2019年10月31日木曜日

MELK 阻害剤「OTS167」は PAK 遮断剤!

数年前に、シカゴ大学の中村祐輔名誉教授 (阪大医学部出身) の研究室と川崎市内にある「Onco-Therapy Science」(OTS, 2001 年設立) の松尾研究室との共同研究により、強力な MELK (Maternal embryonic leucine zipper kinase) 阻害剤として「OTS167」が開発された (1) 。その後しばらくして、面白いことには、この薬剤が「p21」と呼ばれる抗癌遺伝子の発現を誘導することが判明した (2)。実は、 p21の発現は発癌キナーゼ「PAK」によって抑制されていることが、我々の手によって十数年前にわかっていた。従って、この薬剤が何らかのメカニズムで、PAKを遮断していることが予想される。案の定、ごく最近になって、そのPAK遮断作用が、スペインンのバルセローナの研究グループによって実証された (3)。 しかも「PKC1」阻害剤と相乗作用があるという。


参考文献:

1.      Chung S1, Suzuki H, Miyamoto T, Takamatsu N, Tatsuguchi A, Ueda K, Kijima K, Nakamura Y, Matsuo Y. Development of an orally-administrative MELK-targeting inhibitor that suppresses the growth of various types of human cancer. Oncotarget. 2012 ;3(12):1629-40.
2.       Chung S, Kijima K, Kudo A et al. Preclinical evaluation of biomarkers associated with antitumor activity of MELK inhibitor. Oncotarget. 2016;7(14):18171-82.
3.   Ito M, Codony-Servat C, Codony-Servat J et al., Targeting PKCι-PAK1 signaling pathways in EGFR and KRAS mutant adenocarcinoma and lung squamous cell carcinoma. Cell Commun Signal. 2019 Oct 28;17(1):137.

2019年10月26日土曜日

「PAK遮断剤」開発のため「日独」共同研究班を発足!

10月12日にニューヨーク市内で開催された国際PAKシンポジウムに招待講演をやっくれた米国メネソタ大学の薬学教授 Gunda Georg 女史は、PAK遮断剤 "Minnelide" (Triptolide の誘導体) の市販をめざして、 (スイゾウ癌患者向けの)  臨床テストを目下進めているが、実はドイツ中部にある Marburg 大学出身の有機化学者である。 この大学から、11名のノーベル受賞者が輩出した (京大や東大をしのぐ!) が、その中で最も有名な受賞者は、1901年に最初のノーベル医学賞をもらったエミール=フォン=ベーリングであろう。北里柴三郎らとジフテリア抗毒素 (血清) などを開発した免疫学者である。 ベーリングはベルリンのコッホ研究所に勤務していた頃、ベルリン大学病院に勤務していた病理学者パウル=エーリッヒと親しくなり、以後晩年まで、色々な面で互いに助け合った「会心 の友」である。 エーリッヒが晩年開発した梅毒の特効薬「サルバルサン」をめぐる裁判事件では、エーリッヒの「魔法の弾丸」の薬効を雄弁に弁護した。

さて、PAKシンポジウムの後、 Georg 女史と文通 (メール) を交す間に、鎮痛剤「ケトロラック」や抗生物質「マイコフェノール酸」(両者ともPAK 遮断剤) をめぐるいくつかの新しい誘導体に関するアイディアが生まれ、日独間で共同研究を始めることになった。詳しい内容は (成功の暁には) 特許申請にも関わることなので、ここでは省略するが、"15K " に勝るべき一連のケトロラック/マイコフェノール酸の誘導体を合成してみることになった。 この共同研究に直接参画する女史傘下の優秀な院生には、「PAK研究財団」から短期 (恐らく一年) の奨学金を支給する計画である。

2019年10月21日月曜日

「HIV耐性遺伝子は寿命を縮める」と主張する
非常識な「ウソ」論文 (NatureMedicine) !

