2021年1月18日月曜日

「物理学者」だったドイツのメルケル首相:
2005 年以来、安定な長期政権を操縦!

戦後の西ドイツで最も人気があった政治家は、ベルリン市長を経て、SPD の党首として首相になったウイリー=ブラント ( 1969-1974 ) であるが、それを上回る人気が今、統一ドイツの首相 アンゲラ=メルケルに集まっている。
現在、 「Die Mutti 」 (お母さん) という愛称で呼ばれるドイツの首相 (宰相)、アンゲラ=メルケルは、2005年に、51歳 (最年少) で、しかも「初の女性首相」として、ドイツの大連立政権 (第一党 CDU と第二党SPD) の首相に就任して以来、西欧で最も安定したリーダーシップを維持している。 その間、日本では小泉から菅 (すが) まで9人もの首相が目まぐるしく交代している。より安定な英国でも、ブレア からジョンソンまで、5名もの首相が既に交代している。 メルケルは次の総選挙では、首相に立候補しないと明言しているが、確実な後継者が未だ決まっていない。。。彼女の強さは、一体どこにあるのか?
メルケルが党首をしているCDU はキリスト教中道保守党である。野党 SPD は社会民主党。 佐藤伸行著 (2016年) 「世界最強の女帝: メルケルの謎」によれば、メルケルは1954年に西独ハンブルグに生まれ、ポーランド系「プロテスタント」牧師の娘 (3人兄弟の長女) だったが、一家はベルリンが東西に分離される前に、教会の要請に従い、東独へ移住した。 従って、最終的に悪名高き「ベルリンの壁」が崩壊する1990年頃まで35年余り、東独領内で生活していた。 1973年にライプチヒ大学に入学して、物理学を専攻 (最終的には"博士号"まで取得) する。1977年に友人の一人、ウーリッヒ=メルケルと学生結婚する。 しかし、その結婚 (若気の至り) は3年で破綻し、1982年に離婚。 その後、量子化学の世界的権威、先輩のヨアヒム=ザウアーを「生涯の伴侶」として選び、1998年に再婚届を出す。 しかし、(再婚同士からか) 苗字は引続き前夫の「メルケル」を踏襲する。
以上の経歴から、彼女は、父親から学んだキリスト教の「寛容の精神」と科学者としての「客観的な判断」の持ち主だと思われる。メルケルの最大の武器は「自由主義」だった。しかし、東独内では、「沈黙は金」であることも学んだ。 これに関して、面白いエピソードが残っている。 彼女が東独当局から "スパイ" 活動に歓誘されたとき、「私は御喋りだから、秘密を守ることができません」と言って、歓誘をやんわり断わった (相手を煙に巻く素晴らしい "ウイット" の片鱗をのぞかせた) 。。。
1990年の「ベルリンの壁」崩壊後、メルケルは東独内に誕生した市民政党「民主的出発」のメンバーになる。この政党は、牧師など教会関係者が中心になって結成した中道政党で、社会主義にも資本主義にも組しない第三政党だった。 しかしながら、最終的には、東西ドイツ統一後、現在のCDUに吸収される。 メルケルの政界へのデビューは、1990年に成立した東独CDU新政府 (デメジエール内閣) の「副報道官」への就任だった。メルケルの強みは、語学力、特に英語やロシア語などを流暢に話すことだった。 ロシアの支配者「プーチン」が彼女の巧みなロシア語に舌を巻いたというエピソードは極めて有名である。 。。
報道官とは、日本で言うと「官房長官」に相当するが、官房長官だった「スガーリン」との最大の違いは、メルケルの卓越した語学力と自然科学の深い知識だった。 しかも「敵を決して作らぬ」ことである。 自分の指示に従わぬ者を左遷したり、首にしたりするような (暴君的な) 処置は絶対にしない! メルケルは「和」の精神に徹している。。。もし「スガーリン」が長期政権を願うのならば、「メルケルの爪」を煎じて飲むと良い! 次期 (あるいは将来) 首相の座を狙う小池 氏 (都知事) も、いわゆる「女帝」をめざすなら、メルケルから学ぶべきことが多いと、私は思う。
もう一つ、気になるのは、対中国外交で、メルケルのドイツと (安倍-菅) の日本との間に大きな違いがある。日独両国は、いわゆる車やハイテックの輸出国であり、人口の多い中国が最大の 市場である。当然のことながら、独中関係は日増しに緊密化しているが、日中関係は (過去の「歴史」認識問題で) いつまでも「ぎくしゃく」している。 日本政府はもっと「大人になって」過去をすっかり清算したらどうだろうか?
私が1980年代前半、西独のミュンヘン郊外にあるMax-Planck 研究所に数年ほど勤務していた頃、同僚の若い夫婦は両方とも、分子生物学者で、熱狂的なSPD 支持 者だったが、2005年の総選挙で、(それまで政権を担当していた) SPD がCDU に敗れ、結局、CDUの党首メルケルが首相になった時、大変失望していたようだったが、次第にメルケルの「実力」が判明し、夫婦共、結局、「Die Mutti」 メルケルの手腕に期待するようになった。。。「メルケルに任せておけば安心」という気運がインテリ層の間に広く浸透しつつある。実は2006年の春から2007年の秋まで一年半ほど、私は幸運にもドイツのハンブルグ大学病院 (UKE)で、共同研究のため、再び客員教授として滞在する機会を得て、メルケル治世の統一ドイツを直に味わう機会を得た。 片や、安倍しんぞうも8年近い長期政権を誇ったが、「安倍に任せておけば安心」という気運は、私自身を含めてインテリ層には、全く感じられなかった! ひどい違いである。。。「スガーリン」に関して言えば、「吐き気がする」!

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