2020年6月24日水曜日

ザクロやイチゴなど真っ赤な果実は腸内で代謝されて、
PAK 遮断剤 "Urolithin" が生成!

3年ほど前、台湾国立大学のグループがザクロやイチゴなどに含まれるEllagic Acid が腸内細菌によって代謝され、ポリフェノール "Urolithin" を生成し、最終的にメラニン色素の合成を抑える (美白作用を発揮する) という報告を発表した (1)。
さて、我々は数年前に、メラニン合成には、PAKが必須であることを、遺伝学的に証明した (2)。そこで、Urolithin にPAK 遮断作用がある可能性が浮上してきた。実際、ドイツのチュービンゲン大学病院の研究グループらによって、Urolithin  がPAKを遮断する (IC50=10 micro M) ことが、ごく最近証明された (3)。

この研究班のヘッドは英国出身の若い女医 (Dr. Mady Salker) であるが、(奇跡のホルモン) 「メラトニン」が実際に "PAKを遮断する" ことを実証すると共に#、メラトニンの代謝産物で、メラトニンより数千倍も抗癌作用を示すに違いない「新規物質」を同定するという、極めて野心的なプロジェクトを、我々と共に目下検討中である。。。

松果腺ホルモン「メラトニン」の歴史を紐解くと、大変面白い!  実は1917年に牛の松果腺をすりつぶして、水槽のオタマジャクシに餌としてやったところ、30分以内に、オタマジャクシの皮膚が無色透明になり、心臓や胃腸が透き通って見えるようになった!  その後40年経って、エール大学の学者によって、松果腺から分泌される微量のホルモン「メラトニン」(セロトニンの誘導体) がメラニン合成を抑える (美白作用を発揮する) ことが証明された。100年後 (2017年になって)、我々はメラニン合成には、PAKが必須であることを突き止め、メラトニンが「PAK遮断ホルモン」であることを提唱しつつある。

さて、2、3年前、メラトニンの誘導体で、2位にハロゲン (Br や  I) やベンゼン環が付加したもの (UCM 1037 etc) がイタリアのミラノ大学で合成され、メラトニンより10倍近く抗癌性が高いことが判明した (4)。 実は、お米でもメラトニン (MEL) の2位が水酸化したものが生合成され、MEL より多少、抗癌性が高い。

MEL には、催眠以外に抗癌や抗炎など色々な薬効があるが、細胞培養系では、抗癌IC50 は極めて高く (1-2 milli M) で、1-2 micro M では、効果が全く見られない。ところが、マクロファージの細胞培養実験では、1-2 micro M でも、COX-2 発現に顕著な阻害が見られる (5)!   ということは、これらのRAS 癌細胞には、MEL に対する敏感な受容体 (MT1 and MT2) が少ない、という可能性が高い。面白いことには、ビタミン D3 の受容体もRAS 癌では、燐酸化され、D3 に対する結合性が弱まることが知られており、D3 とMEL を併用すると、相乗効果が見られる。 

#Note: 
Although Melatonin (MEL) has not been directly shown as yet to block PAK1, the following observation (by a Taipei group) strongly suggests (almost guarantees) that MEL is a PAK1-blocker, because PTEN inactivates PAK1 which suppresses p21 gene expression:
Po-Han Lin, Yen-Ting Tung, Hsin-Yuan Chen et al. Melatonin Activates Cell Death Programs for the Suppression of Uterine Leiomyoma Cell Proliferation. J Pineal Res. 2020 Jan; 68(1):e12620.  
Growth of uterine leiomyoma ELT3 cells was reduced by treatment with melatonin. Melatonin exerts a highly selective effect on primary normal human uterine smooth muscle (UtSMC) cells. The UtSMC cell cycle was arrested by melatonin treatment through up-regulation of p21, p27, and PTEN protein expression.
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/epdf/10.1111/jpi.12620
 
A few years ago other Chinese group has shown that MEL suppresses PD-L1 expression which requires PAK1:

メラトニンあるいは誘導体 (UCM1037) を「腸内細菌で」発酵させる?  
Yeong Byeon, Kyoungwhan Back
Melatonin (MEL) Production in Escherichia Coli by Dual Expression of Serotonin N-acetyltransferase and Caffeic Acid O-methyltransferase. Appl Microbiol Biotechnol. 2016;100: 6683-6691.
Does E. coli metabolize MEL further to boost its anti-cancer/anti-PAK1 activity ? 

