2017年12月3日日曜日

「十文字 ドメイン 脱メチラーゼ」 (JMJD6) :
PAKの発現を促す発癌酵素

ごく最近、中国の北京大学の研究グループによって、「JMJD6」 と呼ばれるヒストン脱メチラーゼの一種が、メラノーマの増殖に関与していることが明らかにされた (1)。注目すべきは、この酵素は発癌/老化キナーゼ「PAK」の発現を促す働きがあるようだ。従って、PAKの上流に位置する発癌酵素の一種と考えられる。 面白いことに、JMJD は「十文字 ドメイン」の略で、JMJD6を含めて一連のヒストン脱メチラーゼが、このドメインを有する。 最初にJMJD ファミリーを発見したのは、都内町田市に (日本における"生化学の草分け") 江上 不二夫教授(1910- 1982) が設立した ("三菱化成"傘下の)  "生命研 " (1970-2010) の "竹内 隆" 研究室である。1999年に造血細胞やマクロファージから、この酵素 (JMJD1) を見つけた (2)。  しかしながら、後にこの一連の脱メチラーゼが (PAKと同様)  酵母からヒトまで、広範に存在することが判明した。(メチル化された) ヒストン中の塩基性アミノ酸、リジンやアルギニンを脱メチル化する酵素である。

従って、理論的には、十文字ドメインを有する酵素を選択的に阻害する薬剤にも、抗癌作用や老化抑制作用が期待できる。 実際、数年前に、米国テキサスの研究グループがJMJD 脱メチラーゼの阻害剤「JIB-04 」(E-isomer) を初めて開発して、抗癌作用があることを細胞培養系 (IC50=250 nM against A549 cells) 及び動物 (マウス) 実験 (55 mg/kg weekly) で実証している (3)。(PAK遮断剤同様) 正常な細胞には毒性を全く示さない。我々の開発したPAK遮断剤 (15K) ほど、未だ強力ではないが 、将来、より 強力な誘導体が開発されることを期待している。

さて、我々の開発した「15K」には、メラノーマの増殖に必須な「MOF」と仮称する酵素を阻害する作用もあることがわかっている。しかしながら、「MOF」(Melanoma Oncogenic Factor) の正体は未だ突き止められていない。 ひょっとすると、MOFは十文字 ドメイン 脱メチラーゼの一種かもしれない。。。

参考文献:  

1. Liu X, Si W, Liu X, He L, Ren J, Yang Z Yang J, Li W, Liu S, Pei F, Yang X, Sun L. JMJD6 promotes melanoma carcinogenesis through regulation of the alternative splicing of PAK1, a key MAPK signaling component. Mol Cancer. 2017 Nov 29;16(1):175. 

2. Kitajima K1, Kojima M, Nakajima K, Kondo S, Hara T, Miyajima A, Takeuchi T. Definitive but not primitive hematopoiesis is impaired in jumonji mutant mice. Blood. 1999 ; 93: 87-95.

3. Wang L, Chang J, Varghese D, Dellinger M, Kumar S, Best AM, Ruiz J, Bruick R, Peña-Llopis S, Xu J, Babinski DJ, Frantz DE, Brekken RA, Quinn AM, Simeonov A, Easmon J, Martinez ED. A small molecule modulates Jumonji histone demethylase activity and selectively inhibits cancer growth. Nat Commun. 2013;4:2035.

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