この意外な発見のきっかけは、例の蛍光キノコのルシフェリン (「アルファーピロン」環を有する化合物) に関する文献を検索している内に、「Warfarin」 と呼ばれる血栓症の治療薬には、Bleeding (出血) などの副作用があるが、"Minocycline" (MC) には、副作用なしに、血小板の凝集(血栓) を抑える作用がある(2) ことが判明したという論文に、偶然に遭遇した。 面白いのは、その分子メカニズムである。
その論文には、"MCは 「CEP1347」 と同様、「MLK-p38 キナーゼ」 経路を阻害する" と書いてあった。 実は、「CEP1347」 と呼ばれる化合物は、協和発酵と米国のCephalon という会社が共同で開発したパーキンソン氏病 (PAK依存性難病の一つ) の治療薬だが、臨床テストの中途でとうとう 「没」 になったという不幸な 「いきさつ」 がある。
ともあれ、今から15年以上前に、我々は 「CEP1347」 が (MLK以外に) PAKを直接阻害して、癌細胞の増殖を抑えることを発見していた (3)。 従って、「水平思考の名人」 ならば、直ぐぴんと来るはずである。 「MC」 もPAK阻害剤に違いない! もう一つ見逃せない 「臨床証拠」 がある。 「MC」 を常用すると、(グリーベック同様) 肌の色が白くなる (つまり、「PAK依存のメラニン色素合成」 が抑えられる)! 更に、細胞培養系で、MPNST (NF1遺伝子欠損の癌) 細胞の増殖が 「MC」によって有意に抑えられたという報告もある (4)。
実は、我が高校の先輩、利根川さん (ノーベル医学受賞者) も 「CEP1347」に一時興味をもっていたが、Cephalon と折り合いがつかず、とうとう自分で 「Afraxis」 というベンチャー会社を立ち上げ、"自閉症の治療" をめざして、独自にPAK阻害剤を開発し始めた。
「CEP1347」事件でCephalonが学ぶべき教訓は、秘密主義を捨てて、広い分野の研究者たちに柔軟に対応することである。 最近、脳炎性マラリアの研究グループにこの試薬を提供していることが判明した (1) 。いくらか進歩の形跡がみられる。 しかし、未だに 「脳」 だけに拘っているのは大いに問題 (ケツの穴が狭ま過ぎる) と私は思う。
実はCephalonの失敗を聞いて、CEP1347より千倍も強力な ST (Staurosporin) 誘導体 (ST-3009) の開発を、我々は長期的に計画している。しかし、原料になる "ST" は極めて高価なので、「15K」 の特許 (ライセンス) を製薬会社に売却して、多額の「軍資金」を得るまで、しばらく 「待機状態」 を続けている。 もし 「ST-3009」 の合成に成功すれば、(彫刻家ミケランジェロの作品に喩えれば、「ダビデ」像に相当する) 「我が人生最後の芸術作品」(「科学の粋」を集めた作品) になるだろう。
ミノサイクリン錠剤
https://allabout.co.jp/r_health/healthdb/medicinedb/detail/847046/
日本国内では、例えば、ジェネリック医薬品会社 「沢井製薬」 が100 mg 錠剤、一粒30円程度で市販しています。大人、朝晩1錠づつ (一日の薬価はたった60円!) . ただし、薬局で購入するためには、医師の処方箋が必要!
Minocycline (MC) については、シンガポールの日本語通販サイト (下記) を通じて、処方箋なしで、輸入できるようです。 もっとも、値段は日本や豪州の2-3倍ですが:
https://www.sorashido.com/item/detail?item_prefix=TF&item_code=008380&item_branch=002
注意: ただし、 NF などの遺伝子病の治療は 「生涯療法」ですから、MC の常用による 「MC耐性菌/腫瘍」 発生の可能性をなくするために (MC単独ではなく) 「プロポリスとの併用」 (多剤療法) をお勧めします。
最も印象的なのは、メラトニンと同様、"MC が睡眠を深くし、記憶力を高める" ことである(5)。 この研究は(驚くなかれ) 動物実験ではなく、(ドイツで最近行なれた) 若者を対象にした臨床(人体) 実験の結果である。 健康な 受験生諸君にも、是非お勧めしたい薬である (一日60円で記憶が増進すれば、受験前には、飲まずにはいられない!)。
2、3年前の研究論文によれば、MC 処理により、ショウジョウバエの寿命が4割も延びることがわかっている(6) 。従って、MC の副作用は殆んどないと考えれる。
参考文献:
1. Apoorv TS, Babu PP.
Minocycline prevents cerebral malaria, confers neuroprotection and
increases survivability of mice during Plasmodium berghei ANKA infection.
Cytokine. 2017 ; 90 :113-123.
2. Jackson JW, Singh MV, Singh VB et al. Novel Antiplatelet Activity of Minocycline
Involves Inhibition of MLK3-p38 Mitogen Activated Protein Kinase Axis. PLoS
One. 2016 ;11(6):e0157115.
3. Nheu TV, He H, Hirokawa Y, Tamaki K, Florin L, Schmitz ML,
Suzuki-Takahashi , Jorissen RN, Burgess AW, Nishimura S, Wood J, Maruta H. The
K252a derivatives, inhibitors for the PAK/MLK kinase family selectively block
the growth of RAS transformants. Cancer J. 2002 ;8(4):328-36.
4. Lee MJ, Hung SH, Huang MC, Tsai T, Chen CT. Doxycycline
potentiates antitumor effect of 5-aminolevulinic acid-mediated photodynamic
therapy in malignant peripheral nerve sheath tumor (MPNST) cells. PLoS One.
2017; 12(5):e0178493.5. Besedovsky L, Schmidt EM, Linz B, Diekelmann S, Lange T, Born J. Signs of enhanced sleep and sleep-associated memory processing following the anti-inflammatory antibiotic minocycline in men. J Psychopharmacol. 2017 ; 31(2):204-210.
6. Mora . M. et al. Minocycline, but not ascorbic acid, increases motor activity and extends the lifespan of Drosophila melanogaster. Invest. Clin. 54 (2013), 161-70.
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