2017年8月15日火曜日

緑色の蛍光を発するキノコ成分の 「正体」 は、
PAK阻害剤 「Hispidin」 の誘導体!

2008年に、オワンクラゲ由来の緑色蛍光蛋白(GFP) の発見に対して、米国永住の下村脩博士がノーベル化学賞を、他の2人の科学者とシェアした。 この際、 下村さんに、こう質問した記者がいた。「GFP を先生が発見したのは、もう半世紀近く昔のことですが、その後、どんな研究を主にしてきましたか?」。 下村さん曰く 「蛍光を発するキノコの研究をずっと続けています」。 

 一体、なぜオワンクラゲから蛍光キノコに鞍替えしたかについては、色々の憶測があるが、その理由の一つは、以前オワンクラゲが沢山生息していた太平洋沿岸 (カナダのBritish Columbia) にある海域から、(GFP遺伝子のクローニングが終了直後) 1990年代初期に忽然として、オワンクラゲが姿を消してしまったからである!    そこで、神出鬼没な海産物から、姿を消さぬ植物、特に"キノコの蛍光物質" に焦点を合わせたのだろう。 

 さて、私自身が一体なぜ、最近突然、蛍光キノコに興味をもつようになったか、そのきっかけをお話しよう。 実は、最近、ある海外医学雑誌に頼まれて、「美白作用のあるPAK遮断剤」について、総説を投稿したところ、審査員から幾つかの注文や質問を受け取った。その中に、天然PAK阻害剤である 「Hispidin」について、その起源植物が何か、しつこい質問があった。 我々は沖縄産の月桃という植物の葉っぱから抽出されるDKと呼ばれる成分を塩酸と酵素で処理して得られる 「Hispidin」を研究材料に使用していた。 しかしながら、「Hispidin」 が各種のキノコにも天然に存在していることを知っていた。そこで、どのキノコに 「Hispidin」 が潤沢に存在いるかを調べているうちに、"蛍光キノコに関する最近の学術記事" に遭遇したというわけである。

生物体が蛍光を発するためには、少なくとも2種類の物質が必須である。一つは蛍光を発する物質 「ルシフェリン」 である。 もう一つは、このルシフェリンを酸化する酵素 「ルシフェラーゼ」 である。 この酵素は一般にATP依存である。GFPの場合は、この2つが同一蛋白中にあった。  さて、ブラジルのサンパウロ大学の研究グループによれば、アマゾンのジャングルに生息するある蛍光キノコは、緑色の蛍光を夜中に発する。 その蛍光物質 (ルシフェリン) の正体を、去る4月に遂に、突き止めた!  その名は「3-OH Hispidin」、なんと「PAK阻害剤」の誘導体だった (1)!  「ルシフェラーゼ」 もクローン済みとのこと!
そこで突然、ある「アイディア」 が頭をかすめたが、"特許の対象" になるかもしれないので、ここでお話をとどめることにしよう。。。

  (「GFP」の場合同様) このルシフェリンの (フェノール環部位の) 化学構造を変化させることによって、緑色ばかりではなく、「赤から青まで七色」の蛍光を発しう新しいキノコ成分を創り上げることができるそうである。 従って、ヒスピディン誘導体のみならず、他の多くの 「アルファーピロン」 化合物の微量定量 (検出) 法の試薬として、このキノコ由来のルシフェラーゼが利用される可能性が出てきた。 ひょっとしたら、ドラマ 「科捜研の女」か「相棒」の主人公が好きな試薬になるかもしれない。。。 犯行現場の草むらには、犯行の瞬間をじっと目撃していた「謎の生き物」 が生息していた! 

照明用 「キノコ」 太陽電池  (Mushroom LED Lamp=MLL) !

更に、面白いことには、"キノコが蛍光を発するのは夜間のみ" である。 昼間は(一たん) 「酸化されたルシフェリン」 を、太陽の光と熱エネルギーで活性化される 「還元酵素」 (Recyclase)  の働きで、還元型に戻し、次の夜間照明に備える。  従って、このキノコの "ルシフェリン酸化還元酵素系" を利用して、夜間照明専門の 「生物太陽電池」 を、近い将来、開発しうる可能性が出てきた。  ホタルの光や窓の雪を利用して (科挙の) 受験勉強をしていた古代中国の「蛍雪時代」 から、21世紀は 「キノコ太陽電池時代」に進化/脱皮せんとしている。。。


Affinity-purification of mushroom luciferin;




If you are interested in “one-step” affinity-purification of the luciferase from mushroom extract,
you need to synthesize a new luciferin derivative (called “amino luciferin”) in which di-hydroxyl benzene is replaced by p-amino-benzene. This ligand can be covalently linked to "profinity-epoxide resin" (from Bio-Rad, click the above webside), and after mixing the (dialyzed) extract with the luciferin-beads for a few hours (or over night), spin down the beads and wash them with a saline a few times, and then elute the luciferase from beads by high salt such as 1 M NaCl (and then remove the salt by dialysis).

I have just received an e-mail from Ilia Yampolsky at Moscow that they have already cloned cDNA encoding the mushroom luciferase! 
蛍光キノコの栽培で、研究費を稼ぐ!
実は、下村さんがノーベル賞をもらう直前に、ハーバード大学出版から "GFP" などの蛍光蛋白に関する大衆向けの本が出版された。表題は「Aglow in the Dark」(直訳すれば、「暗黙の輝き」)。 受賞後に青土社から邦訳 「光るクラゲ」 が出たそうである。その本の最後辺りに、モスクワにある「ロシア科学アカデミー研究所」の生物化学者たちが、珊瑚礁から新しいルシフェリン (ルビー色の蛍光物質) を発見したエピソードが載っていた。その鼻に面白い話があった。 

この生物研究所は、1980年頃にソ連軍の予算で建設されたもので、(日本でいえば、理研や産総研などのごとく) 莫大な政府予算で運営されていた (恐らく、「生物化学兵器」の開発もやっていた疑いがある) が、1990年頃にベルリンの壁が崩壊、"ソ連" 自体も崩壊したため、予算が激減して、研究所の半分は「開店休業」状態になった。 給料が激減したので、職員が海外へ流出したからである。そこで、所長に抜擢されたセルゲイという若者は、研究所の空き部屋で、「キノコ栽培」 を始め、その売り上げで、研究所を運営していた。 その中に、暗闇に怪しく光る (食用兼観賞用) 蛍光キノコがあったのではないかと、私は想像している。というのは、現在、そこを引き継いでいる有機化学者イリア=ヤンポルスキー所長が、上述のブラジル産 「食用蛍光キノコ」 のルシフェリン研究を主導しているからである。 食用蛍光キノコは疑いもなく、「健康長寿に役立つPAK遮断剤」であるから、比較的高価な食材 (野菜)である。従って、これを自家栽培して、その売り上げで研究費を稼ぐという 「ロシア方式」 は、実に 「痛快」 だと私は思う。 真似をしたいくらいだ!

 参考文献:  

1. Kaskova ZM, Dörr FA, Petushkov VN et al. Mechanism and color modulation of fungal bioluminescence. Sci Adv. 3 (2017): e1602847.


 

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