2017年1月29日日曜日

ビールに加える苦味成分 「ホップ」 にはPAK遮断作用があるらしい

意外なハーブにPAK遮断作用があるらしいことが判明した!  ホップの効いたビールを飲むとリラックスすると共に、眠気がさすのは、アルコール分のせいもあるが、実はビールに入れてある苦味 (ホップ = 西洋カラハナ草) のお蔭なのである。 ホップには、「キサントフモール」 と呼ばれるフラボノイドの一族 (チャルコン) が含まれている。

このフラボノイドは、沖縄産プロポリスに含れるPAK遮断剤 「Nymphaeol 」 同様プレニル側鎖のあるフラボノイドで、側鎖のないアピゲニンやサクラネチンよりも抗癌作用が強い。 もっとも、キサントフモールのPAK遮断作用は未確認であるが、PAK依存性のメラニン色素合成や癌細胞の増殖を抑えることが最近、実証されているので (1)、我々の予想が外れる可能性は極めて低い。

さて、勿論、ビール業界を直接訪ねれば、ホップを大量に得ることはできるだろうが、Amazon.com やAmazon.co.jp などの通販でも、凍結乾燥 製品(錠剤) を入手できる。ある通販欄によれば、寝る前に2錠飲めば、すぐ (30分以内に) 眠くなってくるそうである。

ホップの語源は、ベルギーの町 「ポペリンゲ」 に由来するそうである。この町で植樹されたホップが、 安眠のピロー(枕)やティーで眠りを誘うハーブとして、古く (ローマ時代) から使われているとのこと。 ホップの栽培は、日本国内では北海道の一部、東北、信州など涼しい地方で行なわれているが、ホップの供給の大部分は、欧米からの輸入に頼っている。

参考文献:  


Effect of xanthohumol on melanogenesis in B16 melanoma cells. Exp Mol Med. 2008 ; 40(3): 313-9.

2017年1月21日土曜日

フサアカシア: ブラジルの北リオグランデ産のプロポリスの起源植物

つい最近、ブラジル産の新しいプロポリスが見つかった。北リオグランデ地方(南緯5度、 熱帯) のプロポリス(RN)で、従来知られているグリーンプロポリス (GP) やレッドプロポリス(RP) とは全く違う成分 (フラボノイド類) を含んでいる。  その起源植物がMimosa tenuiflora  (フサアカシア) であることも判明した (1)。  ニュージーランド産など温帯地方産のプロポリスの大部分が、ポプラや柳の若芽を起源としているが、フサアカシアもプロポリスの起源植物になることは、極めて興味深い。

我が家の裏庭には、3種類のポプラばかりではなく、フサアカシアの森にも囲まれているからである。 ミツバチにとっては 「楽園」 であるが、私にとっても 「健康長寿の森」 である。フサアカシアからも、PAK遮断剤が見つかるに違いない。 

 さて、フサアカシアの樹脂には、抗炎症作用があることがかなり昔から知られているが、その有効成分の一つは 「サクラネチン」 と呼ばれるフラボノイドである。 もし、いわゆる 「シャーロック=ホームズの推理」 が正ければ、サクラネチンにもPAK遮断作用があるに違いない。 PAK依存性のCOX-2 遺伝子の発現を抑えるからである。 最近の文献によれば、慶応大学薬学部の須貝教授のグループが、サクラネチンの化学合成法の改良に成功している(2)。 

 前述したが、沖縄産のプロポリスの主要抗癌成分は 「Nymphaeols 」 と呼ばれるゲラニル側鎖を有する特殊なフラボノイド類であるが、サクラネチンには、ゲラニル側鎖がない。 私の予測では、ゲラニル側鎖は細胞透過性を増すために寄与しているが、PAKを直接阻害するためには, 恐らく必須ではなかろう。 もしかすると、ゲラニル側鎖は、Nymphaeols の「PAK特異性」にも寄与しているかもしれない。 言い換えれば、側鎖が長いほどPAK以外のキナーゼには働き難くなる可能性がある。。。

