去る2月15日に、豪州メルボルンの「WEHI」 (南半球最大の医科学研究所) で、米国のノーベル化学賞 (2001年) 受賞者 Barry Sharpless 教授を迎えて、CC (クリック 化学) に関する講演会が開催された。 彼はキラル化学に関する功績で、ノーベル賞を野依 (のより) 良治教授らと分かち合ったが、その年に、2つの異なる化合物を効率良く連結 (クリック) させる 銅触媒に基づく化学反応「CC」を考案した。 以来、この化学反応を利用して、新化合物を合成した件数は、7千件に近い。 彼の弟子で英国出身のJohn Moses 教授がメルボルン郊外にあるLa Trobe 大学に、最近赴任してきたのを機会に、その恩師Sharpless 教授が激励を兼ね、はるばる晩夏のメルボルンを訪れ、連続講演を行なってくれたわけである。
講演会の2、3日前に、Sharpless 教授から突然メールで、講演会の知らせを受け取って、私はびっくりした。 実は、2015年に、CCを利用して、我々の研究グループも、COOHをもった一連のPAK遮断剤 (ARC, コーヒー酸、鎮静剤ケトロラックなど) を、エステル化して、その細胞透過性を100-500 倍に高めることに成功し、特許を取得した。 特に、ケトロラックのエステル (15K) は合成PAK遮断剤中、抗癌作用が最も強力、かつ毒性 (副作用) がないので、臨床に応用しうる可能性が極めて高い (前述)。 言い換えれば、我々の15KはCC製品中、(抗癌剤など) 医薬品として成功する最短距離にある (言わば、2018年冬季五輪「スピードスケート 500 m」で金メダルの小平奈緒に相当する!) 。 15Kの市販に成功すれば、Sharpless 教授が二度目のノーベル賞を貰うのは、誰の目にも明らかである。
そこで、地元のMoses 教授と共同で、(一連の動物実験に必要な) 15Kの大量生産と、ミコフェノール酸という抗生物質 (PAK遮断剤) のCCによるエステル化を計画している。 その成功を期して、Moses 研究室へ、"PAK研究財団" から最初の研究助成金を出す予定である。
2018年2月17日土曜日
2018年2月8日木曜日
「PKC-ゼータ」は、PAKにより活性化される
「発癌性キナーゼ」!
40年ほど昔、我々がPAK ファミリーの一員(ミオシン=キナーゼ) を発見した頃に、神戸大医学部の西塚研究室の高井義美さんが、「PKC」と呼ばれるキナーゼ群を発見した (前述)。 その中にちょっと変った「PKC-ゼータ」と呼ばれるキナーゼが存在する。さて、 20年ほど昔、PAK ファミリーの一員で、「PAK1」と呼ばれるキナーゼが、癌の増殖に必須であることが判明して以来、一連の「PAK1遮断剤」の開発が急速に進みつつある。 一方、2006年頃、イスラエルのヘブライ大学のショシャーナ=リビッド 博士の研究室で、ミオシンを燐酸化するもう一つのキナーゼを見つけた。それが、「PKC-ゼータ」だった。更に、このキナーゼを直接活性化するキナーゼも同時に同定された。それがなんと、発癌キナーゼ「PAK1」だった (1)。
従って、PKC-ゼータも発癌キナーゼである可能性が強くなった。 ごく最近、 「PKC-ゼータ」を選択的に阻害する化合物が米国フロリダ州立大学で開発された。「Zeta-STAT」と呼ばれる硫酸基を3つも有する極めて酸性の化合物である。この化合物は予想通り、癌の増殖を抑える (2)。 しかしながら、極めて酸性なので、細胞透過性が極めて悪いことが予想される。 そこで、臨床への応用には、これらの硫酸基をよりアルカリ性のアミノ基に置換する必要があるだろう。
けだし、リビッド博士は、その昔 (ポスドク時代に) 、細胞性粘菌のミオシン=キナーゼ研究を、米国スタンフォード大学のジム=スピューディッチ教授 (私の旧友) の研究室でやっていた。そこで、彼女を久し振りに、今夏ボローニアで開催される癌学会に招待することに決めた。
参考文献:
従って、PKC-ゼータも発癌キナーゼである可能性が強くなった。 ごく最近、 「PKC-ゼータ」を選択的に阻害する化合物が米国フロリダ州立大学で開発された。「Zeta-STAT」と呼ばれる硫酸基を3つも有する極めて酸性の化合物である。この化合物は予想通り、癌の増殖を抑える (2)。 しかしながら、極めて酸性なので、細胞透過性が極めて悪いことが予想される。 そこで、臨床への応用には、これらの硫酸基をよりアルカリ性のアミノ基に置換する必要があるだろう。
けだし、リビッド博士は、その昔 (ポスドク時代に) 、細胞性粘菌のミオシン=キナーゼ研究を、米国スタンフォード大学のジム=スピューディッチ教授 (私の旧友) の研究室でやっていた。そこで、彼女を久し振りに、今夏ボローニアで開催される癌学会に招待することに決めた。
参考文献:
1. Even-Faitelson L, Ravid S. PAK1
and aPKCzeta regulate myosin II-B phosphorylation: a novel signaling pathway
regulating filament assembly. Mol Biol Cell. 2006 ;17(7): 2869-81.
2. Anisul Islam SM, Patel R,
Acevedo-Duncan M. Protein Kinase C-ζ stimulates colorectal cancer cell
carcinogenesis via PKC-ζ/Rac1/Pak1/β-Catenin signaling cascade. Biochim Biophys
Acta. 2018 Feb 2.
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