2018年12月16日日曜日

世紀の挑戦: ギンネム由来の「PAK阻害剤」"ミモシン" の機能的進化!

沖縄、小笠原諸島、豪州北部 (クイーンズランド州) などの亜熱帯地方に生育する雑木の一種 「ギンネム」には、チロシンの類似体で「ミモシン」と呼ばれるPAK阻害剤 (IC50= 37 micro M) が含まれていることを、我々は (得意の「水平思考」に基づいて)、数年前に発見した。 更に、ミモシンを含む一連の疎水テトラペプチドを開発し、その内 Mimosine-Phe-Phe-Tyr に、最強のPAK阻害活性 (IC50=130 nM) があることを発見した (1)。 このアミノ酸誘導体は、ミモシン自体のPAK阻害活性の "250 倍" に匹敵する !

しかしながら、このペプチドは、分子中にCOOH 基を持つためか、なお細胞透過性が悪く、細胞培養系での抗癌作用 (IC50) は  30 micro Mに過ぎなかった (2)。 そこで、その細胞透過性を飛躍的に高めるため、そのCOOH 基をエステル化する方法として、前述の「Click Chemistry」 (CC) を応用して、水溶性の1,2,3-triazolyl 誘導体に変換するアプローチを摸索している (有機化学あるいは薬化学部門の博士論文テーマに相応しい!)。 もし、予想通りCC法が成功すれば、ミモシンの抗癌活性 (IC50= 0.3 mM) は "2500倍" 近く (飛躍的) に進化することが期待される。もう一つ考えられるアプローチは、このミモシンペプチドの C端 (チロシン残基) に塩基性のアミノ酸 "ARG" をアミド結合で付加することである。

更に、面白い進化が期待される。 ミモシンにはいわゆる「毒性」として、"脱毛" 作用が知られているが、一般にPAKを強く遮断すると、"育毛" が促進される。従って、以上のアプローチにより、"脱毛剤" を逆に "育毛剤" に変換しうる可能性もある。。。

ギンネムは通常、牛や羊など家畜用の安価な餌 として栽培されているが、太平洋戦争末期、小笠原諸島に取り残された日本兵たちが、食料不足のため、ギンネムの種子 (豆) まで食べざるを得なくなって、全員残らず「丸ハゲ」になったという逸話がある。敗戦後、脱毛作用がミモシンにあることが判明した。

さて、豪州の羊には、残念ながら、ミモシンを解毒する機能がないので、ギンネムを食べさせると、肝心の羊毛が収獲できなくなる。従って、豪州では、ギンネムは文字通り「無駄の長物」である。それを、"PAK遮断剤" という医薬の原料に利用するというアイディアは、正に世紀の「廃物利用」と言わざるを得ない。。。

参考文献

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