 サクラネチンの語源は 「桜の木」にある。1908年に 天然物有機化学の草分けである東大薬学部生薬学の朝比奈泰彦教授 (1881-1975) が、博士号の取得前に、桜の樹皮から初めて単離したという面白い歴史がある。

アリとアカシアの「共生関係」?
実は、アカシアはその甘い樹液で、アリを一生 「奴隷化」 しているようである。そのトリックとは?  http://karapaia.com/archives/52145366.html
 

 参考文献: 
1. Ferreira JM1, Fernandes-Silva CC1, Salatino A1, Negri G1, Message D2.
New propolis type from northeast Brazil: chemical composition, antioxidant activity and botanical origin. J Sci Food Agric. 2017 Jan 11.

Simple Synthesis of Sakuranetin and Selinone via a Common Intermediate, Utilizing Complementary Regioselectivity in the Deacetylation of Naringenin Triacetate. Chem Pharm Bull (Tokyo). 2016; 64(7):961-5.

「クルクウイン」 加工: PAK遮断剤「クルクミン」の腸管吸収を46倍に増強できる!

我々自身の研究によれば、ウコンエキス中のPAK遮断剤 「クルクミン」自身のAnti-PAK指数 (抗癌作用の指標) は10、 Bio 30 (12) と沖縄プロポリス(8) の中間に位置する。

さて、最近、ある知人から、ある健康食品会社の興味深い 「広告」 情報 (右端にコピーを添付) を入手した。 それによると、CurcuWinは、Curcumin より46倍も (腸管から) 吸収され易いそうである。 もし、それが本当ならば (科学的に証明されているならば)、 研究論文がどこかに発表されているはず。 そこで、文献調査をしたところ、2014年にNutrition Journal  (栄養学雑誌、医学や薬理学の雑誌ではない!) に発表されたものが、CurcuWinに相当する論文 (下記の文献) らしい
ただし、この会社 (Increnovo) のCurcuWin に関する特許は, なぜか未承認のままである。。。

問題は、この製品 (CurcuWin=ウコンエキスの加工) 中のクルクミンの含量である。この製品には、その含量が表示されていない。従って、例えば、250 mg の錠剤の一体何% がクルクミン(CurcuWin) なのかが不明。 従って、この製品自体のAnti-PAK指数を、プロポリス (Bio30) と直接比較することができない。 つまり、一体何錠、毎日経口すれば (Bio30と同程度に) 有効なののかを、残念ながら科学的に算出することができない (言わば 「宝のもち腐れ」に終わる!)。

参考までに、ウコンエキスのクルクミン含量を調べると、含量の高い「野口医学研究所」のウコンエキスは、クルクミンの含量が1250 mg (3 粒) 中、310 mg, つまり約25%がクルクミンという計算になる。 http://ukonmania.com/ganyu
 つまり、上記の野口ウコン製品のanti-PAK指数は2.5 (Bio30の1/5) と算出される。癌患者などにお勧めのBio30の有効daily dose は、体重10 kg 当たり最低1 ml (250 mg) だから、上記のウコンエキスの有効daily doseは、1250 mg/10 kg, つまり3粒 /体重10kg 、 体重50kgなら、毎日15粒という計算になる。 もちろん、腸管からの吸収率が同じと仮定しての計算である。

月刊雑誌「食品と科学」(2017年1月号) の総説「プロポリスの科学」でも、我々が詳しく述べたが、健康食品を病気の予防や治癒に効果的に利用するためには、「PAK遮断成分の含量」および 「Anti-PAK指数」の表示が必要である。 それなしでは、製品を毎日、どれだけ摂取してよいかがさっぱりわからない! 

参考文献:  

R. Jager et al.  Comparative Absorption of Curcumin Formulations. Nutrition J. 2014, 13, 11. 

2017年1月10日火曜日

「MPNST」 にも効くサバイビン発現抑制剤 「YM155」 の研究 から誕生した "名案"!

