2021年4月30日金曜日

コール (石炭) タールから "アニリン染料" (MB etc) ,
更に "化学療法剤 " (サルバルサン 等) の開発

19世紀の中頃 (1856年)、産業革命の最中、 石炭の廃物 (コールタール) から「アニリン」と呼ぶ有機アミンを発見した若者がいた! その発見により、世界 (欧州) の染料界に「大革命」が起こった。発見者は、英国のロンドンのイーストエンドに住む18歳の早熟な学生、ウイリアム=パーキン (1838-1907) だった、 彼は自宅の屋根裏部屋に、小さな化学の実験室をもっていた。
さて、イースター (復活祭) の休みに、王立化学大学のアウグスト=ホフマン教授の指示に従い、コールタールを分離蒸留して得られる様々な有機物の中から、アミン (NH2) を含む化合物を分析していた。 というのは、当時、マラリア特効薬として天然物の「キニーネ」が知られていたが、このキニーネ分子には、2個の窒素が含れていた。 そこで、 コールタールからマラリア特効薬になるような化合物を見つけ出すことが、当初の目的だった。パーキンが見つけた化合物は、ベンゼン 環にアミンが一個付加した単純な「無色」の物質だった。それを「アニリン」と名付けた。
更に、マラリアの特効薬であるキニーネを合成しようと、アニリンを酸化する反応を試すうち、偶然、紫色の染料(モーブ=藍)を作り出した。彼は資産家であった父親を説得し、この染料を作る工場を設立した。これが、以後、数百種類製造されることになる合成染料の第1号!
さて、その後20年経って、スイスのバーゼルにあった「CIBA」の前身 (BASF) の有機化学者、ハインリッヒ=カロ (1834-1910) により、アニリン誘導体に、硫化水素を加え、鉄イオン等を触媒にして、メチレンブルー (MB) なる新しい青色染料が合成された。 2年後 (1878 年) には、上司アドルフ=フォン=バイヤーと共に、天然の「インディゴ」という青い染料の「有機合成」 にも、初めて成功した。 1909年に、梅毒の特効薬 「サルバルサン」がドイツの「パウル=エーリッヒ」(1854-1915) によって、アニリン色素にヒ素を結合させて合成され、最初の「化学療法剤」が開発された! 戦争中 (1943年頃) にスウエーデンの有機化学者により開発された結核の特効薬 「PAS」(p-Amino Salicylate) もアニリンの誘導体である。 敗戦直後、私自身を含めて "我が世代" (70-80歳代) は、「PAS 」のお蔭で命拾いをした!
それから半世紀ほど経った、1999年頃に、英独仏の国際チームが、漢方薬で「慢性骨髄白血症」(CML) の治療薬として古来から知られている「青染インディゴ」の抗癌有効成分「インディルービン」が発癌キナーゼ「CDK」 の阻害剤であることを発見した。 こうして、アニリン染料が抗癌剤などとしても、注目され始めた。。。しかしながら、今世紀に入って、スイスのNovartis (Ciba-Geigy と Monsato の合弁会社) が "CML" の特効薬として、Gleevec を市販した。このGleevec はチロシンキナーゼ (ABL, PDGFR, KIT 等) に対する阻害剤で、副作用が殆んどない。 アニリンの誘導体ではあるが、無色。
もし、MB がせんちゅうの寿命を延ばすことを証明できれば、 MB が、恐らく史上初の市販「健康長寿色素」 (染料) となるだろう。そこで、若者諸君の発奮を大いに期待したい!

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