2021年1月24日日曜日

病原菌由来の "RNA" ワクチン: せんちゅうが病原菌を
避ける記憶 (免疫) のメカニズム

Kaletsky R, Moore RS, Vrla GD, Parsons LR, Gitai Z, Murphy CT. C. elegans interprets bacterial non-coding RNAs to learn pathogenic avoidance. Nature. 2020 Oct; 586(7829):445-451.
さて、森や野山を散歩していて、珍しい茸を見つけたとする。食用の茸か毒茸かを見分けるには、茸の専門家としての深い知識 (教養) が必要である。 最近、Nature 誌上に発表された論文によると、(バクテリアを主食とする) 「せんちゅう」(線虫) には、茸ではなく、様々なバクテリアの中から、食用のものと病原性のものとを、簡単に区別しうるメカニズムが存在する。 しかも、驚くなかれ、その記憶 (学習効果) は "4代" に渡って (曾孫まで)、遺伝する!
この画期的な発見をしたのは、米国プリンストン大学のチームである。 我々は通常、実験室では (病原性のない) 大腸菌をせんちゅうの餌にするが、 この研究チームの場合は、病原性と非病原性の緑膿菌を、それぞれ餌にして、せんちゅうがどう対応/区別するかを研究してきた。 それによると、病原性の緑膿菌を食べさせられた線虫はもう二度と、病原性の緑膿菌を食べようとしなくなるが、非病原性の緑膿菌は食べる。 つまり、せんちゅうは何らかのメカニズムで、菌の病原性を記憶して、それを避ける能力を獲得する。
研究の結果、その記憶は、病原性の細菌由来の特種な "RNA" (P11) によることが判明した。そのRNA が、何らかのメカニズムで、宿主の神経蛋白 (マコイリン) を刺激するらしい。 せんちゅうの神経がそれを記憶し、その病原性の細菌を避ける指令を出すらしい。 しかも、その指令は、その "4世代" 後まで、遺伝する。 ついでながら、マコイリンは人類の神経にも存在する!
せんちゅうには、我々哺乳類のような抗体産生を介する免疫メカニズムはないが、細菌由来の特種なRNAが「ワクチン代わり」になって、病気を未然に予防しうる装置が備わっているわけである。 バクテリアがそのウイルス (ファージ) に抵抗するために、Casper RNA を利用するのと、類似している。 従って、進化論 (水平思考) に従えば、我々人類にも、"PAK遮断剤" を経口するという「高等知識」以外に、同じような (例えば、COVID-19 を感知/予防しうる 「臭覚」などの) "原始的な" 装置が備わっている可能性がある。。。特に、我々の「臭覚」は、汚物の「悪臭」とジャスミンや沈丁花などの「芳香」をハッキリ化学的に区別して、(生涯に渡って) 記憶する機能をもっている。。。
さて、COVID-19 などのウイルスは一体どんな臭いだろうか? 南米チリの警察軍(カラビネロス)が、新型コロナウイルス感染者を犬の嗅覚で見つけられないか、訓練を続けている。共同研究するカトリック大のフェルナンド・マルドネス教授は「ウイルス自体には、臭いはない。しかし、感染者の代謝に変化はあるはずだ」と強調。汗の臭いを嗅ぎ分けられないかと考えている。
訓練中なのはゴールデンレトリバー3頭とラブラドールレトリバー1頭。既に麻薬や爆発物、行方不明者らの捜索で現場を経験している。マルドネス教授は、人間の結核や寄生虫感染、さらに早期のがんを犬が発見できる証拠があると主張。欧州やドバイで行った実験では "95%" の高率で "新型コロナの感染者"を嗅ぎ出したという!
数年前だが、ある九大の科学者によれば、せんちゅうが、患者の尿で癌の存否を判定できる、という話を聞いたことがある: 線虫は、犬より優れた嗅覚で、がん患者の尿に含まれる特有のにおいに近づき、健康な人の尿からは逃げる性質を利用して判定する。2020年初めに、この癌判定テスト (N-Nose) が「広津バイオ」によって実用化されたそうである。ただし、せんちゅうを引き付ける癌細胞特有の代謝物 (chemo-attractant) の同定は、未だ行われていないようである。 https://www.nishinippon.co.jp/item/n/547647/

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