Regarding the possibility of metabolizing (activating) MEL by E. coli, the above 2019 article on the effect of MEL on the lifespan of C. elegans hints the possibility. In this experiment, the worms were fed with bacteria cultured in the presence of various concentrations of MEL, and the minimum concentration of MEL (25 mg/L=110 micro M) is able to extend their lifespan by 30% at least. This concentration is less than 1/10 of IC50 (1-2 m M) for its anti-cancer activity without E. coli.  
参考文献: 
1.Wang ST , Chang WC, Hsu C , Su NW. Anti-melanogenic Effect of Urolithin A and Urolithin B, the Colonic Metabolites of Ellagic Acid, in B16 Melanoma Cells.  J Agric Food Chem. 2017; 65: 6870-6876.
2.Be Tu PT, Nguyen BC, Tawata S, Yun CY, Kim EG, Maruta H. The serum/PDGF-dependent "melanogenic" role of the minute level of the oncogenic kinase PAK1 in melanoma cells proven by the highly sensitive kinase assay. Drug Discov Ther. 2017;10: 314-322.
3. Alauddin Md , Okumura T, Rajaxavier J. et al. Gut Bacterial Metabolite Urolithin A Decreases Actin Polymerization and Migration in Cancer Cells. Mol Nutr Food Res. 2020 Apr; 64 (7):e1900390.
4. Gatti G, Lucini V, Dugnani S, et al. Antiproliferative and pro-apoptotic activity of melatonin analogues on melanoma and breast cancer cells. Oncotarget. 2017; 8: 68338-68353.
5. Murakami Y, Yuhara K, Takada N, et al. Effect of melatonin on cyclooxygenase-2 expression and nuclear factor-kappa B activation in RAW264.7 macrophage-like cells stimulated with fimbriae of Porphyromonas gingivalis. In Vivo. 2011; 25: 641-7.

2020年6月23日火曜日

開拓者の歩む道: 自分自身の「エベレスト」を探せ!

エベレストとは、世界最高峰のエベレスト山 (海抜8850 m) を指す。 インド測量局 (Survey of India) 長官を務めたジョージ・エベレストにちなんで命名。

1920年代から長きにわたる挑戦の末、1953年5月末に英国探検隊のメンバーでニュージーランド出身のエドモンド・ヒラリーとネパール出身のシェルパであるテンジン・ノルゲイによって初登頂がなされた。エベレストの標高については諸説あり、1954年にインド測量局が周辺12か所で測定し、その結果を平均して得られた8,848mという数値が長年一般に認められてきた。1999年、全米地理学協会はGPSによる測定値が8,850 m だったと発表。

さて、ヒラリー=テンジン組が初登頂に成功した時、私は10歳、小学4年で、集団小児結核の蔓延のため、学校を一時休学して自宅療養していた。アマチュア登山家の父が「エベレスト征服」を伝える新聞記事を私に見せながら、こう言った。 「エベレストは、もはや前人未踏の山ではなくなった! 自分自身のエベレスト (前人未踏の標的) を見つけよ!」。 以来、私自身のユニークな「標的探し」が始まった。 結核は幸い、特効薬「PAS」の御蔭で、全快し、9月から復学が許された。

大学入試前の夏休みに、神田の古本屋で、「化学療法の父」といわれているパウル=エーリッヒの伝記を見つけて、感銘した。梅毒に対する特効薬 (魔法の弾丸)「サルバルサン」(606) を1909年に開発したユダヤ系のドイツ人病理学者である。サルバルサンは2種類の異なる作用を持つ化合物 (アニリン色素とヒ素) を結合させた (言わば、芸術的な) 作品である。このアニリン色素は梅毒菌に特異的に結合する化合物であり、毒性のあるヒ素を利用して、(副作用無しに) 梅毒菌だけを選択的に殺す作用を持つ。

彼は若い頃、ベルリン大学病院で医師として勤務していたが、趣味として、様々な色素を使用して、組織染色法を開発しつつあった。ロベルト=コッホが結核菌を発見した直後、その発表会に出席して、組織染色法で結核菌も染色しうることを提言した。しかし、その学会が勤務時間中だったので、こっそり学会に出席したはずの彼は、同じ学会に臨席していた (石頭の) 病院長から解雇された。そこで、自宅の研究室で研究を続けたが、 (この染色法開発中に) 彼自身が結核に感染し、エジプトで療養せざるを得なくなる苦い体験を積んだ後、幸いにも、コッホ研究所から研究職を与えられる。更に、皮肉なことには、このエジプト療養中の体験から彼が導き出した「免疫の (鍵と鍵穴) 理論」が、彼に与えられたノーベル医学賞 (1908年) の対照になった! 不運が逆に幸運に転じたわけである!  詳しくは、1940年製作のMGM (白黒) 映画「Dr. Ehrlich's Magic Bullet」を観賞されたし。
 