米国の名門 "カリフォルニア大学 (バークレー校) "の研究グループが、極めて「非常識な」結論を出して、Nature.Medicine 誌に論文を掲載した。「HIV耐性遺伝子は寿命を縮める」という結論だった。 ところが、疑問をもったいくつかのグループが"追試"をやったところ、どこでも実証されなかった。結局、最近、その論文は撤回されざるを得なくなった! 
ちなみに、この論文の投稿責任者 (First Author) は、ラスムス=ニールセン教授 (デンマーク出身) のポスドク (中国系女性、Xinzhu Wei) だそうである。「小保方事件の米国版」と言えるかもしれない。

そもそも HIVやインフルエンザなどのウイルス感染には、発癌同様、PAK が必須である。 従って、本来PAKを抑えているNF2蛋白 (メルリン) などが機能を失うと、脳に腫瘍ができるばかりではなく、感染症にかかりやすくなり、寿命が縮まる可能性が高まる (少なくともマウスでは、NF2遺伝子が欠損すると、寿命が短くなる!)。

逆にプロポリスなどで、PAKを抑えると、寿命が長くなる。従って、ごく常識的に考えれば、「HIV耐性遺伝子」はプロポリス同様、寿命を延長する働きを持つはずである。それを逆に「寿命を縮める」という結論を出すこと自体、非常識であるが、そんな論文を掲載することに同意した権威ある「ネイチャー医学」誌の編集長の良識が甚だ疑われる。もし、私がこの雑誌の経営者だったから、この編集長を即刻クビにするだろう。

2019年10月20日日曜日

2019年10月12日: マラソンで「2 時間の壁」を遂に破る!

マイル (1。6 km) レースで 英国のオックフォード大学医学部学生であるロジャー=バニスターが、遂に「4分の壁」を破ったのは、1954年5月6日だった。英国遠征隊のエドモント=ヒラリー (NZ 出身) とテンジン=ノーゲイ (ネパール出身) が最高峰エベレスト征服 (初登頂) に成功してから、ちょうど一年後の快挙だった。
 

ごく最近、マラソンで2時間1分39秒の世界記録を持つエリウド・キプチョゲ(ケニア、"リオ五輪" 金メダリスト)が非公認の記録ながら、人類で初めて「2 時間の壁」を見事に突破した。

 丁度、我々がニューヨークで「国際PAKシンポジウム」を開催していた同じ12日に、ウィーンでの「2時間切りにチャレンジする」レースで、1時間59分40秒でゴールインした。この歴史的なマラソンレースも、涼しい 10月 が「マラソンに最適である」ことを改めて、実証した。もし、2020年 "東京五輪" を10月に延期したら、キプチョゲがマラソンレースで連覇するばかりではなく、「2時間の壁」を公式に破ることができるかもしれない。。。

42キロすぎ。キプチョゲは記録を確信すると、歴史の証人となる沿道の観客を盛り上げるように、何度も腕を突き上げた。大きな喝采を浴びながら、フィニッシュラインを駆け抜けた。タイムは驚異の1時間59分40秒。非公認とはいえ、人類で初めて、42・195キロを2時間切りしたことには変わりない。限界と言われていた壁を超えてみせた。フィニッシュしても、余力はたっぷり。輪になった仲間から担ぎ上げられ、笑顔で歓喜に浸った。その後、ケニアの国旗を掲げ、集まった観客の前を走り回った。

レースはペースメーカーが1キロあたり2分50秒のタイムで走れるように、先導車は道にライトで目印を作り、変動のない理想的なペースメークをアシスト。風よけにもなるペースメーカーは前5人、後ろ2人が入れ替わる形で、42・195キロを通じ、好条件を作り出した。

キプチョゲは10キロを28分20秒、20キロを56分47秒、30キロを1時間25分11秒、40キロを1時間53分36秒で通過した。

2019年10月18日金曜日

2020東京五輪の「マラソンと競歩」のレース会場が
札幌に移転!

1964年の東京五輪は、涼しい10月に首尾良く開催された。ところが、2020年開催予定の東京五輪は、何故か「蒸し暑い」真夏の8月に、開催が決定された。 常識的に言って、これは競技に参加する (特に、陸上競技を含めて、炎天下の屋外で競技せざるをえない) 全ての選手たちにとって、明らかに不都合だった。この「不都合な」決定の背後に一体何があったのかは、東京五輪開催委員会 (森委員長) や安倍政権以外の知るところではない。

しかしながら、陸上競技、特に長距離競技の選手団から、不満がとうとう爆発した。42キロを走るマラソン選手、20-50キロを競歩する選手たちから、"会場" を東京から札幌へ移転すべきという常識的な声があがった。 私自身の意見によれば、長距離ばかりではなく、陸上競技は全て、札幌に会場を移すべきである!  つまり、少なくとも2020年の五輪陸上競技は、2020「札幌」五輪にすべきである。 それが嫌なら、2020年(東京) 五輪は全部、涼しい10月に延期すべきである!   
五輪はそもそも「参加する全ての選手ファースト」でなくてはならない。テレビ放送局や観光業者などを含めて「商者の利権ファースト」 ("商業主義" を優先して) はならない!