アステラス製薬の研究グループによる2010年に発表された総説 (日薬理誌) のエッセンスを、ここで簡単に紹介する。 現在、欧米で、この薬剤に関する癌患者を対象とする 「臨床テスト」(フェーズ2) が 進行中である。 なぜ、この薬剤をここで特に紹介するか、その理由は、感の良い読者なら、直ぐピンとくるだろう。 一つだけ 「ヒント」 を与えよう。 PAKを遮断すると、サバイビンが発現しなくなる という現象が、米国インディアナ大学医学部の研究グループによって、2013年に発見されている (1)。

極めて興味深いことには、我々自身の線虫に関する研究によれば、PAK遺伝子欠損株は野生株より、6割も長生きする (2)。 従って、PAKもサバイビンも実は、我々の寿命を縮めている 「悪玉蛋白」群に属する

参考文献:

1. Chen YC, Fueger PT, Wang Z. Depletion of PAK1 enhances ubiquitin-mediated
survivin degradation in pancreatic beta-cells. Islets. 2013 ; 5: 22-8.

2. Yanase, S., Luo Y., Maruta H. PAK1-deficiency/down-regulation reduces brood size, activates HSP16.2 gene and extends lifespan in Caenorhabditis elegans. Drug Discov. Ther. 2013, 7, 2935.

 先ず、「サバイビン」 とは一体何かを説明しよう。 正常な細胞に異変が起こると、それを修復あるいは除去するために、主に2種類の「細胞死」に至る現象が起こる。 その一つは「アポトーシス」、もう一つは 「オートファージ」 である。 特に癌細胞では、「サバイビン」と呼ばれる蛋白が異常に発現して、細胞死を抑制することによって、癌細胞の異常増殖を促進している。 サバイビンは癌細胞の薬剤耐性にも深く関与している。つまり、癌細胞自身の「サバイバル」(生き残り) に必須な蛋白である。 逆に言えば、サバイビンの機能あるいは発現を抑制すれば、癌細胞の異常増殖を抑制しうる可能性がある。 

 さて、アステラス製薬 (藤沢薬品と山之内製薬が2005年に合併) の中原、喜多らは、サバイビン遺伝子のプロモーター作用を抑える薬剤をスクリーニングしている内 (2007年頃) に、サバイビンの発現を強く抑える薬剤を発見して、「YM155」 と命名した。 

Nakahara T, Kita A, Yamanaka K, Mori M, Amino N, Takeuchi M, Tominaga F, Hatakeyama S, Kinoyama I, Matsuhisa A, Kudoh M, Sasamata M. YM155, a novel small-molecule survivin suppressant, induces regression of established human hormone-refractory prostate tumor xenografts. Cancer Res. 2007 ;67: 8014-21.

PC-3 (ヒト由来前立腺癌細胞) の 細胞培養系で、「YM155」(濃度10-100 nM で) が、癌細胞の増殖を強く抑えることを確認した。更に、マウスに移植したPC-3癌細胞の増殖が、「YM155」(投与量、3 mg/kg/day) により、64% 抑制されることが判明した。

 「YM155」 は今までの治験では、専ら「注射(点滴) 薬」として使用されているようだが、遠い将来には、(通院せずに、自宅で飲める) 「経口薬」 として開発/市販されることが望ましい。

 アステラス製薬が 「藤沢薬品」 時代 (1990年代半ば) に開発し始めたHDAC阻害剤 (=PAK遮断剤) "FK228" は、20年以上の開発研究を経て最近、欧米では米国の製薬会社 「Celgene」 により、稀少リンパ腫 の一種 (CTCLなど) の治療薬として市販され始めているが、あいにく、この薬剤は血管脳関門を通過できないので、脳腫瘍や認知症などの脳疾患には効かない。 ところが、「YM155」 は分子量が小さい (443) から、血管脳関門を通過しうる!  従って、NF腫瘍や認知症などの治療にも役立つ可能性がある。