私が選んだ最初の 「エベレスト」は、癌に対する「魔法の弾丸」だった!  そこで、「画家」志望を諦めて、「薬学」進学に人生航路を「180度」修正した。私の院生時代、大学では、何故か「癌の免疫療法」という研究がはやっていた。しかしながら、私には余り魅力が感じられなかった。それに、他人の尻を追うのは、私の趣味 (前人未踏) ではなかった。 特に、癌細胞と正常細胞との間の "本質的な違い" が不明のままだった。 そこで、全く別のアプローチを試みた。

薬学博士を取得してから、一年だけ助手を務めた後、幸い渡米留学のチャンス (米国NIH から奨学金) が得られた。 そこで、どこの大学に行くかの選択に、登山とアメーバ研究ができる研究室を先ず選んだ。ロッキー山麓のコロラド大学 (ボールダー校、海抜1600 m) に的を絞った。丁度そのころ、太田次郎 (お茶の水大学教授) 著「アメーバ: 生命の原型を探る」が、NHKブックスからが出版された。その本に、大小様々なアメーバに 関する研究が紹介されていた。ボールダーでは、巨大アメーバを使用して、(顕微鏡下で) 核の移植が可能だった。  そこで、偶然にも、山岳作家「新田次郎」の息子で、数学者の藤原正彦 (後に御茶ノ水大学教授) に出会った。 のちに、彼はボールダーでの体験を「若き数学者のアメリカ」という本にして出版、ベストセラーになったそうだ。 私は一年間で目的の研究を完成し、東海岸にあるワシントン郊外のNIHに移る直前に、念願のロングス=ピーク(ロッキー山脈の最高峰、海抜 4340 m) の登頂を、親友サンチェス (Law School の院生) と果たした。

いよいよ、憧れのNIHで、別の土壌アメーバを利用して、 "前人未踏"の快挙を見事に成し遂げる!  アメーバのミオシンを燐酸化する (後に「PAK」 と命名される) 酵素 (キナーゼ) を発見する。それから17年後に、我々哺乳類にも、同じようなキナーゼ (PAK) が存在することが判明した!  その17年間、私は、別のアメーバを利用して、様々な "冒険" (武者修行) を楽しんだ。先ず、西独ミュンヘンにあるマックスプランク研究所に移り、真生粘菌 (Physarum) と呼ばれるアメーバから、アクチンを燐酸化けする珍しいキナーゼを発見する。この "AFキナーゼ" は,  奇妙なことには、アクチン (A) がフラグミン (F) と呼ばれる別の蛋白と結合している時だけ、燐酸化する。 残念ながら、哺乳類には、同類のキナーゼが未だ発見されていないので、研究はそれきりになっている。次に、エール大学で、クラミドモナスという緑藻菌の鞭毛にある微小管チューブリンをアセチル化する酵素を発見する。 この酵素は哺乳類にも存在し、発癌性であり、PAKをアセチル化 (活性化) することがごく最近、判明した。

30年以上昔、豪州メルボルンの癌研に私が転勤してから間もなく、シンガポールの英国人エドワード=マンサーが哺乳類にPAKを見つけたという情報を得るや、哺乳類におけるPAKの役割を見つける研究が開始された。 先ず、「発癌性」があることが判明した! 厳密に言えば、癌細胞 (特に固形腫瘍) の増殖にはPAKが必須であるが、正常細胞の増殖には不要である!いいかえれば、PAKを遮断すれば、(副作用無しに) 癌を治療しうる (PAK 遮断剤は、癌に対する「魔法の弾丸」)!  それ以来、一連の遮断剤を同定あるいは開発する研究が世界中で始まった!  我々は「PAK研究の草分け」として、もちろん、PAK遮断剤の開発研究の先頭を常に歩んできた。今日では、PAK遮断剤は、癌ばかりではなく、COVID-19を含めて種々のウイルス感染や、その他様々な難病の治療に役立つことが実証されている。(紆余曲折したが)  亡父の残した貴重な言葉「自分自身のエベレストを探せ!」を遂に達成し得た! 