日本のラグビーは目下ワールドカップで「破竹の勢い」だが、残念ながらラグビーは、未だ五輪競技ではない。従って、早大ラグビー部出身の森JOC委員長 (元総理) の発言は、競歩で優勝 (金メダル) 候補の山西選手 (京大出身) に比べて、学力ばかりではなく説得力にも欠ける。従って、この二者がもし対決すれば、勝負の結果は自ずから明らか!  JOC の威信は単純に、取得「金メダルの数」で決まるからだ。。。

 ごく最近の報道によれば、IOC 会長が東京五輪のマラソンと競歩のレース会場を「札幌に移転」すると決定した途端、何を勘違いしたのか、小池都知事は、「北方領土」(ロシア領?) に移転したほうがましだと、怒り (不満) をあらわにしたという。 彼女の良識が甚だ疑われる。。

自らの都知事としての権威 (エゴ) ばかりを振り回わし、マラソンや競歩など長距離競技に参加する選手たちの健康を無視し、あくまでも、猛暑8月の東京でレースを強行せんとする小池都知事には、とても2020年の東京五輪を主催する資格がない! できれば、五輪開催前に辞任してもらいたい!    涼しい (然も) マイカー排気ガス の少ない札幌のほうが、ロードレースに適していることは、誰の目にも明らかである。 

来年の 都知事選挙は、小池知事の任期が満了する7月30日から一ヶ月前以内 ( 7月5日に内定!) に施行されるが、"五輪の開催を涼しい10月に延期する" 柔軟な頭の知事候補を選びたい。 どうやら、「石頭」の小池さんは、「五輪開催の器」ではなさそう。今のところ、都知事候補としては、野党連合は蓮舫氏 (立憲)、与党 (自民党) は丸川珠代氏 (東大経済学部卒、五輪大臣、鳩山首相に「ルーピー」という野次を飛ばして、問責される) に、焦点を絞っている模様。 従って、小池氏が再選を狙うならば、「女性候補だけの三つ巴」となろう。。。

30年以上昔、私はアテネに癌学会参加のため、初めて訪問し、アテネからマラトンまで、マラソンを走破しようと計画していたが、アテネ市内にひしめく観光用タクシーのひどい排気ガスに悩まされて、とうとう断念した苦い経験がある。

「マラソン」の歴史的起源は、紀元前490年頃に、アテネ軍が侵略しつつあるペルシャ軍をマラトンの丘で破り、その勝利を伝えるため、伝令兵士 (フィリピデス) がアテネ市内まで42キロの道を走破して、アテネの勝利を伝えた直後、倒れたという伝説に基づく。

2019年10月9日水曜日

ノーベル化学賞候補に、メルボルンの生化学者
(グラハム=ミッチェルら、GST 融合蛋白の発明者)

1980年代後半に、ノーベル化学賞に輝くPCR (Polymerase Chain Reaction) 技術とほぼ同時に開発された極めて簡便な「GST融合蛋白」技術は、実はメルボルンのWEHI の研究者によって、発見された。私が1988年初めに、米国のサンディエゴから 豪州メルボルンの癌研 (WEHI の隣り) に転勤する直前 (1、2 週間前) だった。 この技術は、面白いことには、日本住血吸虫(学名:Schistosoma japonicum)由来のGST (Glutathione S-Transferase) 遺伝子が利用したもので、GST遺伝子に、自分が好む蛋白遺伝子 (例えば、 RAS やPAK) を融合して、大腸菌中で大量生産後、GSTの基質であるGSH (グルタチオン) を寒天ビーズに固定したカラムで、one-stepで精製できる (1)。

この技術とPCR を組み合わせると、あらゆる蛋白の凡ゆる変異体を自由自在に創造しうる。 この技術を応用して、1990年代前半に、我々のチームは、発癌蛋白RAS から各種の変異体を創り出して、その発癌メカニズムを解明すると共に、逆に (RAS 類似の) 新しい抗癌蛋白「RAP 」類の開発にも成功した。 この技術は、後に開発され2008年のノーベル化学賞にも輝いた「GFP融合蛋白」と同様、 生化学の目覚しい発展に貢献した。 従って、その恩恵を受けた地元の我々自身の意見では、GST融合蛋白の開拓者も、いつか「ノーベル化学賞」に価いすると確信している。このGST融合蛋白の開発者は、Jacques Miller  と共に、B 細胞 や T 細胞を発見した弟子 (院生) の Graham Mitchell の「寄生虫学研究」チームだった。そういう意味で、 後者の貢献度は "ダブル" に大きい!  

