2019年9月15日日曜日

脳軟化症、自閉症、癲癇などを含む神経疾患に
PAK遺伝子の変異が関与!

マウスなどの動物実験などで、PAKの異常活性化が一連の神経疾患 (例えば、認知症、自閉症、癲癇など) を起こすことがかなり前から知られていた。 従って、プロポリスや目下開発されつつある一連のPAK遮断剤によって、これらの神経疾患を治療しうる可能性が期待されている。しかしながら、実際にヒトの患者で、PAK遺伝子自体に変異が発見される例は、今まで極めて稀れであった。昨年、ドイツのハンブルグ大学病院で、いわゆる「キューピー病」(ヌーナン症候群 ) 患者 (児童) に、PAK遺伝子に明らかな変異が発見されたのが、恐らく最初の実例であろう。

さて、つい最近になって、同じくドイツのライプチッヒ大学の小児科病院で、脳疾患患者の中に、PAK遺伝子の新たな変異が発見された。PAK 蛋白は通常、ホモダイマー (2量子) を形成して、不活性な状態にある。ところが、RAC や  CDC42 などのG蛋白が結合すると、ダイマーのジッパーが開いて、活性状態になる。ところが、この脳疾患者の 場合は、PAK遺伝子自体に変異が起こったために、ホモダイマーの形成が不十分で、G蛋白が外から結合しなくても、ジッパーが半開き状態のままになり、恒常的に活性化が進行状態になるという。 この患者たちには、脳の発達障害と肥大、自閉症らしき症状や癲癇に似た発作が伴っている。

蛇足だが、ライプチッヒの町はその昔 (敗戦後長らく)、東独側に属していたが、古い伝統的な町で、かつて、文豪のゲーテや作曲家のバッハなどが活躍していた町である。最近は、ネアンデルタール人 と人類 (ホモ=サピエンス) の遺伝子の比較解析などで良く知られるようになった。

参考文献: 

Horn S, Au M, Basel-Salmon et al. De novo variants in PAK1 lead to intellectual disability with macrocephaly and seizures. Brain. 2019 Aug 29. pii: awz264.

2019年9月9日月曜日

酸乳「カルピス」中のペプチド (CS19) の意外な薬効!

「カルピス」という牛乳由来の「甘酢っぱい」発酵飲料が発売され始めてから、今年で創業百年目に当たるという。第一次世界大戦の終了直後の1919年に、蒙古高原の旅から東京に戻ってきた僧侶「三島海雲」なる人物が、蒙古民族の間で人気のある発酵牛乳 (酸乳) のアイディアを生かして、脱脂粉乳に砂糖と水とカルシウムを加えて発酵したものを製品化して、「初恋の味」というしゃれたキャッチフレーズを付けて、国鉄「恵比寿駅」近くにある工場から発売し始めたのが、その起源である。 「カルピス」の「カル」は元来「カルシウム」に起因するようだが、現在はカルシウムは特に加えてないようである。

さて、ごく最近、「カルピス」に関する大変面白い論文を見つけた。牛乳中の蛋白成分「ガゼイン」が乳酸菌によって分解され、19個のアミノ酸からなるペプチド(CS19) に蓄積するそうであるが、そのペプチドには、記憶や学習能力を上げる功果があることが、臨床テストで証明されたという内容である。カルピス (朝日ビール傘下) と京大農学部との産学共同研究結果だそうだ。

その論文を読んで「ハタ」と閃いたことがある。 このペプチドには「プロリン」というアミノ酸が豊富であったからだ。実は、もう20年以上も昔、 病原キナーゼ「PAK 」に結合する蛋白「PIX 」が発見された。この蛋白が、PAK分子上の18個のアミノ酸からなる (プロリン豊富な)「PAK18」と呼ばれる部分と結合すると、PAKを活性化し、細胞の癌化を引き起こす。 さて、PAK18自身は、細胞膜を通過し得ないが、これに細胞透過ペプチド「WR」を結合させると、癌細胞に入り、PAK とPIXとの結合を選択的に阻害することによって、癌化 (癌の増殖) を阻害することを我々は突き止めた。この現象は、癌細胞に特異的で、正常な細胞の増殖には、全く影響を与えなかった。こうして、PAK とPIX の結合が癌化に必須であることが初めて実証されたわけだ。

さて、PAK は癌化ばかりではなく、種々の神経疾患、例えば認知症などに伴う記憶や学習能力の喪失にも関与している。 カルピスのペプチド (CS19) とPAK18とは、両方ともプロリン豊富であり、然も長さ(ペプチド鎖) もほぼ同じ位である。 ひょっとして、カルピス中の「CS19 」は、PAK18同様、PAK と PIX の結合を阻害するPAK遮断剤ではなかろうか?  病弱がちだった三島海雲 (1878-1974) は、カルピスを飲み始めてから、健康になり、95歳以上の健康長寿を全うしたそうである。。。

更に動物実験でも、CS19 に寿命延長効果や血圧降下作用などがあることが実証されており、これらの薬効は、プロポリスなどのPAK遮断剤と極めて良く類似している。従って、カルピス (毎日、250  ml 以上) で 、癌/NFなどの予防や治療も可能かもしれない。



2019年9月6日金曜日

15K: 2 種類の異なる経路 (PAK 及び BET) を経て、
PD-1 とPD-L1 を共に遮断する!