開拓者による冒険自身は、本人の自己満足に過ぎないが、それが人類の福祉向上あるいは進化への一助になれば、その喜びは倍加する。。。。
 
詩人/画家 「高村光太郎」が残した「道程」と題する有名な言葉::
「僕の前には道はない。僕の後ろに道はできる」

2020年6月19日金曜日

アロマ療法: 「沈丁花」(Daphna odora) の香り成分 は PAK 遮断剤!

豪州メルボルンでは、もう真冬であるが、買物の途中にある住宅地で、突然、懐かしい花の香りが漂ってきた。 その昔 (半世紀以上前) 、東京の自宅の庭にひと株、咲いていた「沈丁花」の香りである。花の名前は、直ぐ "漢字"で出てこなかったが、花のイメージは瞬間的に頭に浮かんだ!  ("免疫"の記憶と共に) 臭覚の記憶とは、素晴らしいものである。(人名など) 色々な記憶力は歳をとると共に、急速に衰えるのに、嗅覚や味覚 (お袋の作った味噌汁の味など) と言う、いわゆる「原始的な記憶」は全く衰えない!   不思議なものである。 恐らく、臭覚や味覚は、(荒野や山地に住む) 野生動物 (熊、鹿、狼など) や遊牧民族などにとっては、危険を一瞬に察知するための「死活」に関わる感覚なのだろう。しかしながら、COVID-19 などのウイルス感染により、嗅覚や味覚が麻痺する不幸なケースが多い!

さて、沈丁花の香り成分は、正確には100種を越えるそうであるが、主な成分は、リナロール (Linalool) とダフネチン (Daphnetin) # だそうである。 驚くなかれ、両方とも「PAK遮断剤」である。 沈丁花の香りに鎮静作用や、更に抗癌、抗炎症作用などがあるのは、そのためである。胃潰瘍に効くのは、ピロリ菌の増殖を 抑える作用があるからである。 従って、理論的には、COVID-19 対策にもなるはずである。。。

沈丁花の花ビラを塩漬けにして瓶詰め (モイストポプリ) にすると、その香りを何十年でも保存することができるそうである。。。

https://lourand.com/magazine/moist-potpourri/

今日は天気が良いので、久し振りに  バスで遠出して、市外にある苗木市場で沈丁花の鉢植えを入手してきた。実は「沈丁花」は亡父が生前大事にしていた庭木の一つだった。しかし、私の渡米後、家の増築のため、庭木 (梅、栗、アカシア、ヒマラヤ杉 など) は殆んど全部、姿を消した。今は、沈丁花の代わりに、(妹が育てた) ニオイバンマツリ (American Jasmin) のみが、陽当りの良い庭先で、すくすく伸びている。二代目 (豪州育ち) の沈丁花が少し大きくなったら、こちらの自宅の庭に植林して、「父の思い出」としたい。 花が咲いたら、"モイストポプリ" も試みてみるつもりである。  

脳疾患のアロマ療法 ("常識" の延長):

 文献 (鳥取大学より):
Daiki Jimbo, Yuki Kimura, Miyako Taniguchi, Masashi Inoue, Katsuya Urakami
Effect of Aromatherapy on Patients With Alzheimer's Disease. Psychogeriatrics. 2009; 9 :173-179.
臭覚の刺激は瞬時に直接中枢神経に伝わるので、経口で薬剤を投与するよりも、脳内への効果がずっと速い。そこで、香りの高い (主に、副交感神経を刺激する) 薬草の精油を利用したアロマテラピー (Aromatherapy) が、認知症 (AD) 患者などの代替療法として、利用されている。10年ほど昔、鳥取大学のグループが、28名の患者 (内17名が認知症患者) を対象として、朝に "ローズマリー" の精油 (PAK 遮断剤 Ursolic Acidを含む)、夕方に "ラベンダー"の精油 (PAK 遮断剤 Linalool を含む) で治療したところ、一か月後に、認知能が有意に改善されたという。 面白いことには、AD はNF 同様、PAK依存性の典型的な難病である。従って、「水平思考」により、これ (モイストポプリetc) を他の脳疾患、例えば "NF2 腫瘍" に応用できないだろうか? 更に、NF1 腫瘍 (いわゆる「ブク」) の精油マッサージ療法も試す価値があるかと思う。

なお、"沈丁花"の精油 (上記の精油 と違って) 市販されていない (商業的に無理な) ので、残念ながら 「モイストポプリ」に頼る外ない!

#ダフネチンはクマリンの誘導体で、プロポリス中の CAPE と化学構造が多少似ている。