彼は元来、獣医で「GST融合蛋白」技術の開発後間もなく、WEHI を辞めて、1990年頃から、メルボルン動物園の園長を 3年ほど担当していたのを、私は鮮明に記憶している。本庶さん (京大) や私とほぼ同年 (喜寿) である Grahamは、 (私同様) 冒険好きで、色々新しい分野で、腕試しをするのが大好きなので、"ノーベル賞候補" の彼を、近い将来、"PAK" 陣営に勧誘してみようと考えている。来る12月10日 (ノーベル受賞日) に、メルボルン市内で、Mitchell  とその恩師 Nossal と面会し、PAK遮断剤「15K」などについて協議する手筈になっている。 

今年は、ノーベル化学賞を「リチウム電池」の開発に貢献した吉野 彰 (71歳、京大工学部卒、旭化成) らが受賞したというニュースを聞いて、余りしっくりしなかった。(我々が頻繁に利用する) ジャンボ=ジェット機 (のコンピューター装置など) で、良く火災事故を引き起こすリチウム電池にどんな社会的な貢献があるんだろうか?  もう一つ、受賞者の一人 (米国テキサス大学のジョン=グッドイナフ、「十分に良い」という苗字) はなんと97歳だという。従来の受賞「長齢記録」 (南部陽一郎さんらの87歳) を大幅に更新した。 そんなに長生きしないと、(十分に良く) 評価してもらえないとは。。。南部さんの場合は「健康上の理由」で、ストックホルムには出向かなかった。地元米国シカゴにあるスヱーデン領事館で受賞した。さて、グッドイナフ (Goodenough) 氏は果して、どう対応するだろうか? 

実は、巷の下馬表では、今年の化学賞は「ゲノム編集」技術を開発した欧米の2名の女性分子生物学者へ、とされていた。 再び、女性が差別を受けた感がある。。。


参考文献: 

Expression of an enzymatically active parasite molecule in Escherichia coli: Schistosoma japonicum glutathione S-transferase. Mol Biochem Parasitol. 1988; 27(2-3): 249-256.

2019年10月5日土曜日

世界陸上2019: 遂に「競歩王国」になった日本!

陸上の世界選手権が 目下、中近東のカタール王国「ドーハ」で開催されているが、10月4日の真夜中、男子20キロ競歩が行われ、世界ランキング1位の山西利和(23)=愛知製鋼=が1時間26分34秒で金メダルに輝いた。この種目の日本選手のメダル獲得は五輪、世界選手権を通じて史上初。今大会のメダル獲得は男子50キロ競歩, 鈴木雄介(富士通)の金メダルに続いて2個目。山西も鈴木と共に、日本陸連が定める「3位以内で日本勢最上位」という基準を満たし、来年の東京五輪代表に決まった。

さて、"眼鏡" がトレードマーク (眼鏡をかけたままスポーツをする選手は極めて珍しい!) の 山西選手は驚くなかれ「京大」出身、初出場で世界競歩の頂点に達した。酷暑のため直射日光を避け、"夜中の11時半スタート"という異例のレース。山西は第2集団から一人で中国選手を追いかけて7キロ過ぎに並び、そのまま先頭へ。その後は一人旅 (「独走」ではなく「独歩」) で逃げ切った。かくして、日本男子は競歩で20キロ、50キロのダブル制覇の快挙となった。

山西選手は京都府長岡京市出身。中学時代に陸上を始め、京都府立の名門「堀川高」1年時に先輩が歩く姿に興味を持ち、長距離から競歩に転向した。3年時の2013年には世界ユース選手権10キロ競歩で優勝し、将来を期待された。

有望スポーツ選手は強豪の私立大学に進むケースが多いが、山西は京大工学部に現役合格。物理工学を専攻し「文武両道」を貫いた。昨春に愛知製鋼に入社後は競技に割く時間も増え、昨夏のジャカルタ・アジア大会で銀メダルに輝き、今年3月の全日本競歩能美大会(石川)では世界歴代4位、今季世界最高の1時間17分15秒をマーク。 【毎日新聞の新井隆一記者】

 (注) 競歩とランニングとの違いは、競歩では、常に (少なくとも) 片方の足が地面に着地していなければならない。山西選手の「一時間18分」 (距離で、ゴール前2キロ) 付近で撮影された写真をみると、明らかに両足が地面から離れている。だから、「厳密にいえば」、彼はこの地点で「失格」になっていたはずであるが、幸いレースが真夜中に行なれたので、審判がそれをウッカリ見逃したのだろう。 山西君、来年の東京五輪 (本番) では、是非自重して「反則」をとられぬよう気をつけて欲しい!

