最も必要なのは、見つけた癌を (副作用なしに治しうる) 特効薬の開発である!"
我々は数年前に、線虫 (C.elegans) を研究材料に使って、悪玉酵素 「PAK」 の健康寿命に対する作用を究明するために、PAK遺伝子が欠損しているミュータント(RB689) と野生株との間に、平均寿命の差があるかどうか、検討した結果、PAK欠損株は、野生株より6割も長生きすることを突き止めた (1)。 更に、最近になって、PAKを直接阻害する作用のある沖縄産プロポリス(OP) が、線虫の健康寿命を有意に延ばすことも実証した (2)。
さて、天然ではなく (人工的に) 合成した化合物 (PAK遮断剤) で、線虫の平均寿命をハッキリ延ばしうるものは、一体存在するのだろうか? 我々はこの疑問に挑戦すべく、非常に強力なPAK遮断剤 (15K) を、合成鎮痛剤 (ケトロラック) から合成に成功して、併せて国内特許も獲得した (3)。 15K の抗癌作用は、前述したが、ケトロラックの 500-5000倍に達する (癌細胞の種類による) 。 抗癌作用の著しい増加は、主に、その細胞透過性の飛躍的な向上にある。 まず、我々はニワトリの受精卵を研究材料に使って、 15K (1 n mol/egg) が見事に (PAK依存性の) 血管新生を強力に抑制することを確かめた(4)。 つまり、細胞培養系ばかりではなく、多細胞からなる個体でも、その薬理作用が十分に発揮されることを実証した。 全ての固形腫瘍の増殖には、血管新生が必須である。 従って、血管新生を抑えれば、固形腫瘍の増殖も抑えうる。
そこで、ごく最近、線虫を研究材料に使って、15Kの健康寿命に対する効果を調べてみた (5)。 マウスや線虫などの小動物では一般に、健康寿命と出産能との間に逆比例関係がある。つまり、長生きの動物は少子化し、逆に、子沢山は短命に終わる。 実際に、長生きのPAK欠損株は、産卵数が野生株の7分の1 に激減する (1)。 そこで、先ず、15K (50-100 nM)で処理した線虫の産卵数を測定してみた。 無処理に比べて、産卵数が著しく (3-4割) に減少した (5)。 明らかに、15Kが線虫のPAKを阻害していることが分かる。
さて、線虫の 熱ショック蛋白 (特にHSP16 ) 遺伝子を活性化すると、健康寿命が延びるということが良く知られている。 この遺伝子のプロモーターにGFP遺伝子を融合させた特殊な線虫株 (CL2070) では、このプロモーターが活性化すると、GFP が大量生産され、透明な線虫が緑色の蛍光に輝く。 このプロモーターは通常、PAKによって抑制されている。従って、PAKが抑制/遮断された場合に限り、緑の蛍光が輝く。 案の定、15K (50-100 nM) で処理されたCL2070株は、熱ショックの直後、緑の蛍光に輝いた(5)! つまり、15Kは線虫のPAKを抑制して、熱ショック蛋白を大量合成して、「長生き」 を誘導しているに違いない。
実際、15K (50 nM) 処理により、線虫の健康寿命は有意に (30%) 伸びた (5)! いいかえれば、この強力な抗癌剤 (15K) には、「副作用がないどころか、健康長寿にも大いに役立つ」という結論が導れそうである。
最後に一つ強調しておきたいことがある。 数年前に、温帯地方で取れるプロポリスの主要抗癌成分であるCAPE (100 microM) が線虫の寿命を15% ほど延長するという結果がドイツの研究グループによって報告された (6)。 15K は、CAPEの濃度の2000分の1で、それ以上の「健康長寿」 効果を発揮した! こんな低濃度 (微量)で、線虫の寿命を延ばしたという例は、未だかつて歴史上にない。 「前代未聞の驚異」である!
参考文献:
- Yanase S, Luo Y, Maruta H. PAK1-deficiency/down-regulation reduces brood size, activates HSP16.2 gene and extends lifespan in Caenorhabditis elegans. Drug Discov. Ther. 2013, 7, 29–35.
- Taira N, Nguyen BC, Be Tu PT, Tawata S. Effect of Okinawa Propolis on PAK1 activity, C. elegans Longevity, Melanogenesis, and Growth of Cancer Cells. J Agric Food Chem. 2016、64, 5484-9.
- Nguyen BC, Takahashi H, Uto Y, Shahinozzaman MD, Tawata S, Maruta H. 1,2,3-Triazolyl ester of Ketorolac: a “Click Chemistry”-based highly potent PAK1- blocking cancer-killer. Eur. J. Med. Chem, 2017, 126, 270-6.
- Ahn MR, Bae JY、Jeong DH, Nguyen BC, Takahashi H, Uto Y, Tawata S, Maruta H. Triazolyl ester of Ketorolac (15K), a novel potent PAK1-blocker, and YM155, a potent survivin-suppressor, inhibit the embryonic angiogenesis in ovo (fertilized eggs) via their common PAK1-survivin signaling pathway. 2017, Submitted,
- BC Nguyen, H. Takahashi, Y Uto, N. Taira, S. Tawata, H Maruta. The potent synthetic elixir (15K) from an old pain-killer (ketorolac): reducing brood size, inducing HSP16 gene, and extending the lifespan of C. elegans by blocking PAK1. 2017, Submitted,
- Havermann S, Chovolou Y, Humpf HU, Wätjen W. Caffeic acid phenethylester increases stress resistance and enhances lifespan in Caenorhabditis elegans by modulation of the insulin-like DAF-16 signalling pathway. PLoS One. 2014 ; 9: e100256.
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