1972年にイースター島 (現地名は、ラパ島) で放線菌中に発見された「ラパマイシン」と呼ばれる抗生物質が、1999年にファイザー社によって市販され、臓器移植の拒絶反応を抑制する目的で使用されるようになった。この抗生物質はTOR (Target of Rapamycin) と呼ばれる発癌/老化キナーゼ (PAKの下流) の阻害剤である。しかしながら、(PAK遮断剤と違って) 免疫機能を抑える等 いくつかの副作用があるので、癌の治療にはとうとう使用 (歓迎) されなかった。
さて最近になって、その誘導体で「RAD 001」(Novartis 商標: Everolimus, Afinitor etc) と呼ばれる薬剤が、ラパマイシンに比べて副作用が少ないため、Gemcitabine 耐性のスイゾウ癌や稀少難病「TSC」 (結節性硬化症) に伴う癲癇の治療にも使用され始めたという話を聞いている。 勿論、この誘導体は本来、臓器移植の際に発生する拒絶反応を抑制するという目的で、20年ほど昔、開発されたので、(抗癌) 免疫機能を確実に抑える。従って、「理想的な抗癌剤」とはいえない。 治験結果によれば、延命効果はあるようだが、癌の根治は難しそうである。
もっとも、来年の9月には特許がとうとう切れるので、「ジェネリック薬剤」として、安価に市販されるはずである。 言いかえれば、癌やTSC患者たちにとっては良報だが、大手製薬会社「Pfizer 」や 「Novartis」自身にとっては、もはや金儲けの「ドル箱」ではなくなりつつある! 従って、「RAD 001」に代わるべき癌/TSC の特効薬を探し始めているが、(私の知る限りでは) 有効なPAK遮断剤は製薬会社自身の手では未だ開発されていない。 そこで、我々のPAK遮断剤「15K」の特許権 (ライセンス) をPfizer あるいはNovartis に売却して、一連の臨床テストを開始しうる可能性が出てきた。。。
さて、稀少難病TSCは、抗癌遺伝子TSCの欠損によって起こる良性腫瘍を伴う遺伝子病で、キナーゼ「TOR」が異常に活性化されている。この発癌キナーゼをTSC遺伝子発現あるいはラパマイシンで阻害すると、腫瘍のPD-L1発現が抑制されるという報告が、昨年、米国テキサスのMD Anderson 癌研のグループにより発表された。 言い換えれば、TOR もPAKの下流で、PD-L1 発現に関与していることになる。 しかしながら、(PAK遮断剤と違って) ラパマイシンやその誘導体には、免疫機能を低下させる「副作用=逆作用」もあるので、(TOR阻害による) PD-L1 発現の抑制が、抗癌作用に生かされないのは、誠に残念である!
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