2019年10月4日金曜日

ジャック=ミラー: 豪州の免疫学者 (T & B 細胞の発見) に
2019年「ラスカー賞」! ノーベル賞は再び「お預け」!

メルボルンは南半球における「医学研究のメッカ」であるが、特に免疫研究分野では、少なくとも1950-60年代に、「世界のメッカ」といわれていた。 その免疫学の中心は、メルボルン大学に隣接した医学研究所 「WEHI 」(Walter-Eliza Hall Institute) だった。1950年代には、所長をしていたMacFarlane Burnet (1960年ノーベル受賞者) がその中心的な人物だった。

今回 (先月)、88歳で「ラスカー」を受賞したJacques Miller は、実はフランス人で、1931年生まれである。幼年時代をフランス、スイス、中国 (上海) などで過ごした後、日本軍による本格的な満州侵略、真珠湾攻撃などに伴い、1941年末に急きょ豪州のシドニーに家族と共に疎開した。 彼がメルボルンのWEHI に勤務し始めたのは、英国留学後の1966年からである。 当時、所長をしていたGus Nossal 教授の下で、免疫学を研究し始めて間もなく、免疫を司どる2種類の細胞の存在に気付いた (1)。

その一つは、骨髄 (Bone marrow) 由来のB 細胞。 もう一つは、胸腺 (Thymus) 由来の T 細胞。 前者は、主に(感染防御に必須な) 抗体の生産に関与する。 後者は移植臓器の拒絶や癌に対する免疫排除などに関与する。 面白いことには、両者の免疫機能が病源キナーゼ「PAK 」によって、抑制されていることが、ごく最近明らかにされた。つまり、(プロポリスなどの) PAK遮断剤によって、両者の免疫機能が高められる。 

Jacques Miller らが、これら2種類の免疫細胞を発見した直後、私は大学院の博士コースで、免疫学を専攻し始めた。 私自身の博士研究テーマは、B 細胞由来の「マクロファージ」と呼ばれる貪食細胞が、抗体の存在なしに、細胞培養系で、いかにして「自他の認知」 (自種の細胞を食べずに、多種の細胞を選択的に貪食) するか、 その分子メカニズムを解明することだった。  

不幸にして、2019年のノーベル賞 (生理/医学) は「Hypoxia」(酸素不足) に関する研究者3名が受賞になった。従って、もしメルボルンの免疫学者ジャック=ミラーに今後将来、ノーベル受賞の機会が与えられるとすれば、「史上最長老」 (89歳以上) のノーベル受賞科学者になる。。。彼の「健康長寿」を心から祈りたい。

(20年以上昔の東大医学部内科からの研究論文によれば) 癌細胞などが "酸素不足" になると、(生き残るために) 細胞内の "PAK が異常に活性化される" そうである。固形腫瘍が血管新生を誘導する主な理由は、酸素不足を補うために、周辺に血管を発達させ、腫瘍細胞に酸素を十分に補給するためである。従って、PAK遮断剤によって、血管新生を抑えると、全ての固形腫瘍は "酸素不足" のため死滅する。

ノーベル受賞者で、史上たった独り「死後に受賞」した科学者がいた。2011年に、免疫療法に関して受賞したロックフェラー大学の Ralph Steinman である。 彼は自分の開発した免疫療法で、自身のスイゾウ癌の治療を数年続けていたが、不幸にして、(10月初旬の) 受賞発表一週間前 (9月30) に死亡した。 しかしながら、受賞が死亡直前に既に決定していたので、「例外的に」彼の "死後受賞" が (家族の出席によって) 12月に続行された。

 参考文献:

1. Mitchell GF, Miller JF. Immunological activity of thymus and thoracic-duct lymphocytes.
Proc Natl Acad Sci U S A. 1968; 59(1):296-303.

2019年10月1日火曜日

「ラグビー王国」になりつつある日本チームの快挙!
決勝 (11月2日) では、南阿が英国を圧倒!

