2019年11月28日木曜日

水溶性「クルクミン誘導体」の誕生!

ウコン中の主要抗癌成分「クルクミン」にはPAK遮断作用があるが、水に不溶なので、臨床的な治療効果を期待することはほぼ無理! そこで、十数年前から、リポソームや環状デキストリンなどで抱合して、ミセル状で経口する試みがなされてきたが、残念ながら、未だに実用化されていない。

そこで、幾つかの有機化学者グループが、「水溶性のクルクミン誘導体」合成に挑戦しつつある。その一つは、クルクミンの水酸基を燐酸化するアプローチである。

2015年末に、中国の山東大学薬学部の研究グループによって、"燐酸クルクミン" が合成され、水溶性と細胞透過性が確認されると共に、つい最近 (ラットを使用した)「 腸管吸収」実験でも、改善が実証されている (1) 。しかしながら、その抗癌作用については、動物実験が未だなされていないようである。この水酸化は、2012年頃に、米国ミネソタ大学のGunda Georg 教授のグループによるPAK遮断剤「トリプトライド」の燐酸化による「水溶化」を、直接模倣/踏襲したように思われる。 この水溶性PAK遮断剤「ミネライド」は、抗癌剤として、すいぞう癌患者を対象にして、臨床テスト 中である。

さて、もう一つの試みは、クルクミン分子中の2個のケトンを一個に減らすと共に、2個のOMe (メトキシ) 基を水酸基に戻し、パラの位置に水酸基を移動した俗称「C5 クルクミン」 (AY1319) である。今夏、山形大学 (米沢) 理工学部の近野博行教授の研究室によって、開発されたものである (2)。少なくとも、試験管内で、認知症の要因である "アミロイド蛋白の凝集" を阻止する作用があることが確認されている。しかしながら、この水溶性クルクミン誘導体が果して、癌細胞の増殖を選択的に抑えるかどうかは、未だ確認されていないようである。

 実は10年ほど昔、米国オクラホマ大学の有機化学者によって、「C5 クルクミン」に類似した、水溶性クルクミン誘導「EF24」(Diphenyl difluoroketone) が開発され、その抗癌作用をヌードマウスに移植したヒト由来の膵臓癌を対象にして、カンサス大学の癌研究グループが調べている。驚くなかれ、毎日 0。2 mg/kg  という低濃度で、癌の増殖を50%以上抑制することがわかった (3)。これは一種の驚異である! 文献上、こんなに効率の高い抗癌剤は、我々自身が開発したPAK遮断剤「15K」以外にはない! しかしながら、それから10年以上たった今日でも、「EF24」の臨床テストが一向に開始されないのは、いささか "期待外れ" である。一つ気がかりなのは、細胞培養系でのIC50 がかなり高い (1 micro M 前後) にも拘らず、動物実験では、IC50が0。2 mg/kg 以下になることである。常識では、とても想像/予測できない!

参考文献:
3。 Subramaniam D, May R, Sureban SM, Lee KB, et al. Diphenyl difluoroketone: a curcumin derivative with potent in vivo anticancer activity. Cancer Res. 2008 ; 68, 1962-9.


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