの折、Mart-10/15K の市販をめざす "臨床テスト" 作戦について、お互いに知恵を絞って相談し合う予定。幸い、2016年の論文によれば、Mart-10がD3 同様、アクチン線維の解離 (つまりPAKを遮断) することが、台湾の研究グループにより証明されていた (4)!
もうひとつ、身近かな食物に含れるビタミンで、PAK遮断作用を持つものがある。納豆に含れる ビタミン K2 (特に、メナキノン 7) である。ノルウエーの首都オスロにある会社では、 メナキノン 7 を錠剤にして、骨多孔症の治療用に通販している。 日本でも、商標「金のつぶ、ほね元気」なる納豆 (ミツカン) は、ビタミン K2 の含量が普通の納豆より2倍あり、骨がもろくなった老人向けの健康補助食品 (トクホ) として、販売されている。 私の大学時代の同窓で、昭和大学薬学部で長らく助手をしていた今津敏子博士らによると、少なくとも細胞培養系で、メナキノン 7 が卵巣癌やスイゾウ癌の増殖を抑えるそうである (5)。 従って、納豆が癌の予防にも友効であると予想される。
目下、我々がニューヨーク近郊に開催を計画中の「史上初のPAK国際シンポジウム」(10月5-6日) の予告も兼ねて、橘高敦史教授と共著で、雑誌 "Science" (Signaling) 宛に、「Anti-PAK1 Therapy of Diverse Signaling Diseases to Promote the Longevity」と題する短報 (Letter) を投稿予定。丁度25年前に、シンガポールの英国人 Ed Manser 博士が、「NATURE」 誌に、哺乳類から初めてPAKを発見した報告を発表したのを記念して、病原キナーゼ "PAK" を遮断する薬剤 (例えば、我々が最近開発した15K や MART-10 など) による「難病の治療」が、いよいよ可能になりつつあることを予告するためでもある。 15K やMART-10 の存在を世界中に知らしめ、大手製薬会社からの財政的援助によって、先ず (スイゾウ) 癌患者を対照にした「臨床テスト」をできるだけ早期に開始できる地盤を構築するためである。 要は、"難病に苦しむ多くの患者たちのため" である! 発明とは、実用化 (市販) されなければ、殆んど意味がない! 「毒にも薬にもならぬ」イカサマ健康食品 (ブロリコ) が120億円以上の売り上げをむさぼりながら、世間に横行している! できるだけ早く「 悪貨を良貨で駆逐する」する必要がある。
参考文献:
1α,25(OH)2D3 Induces Actin Depolymerization in
Endometrial Carcinoma Cells by Targeting RAC1 and PAK1. Cell Physiol
Biochem. 2016; 40(6):1455-1464.
2. Eisman JA, Barkla DH, Tutton PJ. Suppression of in vivo growth of human cancer solid tumor xenografts by 1,25-dihydroxyvitamin D3. Cancer Res. 1987 ;47(1):21-5.
3. Flanagan JN, Zheng S, Chiang KC, Kittaka A, Sakaki T, Nakabayashi S, Zhao X, Spanjaard RA, Persons KS, Mathieu JS, Holick MF, Chen TC. Evaluation of 19-nor-2alpha-(3-hydroxypropyl)-1alpha,25-dihydroxyvitamin D3 as a therapeutic agent for androgen-dependent prostate cancer. Anticancer Res. 2009; 29(9):3547-53.
2. Eisman JA, Barkla DH, Tutton PJ. Suppression of in vivo growth of human cancer solid tumor xenografts by 1,25-dihydroxyvitamin D3. Cancer Res. 1987 ;47(1):21-5.
3. Flanagan JN, Zheng S, Chiang KC, Kittaka A, Sakaki T, Nakabayashi S, Zhao X, Spanjaard RA, Persons KS, Mathieu JS, Holick MF, Chen TC. Evaluation of 19-nor-2alpha-(3-hydroxypropyl)-1alpha,25-dihydroxyvitamin D3 as a therapeutic agent for androgen-dependent prostate cancer. Anticancer Res. 2009; 29(9):3547-53.
4. Chiang KC1,
Yeh TS2,
Chen SC3,
Pang JH4,
Yeh CN5,
Hsu JT6,
Chen LW7,
Kuo SF8,
Takano M9,
Kittaka A10,
Chen TC11,
Sun CC12,
Juang HH13,14.
The Vitamin D
Analog, MART-10, Attenuates Triple Negative Breast Cancer Cells Metastatic
Potential. Int J Mol Sci. 2016 ;17(4).
pii: E606.
5. Sibayama-Imazu T, Fujisawa Y, Masuda Y, Aiuchi T, Nakajo S, Itabe H, Nakaya K.
5. Sibayama-Imazu T, Fujisawa Y, Masuda Y, Aiuchi T, Nakajo S, Itabe H, Nakaya K.
Induction of apoptosis in PA-1 ovarian cancer cells
by vitamin K2 is associated with an increase in the level of TR3/Nur77 and its
accumulation in mitochondria and nuclei. J Cancer Res
Clin Oncol. 2008 ;134 (7):803-12.
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