英国で1823年頃に、偶然に誕生したラグビー (実は、オックスフォード大学出身の牧師が発明者!) は、その後、南半球にある英連邦の3国、ニュージーランド (オール=ブラックス)、豪州 (ワラビー)、南阿 (スプリング=ボクス) のラグビーチームによって世界一を競われ始めた。 最近では、英国の隣国アイルランドのチームが、世界ランク2位に乗し上がった。そのアイルランドチームを、日本で開催中のワールドカップ (2019年) の予選で、見事に破った日本のラグビーチーム (世界ランク10位) の快挙 (成長ぶり) は実に素晴らしい。 もっともチームの大半 (ラガーマン) は、海外育ちのいわゆる「外人部隊」だそうであるが。 スポーツや科学の世界では、国境はない。生まれはともかく、自分が選んだ好きな国で存分に活躍してもらいたい。 

日本にラグビーが紹介されたのは、1899年、横浜生まれのエドワード=クラーク教授と田中銀之助によって慶應義塾大学の学生に紹介された。クラーク (英語教師) と田中は共にケンブリッジ大学の卒業生。1901年、慶應チームは「Yokohama Foreigners」(横浜外人) と対戦し、35対5で大敗した。1991年以来、「東京外人」チームが日本  (特に首都圏) でラグビーの普及と国際親善に活躍中。

10月13日の対スコットランド戦に、もし日本が勝利すると、グループAの"トップ"となり、恐らくグループBの2位のチーム (これまで2戦全勝の強豪「南阿」) と準準決勝を争うことになるだろう。結局、日本の快進撃は「強豪」南阿に大きく阻まれ、準決勝は、英連邦諸国のみ (英国、NZ、南阿、ウエールズ) 同志の間で戦われることになった。これまでの日本の健闘を讃えたい! 今回、NZ (オール=ブラックス) は精彩がなく準決勝で英国に惨敗、決勝 (11月2日) では、南阿が英国を圧倒し、32-12で優勝した。 前半は両者トライなしで、ゴールキックで点稼ぎを続けたが、後半に南阿が2回の見事なトライに成功し、勝負をつけた。

日本は、準々決勝で「優勝チーム」南阿に負けたのは、当然の帰結だった。前回のワールドカップで、(油断か) 日本に小差で負ける大失敗をやらかした南阿は、4年間に著しい成長を遂げ、今回遂に (通算3回目の) 栄冠を勝ち得た。
日本も今回得た教訓を生かして、次回に向けて、更なる成長を期待する!  

(スクラムを組む) 頑丈な体と、ボールを抱えて50メートルを一気に疾走する脚力の持ち主が、典型的なラグビー選手である。勿論、機敏なパスや正確なキックの出来る能力も必要だ。か細く駿足でもない私自身は、マラソンや競歩選手に過ぎず、とても「ラガーマン」にはなれない。

しかしながら、我が母校 (都立日比谷) のラグビーチームは、その昔 (1961年の正月明け) に、ラグビーの名門校である(私立) 保善高校と肩をならべて、東京代表として、花園ラグビー場で開催されたインターハイに出場して、見事「ベスト8」に残る快挙を果たし、「文武両道」を日本中に示した輝かしい歴史を持つ。しかも、チームの主力は、大学受験を間近に控えたベテランの3年生組!  当時、日比谷から毎年200名近い卒業生が、勿論ラグビー部員 (ラガーマン)  を含めて、東大に入学していた。だから、ラガーマンではない卒業生も、ラグビーには「ひとしおの関心」があった。 当時、ラグビー部のキャプテンだったのは、我が同級生の角尾  肇 君だった。 医学部に進学し、その後、花粉アレルギーを研究する免疫学者として活躍していると聞いている。彼も、今年のワールドカップをさぞかしエンジョイしているに違いない。。。

 このワールドカップ終了後まもなく、東京で我々の「喜寿」(77歳) を祝う同窓会が開催されると、同級生から聞いている。 恐らく、ワールドカップも活発な話題に乗るだろう。残念ながら、私は今回は出席できないが、数年前の同窓会では、50名クラスの30名ほどが元気な姿を見せた。 「米寿」 (88歳) を祝う同窓会には、(まだ健在ならば) 是非出席したいと思っている。それまでに「日比谷」の再起 (花園へ再出場) が実現すれば、実に素晴らしい!「 文武両道」が古今東西に通ずることを再確認できるからだ。