我々の体内には、癌細胞を異物と認識して、それを除去せんとする胸腺由来の免疫 T 細胞があるが、悪性の癌細胞には、その免疫細胞を殺す機能を持つ「PD-L1」と呼ばれるリガンドが存在し、免疫細胞の表面に存在する「PD-1」と呼ばれる受容体に結合すると、免疫細胞を破壊して、いわゆる「癌に対する防御機能」をダメにする仕組みをもっている。 従って、原理的には、何らかの方法によって、どちらかの発現を抑えることができれば、癌の増殖を再び抑えることが出来るようになる。そのような方法を「癌の免疫 (チェックポイント) 療法」と呼ぶ。 詳しくは、「京都大とノーベル賞: 本庶佑と伝説の研究室」 (河出新書) などを参照されたし*。

さて、 PAK 遮断剤「15K 」が癌細胞中で, PD-L1の発現を抑制する
可能性が高いことは、前述した。つい最近、トルコのイスタンブールの研究グループにより、(PAK遮断剤) プロポリスがPD-L1の発現を抑制することが初めて実証された!  その後の文献調べによって、免疫 T 細胞中で、PD-1の発現も抑制する可能性が判明した。 理由は以下のごとし。実は、PD-L1の発現もPD-1の発現も、PAK の下流にある転写蛋白 "beta-catenin" とその更に下流にある転写蛋白「MYC」 依存性であることが判明したからである。

更に面白いことが分かった。 メルボルンにいる昔の同僚から、beta-catenin や MYC の発現には、「BET蛋白」が必須であり、その阻害剤には、「1,2,3-triazol 環」を有するものが多い事が最近、判明したそうである。「15K 」にも、「1,2,3-triazol 環」があることから、第2 の標的「BET」をも直接に阻害する可能性が出てきた。

更に、数年前に発表されている論文によれば、メラノーマの増殖には "BET -MYC" 経路が必須であることが判明していた。ところが、我々自身の研究によれば、(メラノーマのメラニン色素合成にはPAKが必須であるが) メラノーマの増殖自身にはPAK が必要ないにもかかわらず、PAK遮断剤である「15K」によって、極めて強い増殖阻害を受けた (IC50= 5 nM)。従って、 「15K」にはPAK以外のメラノーマの増殖に必須な (第2の) 標的蛋白を抑える作用があることが前々から予想されていた。 ここに至って、謎の標的が「BET」である可能性が濃厚になった!

従って、"ダブル=パンチ"で、PD-L1 と PD-1 の発現を同時に阻害する可能性が高い。言い換えれば、15K は、単価も安く、血管脳関門を通過しうる (しかも"副作用のない") 制癌剤になりうる。つまり、ノーベル賞受賞の本庶氏が考案した小野薬品市販の高価な「モノクローナル薬剤」の遥か上を行く薬剤として、将来市場で活躍する可能性がある!

* この夏、京都で開かれた国際癌学会で講演するために、京都に久し振りに逗留した折に、烏丸四条近くにある本屋で購入した新書本の一つである。実は、私の亡父が京大 (独文) 出身だった。 この本で、面白い史実を一つ発見した。 所謂「京大医学部伝説の研究室」の主である早石修先生の父親 の出身地が丹後の宮津 (天の橋立ての近所) であったことである。私の亡父も同じ宮津出身だった。そこで、宮津の地を初めて訪れ、父が一世紀ほど昔に通学していた市立宮津小学校を訪れ、教頭さん (女性) と話をする機会を得た。もう一つの発見は、本庶さんと同様、早石研出身で京大医学部長を以前やっていた知り合い (成宮 周さん) が、この本に偶々登場し、定年退職後、京大医学部構内にある産学共同研究施設 "MIC" (メディカル=イノベーション=センター) の所長をしていることが偶然にも分かり、早速センターにメールをして、紫蘭会館食堂で、久し振りにランチを食べながら旧交を暖めることができた。 というわけで、本から学ぶことは、「人様々である」という感を深めた。