「実験医学」レビュー (原稿) より
文責: 丸田 浩 (PAK Research Center, メルボルン、豪州)
序:
「健康長寿」に役立つ薬あるいは食物を探索する研究は、古来から様々な形で続けられてきたが、(平均寿命が比較的長い) 人類を対象とする研究は、(統計学的な研究を除けば) 実際には実験が不可能である。従って、寿命研究の対象は大部分、(寿命が比較的短い) マウス(2-3 年)、ショウジョウバエ (45日前後)、線虫 (2週間) * などの小動物に限られてきた。 2012年に出版された (英文原本は2005年に出版) マイケル=ローズ著「老化の進化論」(みすず書房) によれば、老化に関する遺伝学的研究に最初に使用された動物はショウジョウバエだった (1)。英国のサセックス大学の (博士課程) 院生であった著者が、 「メトセラ」と呼ばれる「長寿」ミュータント(変異体) 集団を、ショウジョウバエで最初に見つけたのは、1977年のことである。一体どの遺伝子がどう変化したかについては、分子生物学者ではない著者自身は、(分子レベルで) 詳細には研究していないが、著作の出版直後に、発癌/老化キナーゼ 「PAK1」の上流で働くセクレチン受容体の一種 「MTH」の機能不全であることが解明されている (2)。 極めて偶然であるが、我々が米国のNIHで、最初のPAK (ミオシンキナーゼ) を土壌アメーバから発見したのは、同じ1977年である (3)。 従って、この二つの発見は 「見えない一本の糸」 で結ばれていたことになる。それから30年後の2007年に始まる一連の研究から、我々は、線虫の「PAK1欠損」ミュータント(RB689) が、ショウジョウバエの長寿ミュータント「メトセラ」に匹敵することを突き止めた (4)。
* 線虫 (エレガンス, C. elegans) は多細胞生物の中で最も寿命が短いので、寿命に関する研究でもノーベル賞をもらえる 「最短距離」に、研究者を位置付けている!
(少なくとも現段階では) 人類の寿命を延ばすために、ある遺伝子を人工的に欠損させたり、追加したりはできない。そこで、主に線虫を実験材料に使って、一体どんなPAK1遮断剤が効果的に寿命を延ばすことができるかを、以後10年近く検討してきた。 その成果をここで、簡略にまとめてみよう。
1。 一般法則: 少子化=ストレス耐性=長寿
人類から線虫などの小動物までに、共通して観察される 「長寿」に伴う一連の現象 (トレード=オフ関係) がある。 先ず、長寿の動物には少子化が進む。つまり、子孫を余り残さない。逆にいえば、子沢山は一般に短命である。これは「種の保存」のための「自然の原理」にかなっている。 子孫が多ければ、本人はそれほど長生きする必要がないからである。 もう一つは、長寿の動物は、熱 (地球の温暖化) などのストレスに耐える力を発揮する。だから、夏バテしにくくなる。 逆にいえば、 夏バテしやすい人は余り長生きしない。 実際、「メトセラ」のショウジョウバエ株や「PAK1遺伝子欠損」の線虫株は、(野生株に比べて) 産卵数が顕著に低下し、熱耐性である。 従って、逆に、この現象を利用して、どんな食物や化合物が線虫の長寿に役立つかを、予め短時間 (2-3日) で、予備スクリーニングすることができる。 線虫の寿命実験は、最終的には少なくとも1カ月はかかるからである。 (2-3日で) 少子化効果を示した検体だけを確認のために、最後の寿命実験にかければ、無駄な時間を省くことができる!