市販が有望視されている「YM-155」を、ここで特に取り上げたもう一つの理由は、NF1腫瘍の一割を占める悪性の「MPNST」 が少なくとも動物実験で、YM-155 (6 mg/kg、daily) によって治療しうることが数年前に、テキサス大学のMDアンダーソン癌研のグループによって、既に実証されていることが判明したからである。

Ghadimi MP, Young ED, Belousov R, Zhang Y, Lopez G, Lusby K, Kivlin C, Demicco EG, Creighton CJ, Lazar AJ, Pollock RE, Lev D. Survivin is a viable target for the treatment of malignant peripheral nerve sheath tumors (MPNST). Clin Cancer Res. 2012; 18: 2545-57. 
 
 実は、私が 「YM155」 の存在を知ったのは、ごく2、3日前のことである。ある海外雑誌の編集部から、「YM155」 誘導体の抗癌作用に関する投稿論文の審査を頼まれて、「YM155」 とは何ぞや、を初めて知った次第である。 結局、論文の内容自身は極めて「八方破れ」の感が強く、審査するのさえお断わりした。 「YM155」専門家に審査を任せた方が無難 (公平) だと判断したからである。 しかし、御蔭で(大変) 勉強にはなった!  新発見への糸口を掴んだからである。

韓国プサンの研究グループとの最近の共同研究では、YM155はPAK遮断剤 「15K」 と同様、受精卵の血管新生を強く阻害することが判明した (IC50=0.5-1.0 nmol/egg)。血管新生にはPAKが必須である。従って、YM155もPAK遮断剤であることは今や、疑いの余地がない。

 アデノウイルス 「Ad-Surv-GFP」or 「pDrive-surv-LacZ」?
さて、最近、ある "名案" が浮かんだ。PAK遮断剤を細胞培養系で、簡単にスクリーニングできる方法である。 数年前に米国のサウスカロライナ医科大学のグループが特殊なアデノウイルスを開発した。 ウイルスのゲノム中にサバイビン遺伝子のプロモーター部分にGFP遺伝子 (cDNA) を融合した人工遺伝子を組み込んだものである。 仮に「Ad-Surv-GFP」と名付けることにしよう。 このウイルスを、癌細胞に感染させると、GFPが大量に発現するが、正常な細胞に感染しても、GFPは殆んど発現しない。 その差 (10倍以上) は、細胞中の発癌キナーゼ「PAK」の差に依存すると推量される。 前述したが、PAK遺伝子を欠如したマウスでは、サバイビンが殆んど発現しないからである。 言い換えれば、このウイルスで感染した癌細胞を、例えば、プロポリスなどの「PAK遮断剤」で処理すると、GFPの発現が急速に低下すると予想される。 つまり、このウイルスを使用すれば、細胞透過性の高い 「PAK遮断剤」を、GFPの蛍光を指標に、手軽にスクリーニングできるはずである。 更に 「オートメ化」 も可能である。 従って、目下 「PAK遮断剤」 の開発をめぐって 「先陣争い」 をしている欧米の大手製薬会社は、競って、このウイルスを入手しようとするに違いない。。。

 ただし、ウイルスの感染を利用する方法は、特別の研究施設が必要である。つまり、研究者自身や仲間にウイルスが感染せぬような防護装置が必須である。 従って、理想を言えば、この 「Surv-GFP」 融合遺伝子を、通常の「哺乳動物発現ベクター」に挿入して、ウイルス感染ではなく通常の「DNAトランスフェクション」によって、癌細胞中で、GFPを発現できるように工夫した方が、ずっと利用度が増すと思われる。 従って、この 「Surv-GFP」 法の実用化には、もう一歩の改良が望まれる。

 結論的には、Invivogen という Biotech 会社が販売している 「pDrive-survivin-LacZ」 という哺乳類トランスフェクション=ベクターを利用することにした。 発現する蛋白はGFPの代わりに、LacZ (Beta-Gal) という酵素で、XGALを分解して、ブルーの色素を生成するから、発色法で、サバイビン遺伝子のプロモーター能を定量 (モニター) できる。