中国の浙江大学の海洋研究所 (Ningbo) に、海洋生物に寄生する特種な 放線菌 (Streptomyces DT-A61 etc ) から抗生物質、特に抗癌作用を持つStaurosporine 誘導体などをスクリーニングしている研究グループが存在することが最近判明した。特に、注目すべきは、 Staurosporine 誘導体の中に、Indolocarbazole 環 の "3位" のみが水酸化されている化合物が 2、3 同定された!
Jia-Nan Wang, Hao-Jian Zhang, Jia-Qi Li, Wan-Jing Ding, Zhong-Jun Ma. Bioactive Indolocarbazoles from the Marine-Derived Streptomyces sp. DT-A61. J Nat Prod. 2018 Apr 27;81(4):949-956.
Te Li, Ning Wang, Ting Zhang, Bin Zhang, Thavarool P Sajeevan, Valsamma Joseph, Lorene Armstrong, Shan He, Xiaojun Yan , C Benjamin Naman. A Systematic Review of Recently Reported Marine Derived Natural Product Kinase Inhibitors. Mar Drugs. 2019 Aug 23;17(9):493.
「長生き」とは "有難い" ものだ! もう20年近くも昔の話だが、私が未だ豪州メルボルンの国際癌研 (LICR)に勤務していた頃、グアム島の海洋研究所にいたドイツ人の Peter Schupp が、海洋生物 (海綿) から、 Staurosporine (ST) 誘導体の中に、Indolocarbazole 環 の3位のみが水酸化されている化合物 "ST-2001" を見つけた。この化合物は、STと同様、"非特異的な" キナーゼ阻害剤であるが、作用が ST よりも50倍 も強い (IC50= 1 nM)! その後、我々による (構造と機能の相関関係に関する) 研究から、更に Indolocarbazole 環の 9位に、Arg などの「塩基性」かつ "比較的長い" の側鎖を付加することができれば、PAK に極めて特異的 (かつ細胞透過性の高い) 阻害剤 (ST-3009)になることが判明した。その理由は、PAK のみが非活性の「Homo-dimer」を形成する特性があるからである。このDimer の「ATP 結合ポケット」は、Monomer の2倍近いから、より大きなATP 誘導体を選択的に取り込むことができるわけである。しかしながら、「頼みの海洋生物」が、ある日、忽然と、グアム島の沿岸から姿を消してしまった! 恐らく、「地球 (海水) の温暖化」のためであろう。。。 さて、"有機化学反応" で、3位を水酸化しようとすると、同時に9位にも水酸化が起こって、キナーゼ阻害活性が全くなくなる! 従って、生物界に存在する(Stereo-specific) 特種な 「Hydroxylase」 (Oxidase) によってのみ、3 位 のみを特異に水酸化しうることが判明した。
さて、「グアム島の悲劇」から 十数年経って、それよりもかなり北方にある上海近郊 の Ningbo 沿岸 (沖縄のほぼ対岸に当たる) で、ST 誘導体の3位を特異的に水酸化する酵素を持つ海洋放線菌が見付かったことは、極めて喜ばしい! ここで見つかった (3位に水酸基を有する) 誘導体「ST-2018」は、ヘキソースの側鎖が "ST-2001" とは異なるので、活性はやや低い (IC50=10 nM) が、その側鎖を化学的に置換して、ST-2001 に変換することは可能だろう。 従って、理論的には、近い将来、「ST-3009 」を合成することは、単なる夢でがない! 面白いことには、この海洋放線菌は、酒を作る「こうじカビ」のように、米を培地にして培養/発酵することができる (ただし、恐らく海水中で)。。
なお、ST の生合成は、3つのトリプトファンが縮合して、indolocarbazole 環が生成された後、冨山県立大学 (微生物工学) の尾中宏康ら (2002) の論文によれば、ヘキソース環が結合して成立するが、その過程で、トリプトファンの一つが水酸化されて、3位に水酸基が入る。従って、水酸化酵素は、実は「5-Tryptophan Hydroxylase」の一種であると考えられる。。。驚くなかれ、この酵素は、トリプトファンからセロトニンが生成される過程に関与する酵素なので、我々の脳内 (松果体など) にも存在するはず!
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