さて、市販の医薬品で、マウスやせんちゅうで 「寿命延長効果」 を示した唯一の薬剤は、「ラパマイシン」 と呼ばれる 免疫抑制剤 (ファイザー市販) であるが、これはPAK1遮断剤ではなく、PAK1の下流にある発癌/老化キナーゼ 「TOR」 の阻害剤である。 癌にも効かないわけではないが、患者の免疫能を低下させるという副作用と、薬剤耐性を起こしやすいという理由から、癌の治療には余り使用されていない。更に、分子量が大きいため、血管脳関門を通過しにくく、NFやTSCなどの脳腫瘍には役立たない。
2。 副作用なしで、線虫の寿命を延ばす "PAK1遮断剤"
天然のPAK1遮断剤で、副作用のない抗癌剤はプロポリスであるが、その主要抗癌成分は、プロポリスの種類によって、極めて異なる。温帯地方のプロポリスは主にCAPE、ブラジル産のグリーンプロポリスはARC (Artepillin C), 沖縄/台湾などの(太平洋岸) 亜熱帯地方のプロポリスは、「Nymphaeol」 と呼ばれるゲラニル側鎖をもったフラボノイドが、主な抗癌成分になっている。 いずれも、線虫の少子化を起こし、線虫の寿命を延ばす。 しかしながら、「先見の明」に欠ける大部分の医者は、(先進国 「ドイツ」 以外の国では) プロポリスを医薬品として、患者に勧めようとしない。
そこで、我々は医薬品になりうる強力な合成PAK1遮断剤を、最近開発し、市販に向けて奮闘している。 その新薬の名は 「15K 」。ケトロラック という (市販) 鎮痛剤の細胞透過性を飛躍的に高めたエステルである。 その抗癌作用はケトロラックの500-5000倍高い。 そこで、その副作用の有無を先ず確かめるために、線虫の少子化、 熱耐性、寿命延長効果を調べた。 驚くなかれ、 CAPEに比べて、2000倍の薬理効果が「15K 」にあることが判明した! CAPEが100 micro Mで、15% の寿命延長効果を示すのに対して、「15K 」はわずか50 nMで、30%の寿命延長効果を示した。 これは線虫の寿命延長効果に関する 「ギネス記録」である。 市販の"ラパマイシン" に比べても、200倍以上の寿命延長効果がある。
なお、YM155 (サーバイビン抑制剤/PAK1遮断剤) の寿命延長能は、どうやら 「15K 」 の10分の1 に過ぎないようである (もっとも、受精卵における血管新生を抑える効果は、「15K」 とほぼ同程度) 。
来年の夏 (7月9-12日) に韓国のソウル国立大学で、アジア太平洋 「線虫学会」 が開催される予定である。 それまでには、 マウスを使った我々の動物実験で、ジェムシタビン耐性のヒト由来すい臓癌に対する「15K 」の治療効果が確認されると期待している。「ジェムシタビン」はすい臓癌のいわゆる "特効薬" といわれているが、その実態は、すいぞう癌の9割がこの薬剤に耐性である。 そのジェムシタビン耐性の末期すいぞう癌でも、ニュージーランド産プロポリス (Bio30) の大量療法によって、見事に根治したという (ソウルでの) 臨床例があるから、はるかに強力な 「15K 」 でも、同様な薬理効果が当然ながら期待される。
前述したが、単純なDNA合成阻害剤である 「ジェムシタビン」 と異なり、3つの異なる標的 (RAC=PAK1の上流、COX-2=PAK1の下流、およびメラノーマの増殖に必須な「MOF」=メラノーマ発癌因子) を一身に集めた 「15K」 には、薬剤耐性を起こす可能性が (数学的に) 〇に等しい。
3。 「15K」類の工業的大量生産に必須な「新規エステル合成試薬 H」の開発
学術的には、「15K」を "Click Chemistry" を介して、2 ステップで高率よく合成しうるが、これを臨床向けに (キロ単位で) 大量に生産するとなると、アチドを使用する2 段階目に、場合によっては、反応中に「爆発」が発生する可能性が指摘された。そこで、「安全操業」 のために、別の穏和な条件下で、然もたった一段階で、「15K」 あるいは、それと同等の薬理作用を持つエステルを合成しうる 「新規な試薬」 を開発する必要性が出てきた。 そこで、頭を絞った結果、ある名案が浮かんだ。 それは将来、実用的な 「試薬特許」 に結びつく可能性があるので、詳細は伏せるが、市販されているある試薬をハロゲンガスで反応させると、安全に合成できる。 理論的には、この試薬 "H" を、どんなCOOHを持つ化合物と反応させても、安全かつ高率に細胞透過性の高いエステルが合成できる。 できれば、近い将来、三重にある 「伊賀の忍者」 たちと共同で、この試薬を開発し、実際に 「15K」 類似エステル が安全に合成されうることを実証したい。
前途ある若者たちよ、「必要は発明の母である」 という言葉を忘れずに、生きている内に、(人類の福祉のために) 頭を駆使したまえ!
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