2017年4月23日日曜日

鎮痛剤 (ケトロラック) 由来の新規PAK遮断剤 (15K) :
線虫の健康寿命を驚異的に延ばす!

" 線虫を使って、(大腸) 癌の診断は可能だろうが、それだけでは、癌は治らない。
最も必要なのは、見つけた癌を (副作用なしに治しうる) 特効薬の開発である!"
 
我々は数年前に、線虫 (C.elegans) を研究材料に使って、悪玉酵素 「PAK」 の健康寿命に対する作用を究明するために、PAK遺伝子が欠損しているミュータント(RB689) と野生株との間に、平均寿命の差があるかどうか、検討した結果、PAK欠損株は、野生株より6割も長生きすることを突き止めた (1)。  更に、最近になって、PAKを直接阻害する作用のある沖縄産プロポリス(OP) が、線虫の健康寿命を有意に延ばすことも実証した (2)。

さて、天然ではなく (人工的に) 合成した化合物  (PAK遮断剤) で、線虫の平均寿命をハッキリ延ばしうるものは、一体存在するのだろうか?   我々はこの疑問に挑戦すべく、非常に強力なPAK遮断剤 (15K) を、合成鎮痛剤 (ケトロラック) から合成に成功して、併せて国内特許も獲得した (3)。  15K の抗癌作用は、前述したが、ケトロラックの 500-5000倍に達する (癌細胞の種類による) 。 抗癌作用の著しい増加は、主に、その細胞透過性の飛躍的な向上にある。 まず、我々はニワトリの受精卵を研究材料に使って、 15K (1 n mol/egg) が見事に (PAK依存性の) 血管新生を強力に抑制することを確かめた(4)。 つまり、細胞培養系ばかりではなく、多細胞からなる個体でも、その薬理作用が十分に発揮されることを実証した。 全ての固形腫瘍の増殖には、血管新生が必須である。 従って、血管新生を抑えれば、固形腫瘍の増殖も抑えうる。

そこで、ごく最近、線虫を研究材料に使って、15Kの健康寿命に対する効果を調べてみた (5)。 マウスや線虫などの小動物では一般に、健康寿命と出産能との間に逆比例関係がある。つまり、長生きの動物は少子化し、逆に、子沢山は短命に終わる。 実際に、長生きのPAK欠損株は、産卵数が野生株の7分の1 に激減する (1)。 そこで、先ず、15K (50-100 nM)で処理した線虫の産卵数を測定してみた。 無処理に比べて、産卵数が著しく (3-4割) に減少した (5)。 明らかに、15Kが線虫のPAKを阻害していることが分かる。

さて、線虫の 熱ショック蛋白 (特にHSP16 ) 遺伝子を活性化すると、健康寿命が延びるということが良く知られている。 この遺伝子のプロモーターにGFP遺伝子を融合させた特殊な線虫株 (CL2070) では、このプロモーターが活性化すると、GFP が大量生産され、透明な線虫が緑色の蛍光に輝く。 このプロモーターは通常、PAKによって抑制されている。従って、PAKが抑制/遮断された場合に限り、緑の蛍光が輝く。 案の定、15K (50-100 nM) で処理されたCL2070株は、熱ショックの直後、緑の蛍光に輝いた(5)!   つまり、15Kは線虫のPAKを抑制して、熱ショック蛋白を大量合成して、「長生き」 を誘導しているに違いない。

実際、15K (50 nM) 処理により、線虫の健康寿命は有意に (30%) 伸びた (5)!  いいかえれば、この強力な抗癌剤 (15K) には、「副作用がないどころか、健康長寿にも大いに役立つ」という結論が導れそうである。

最後に一つ強調しておきたいことがある。 数年前に、温帯地方で取れるプロポリスの主要抗癌成分であるCAPE (100 microM) が線虫の寿命を15% ほど延長するという結果がドイツの研究グループによって報告された (6)。 15K は、CAPEの濃度の2000分の1で、それ以上の「健康長寿」 効果を発揮した!  こんな低濃度 (微量)で、線虫の寿命を延ばしたという例は、未だかつて歴史上にない。 「前代未聞の驚異」である! 


参考文献: 


  1. Yanase S, Luo Y, Maruta H. PAK1-deficiency/down-regulation reduces brood size, activates HSP16.2 gene and extends lifespan in Caenorhabditis elegans. Drug Discov. Ther. 2013, 7, 2935.
  2. Taira N, Nguyen BC, Be Tu PT, Tawata S. Effect of Okinawa Propolis on PAK1 activity, C. elegans Longevity, Melanogenesis, and Growth of Cancer Cells. J Agric Food Chem. 201664, 5484-9.
  3. Nguyen BC, Takahashi H, Uto Y, Shahinozzaman MD, Tawata S, Maruta H. 1,2,3-Triazolyl ester of Ketorolac: a “Click Chemistry”-based highly potent PAK1- blocking cancer-killer. Eur. J. Med. Chem, 2017, 126, 270-6. 
  4. Ahn MR, Bae JYJeong DH, Nguyen BC, Takahashi H, Uto Y, Tawata S, Maruta H. Triazolyl ester of Ketorolac (15K), a novel potent PAK1-blocker, and YM155, a potent survivin-suppressor, inhibit the embryonic angiogenesis in ovo (fertilized eggs) via their common PAK1-survivin signaling pathway. 2017, Submitted, 
  5.  BC Nguyen, H. Takahashi, Y Uto, N. Taira, S. Tawata, H Maruta. The potent synthetic elixir (15K) from an old pain-killer (ketorolac): reducing brood size, inducing HSP16 gene, and extending the lifespan of C. elegans by blocking PAK1. 2017, Submitted, 
  6.  Havermann S, Chovolou Y, Humpf HU, Wätjen W. Caffeic acid phenethylester increases stress resistance and enhances lifespan in Caenorhabditis elegans by modulation of the insulin-like DAF-16 signalling pathway. PLoS One. 2014 ; 9: e100256.

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