2019年5月10日金曜日

「バイアグラ」は PAK遮断剤!

ファイザー発売の血圧降下剤「バイアグラ」に関する文献を、最近読んで、いささかビックリした。 バイアグラは主に、ペニスの血管を拡張することによって、血流を一時的に高め、ペニスの勃起を促す作用を利用して、いわゆる「インポテントな」(勃起不全の) 殿方を救う役目を荷なって、20年ほど昔に市販され始めた。昨年とうとう特許が期限切れになり、安価なジェネリックな商品が世界中に出回っている (米国では、一回分=25 mg がわずか 一ドル=100円 だそうである)。 市販前の化学名は、Sildenafil で、元来は、高血圧の治療剤として開発されたようだが、臨床テスト中に、いわゆる「ペニス」効果が顕著に観察されたので、「バイアグラ」という名で、「勃起不全」救済のために、市販された。 女性に対する効果については、諸説があるが、少なくとも一時的にクリトリス (陰核) や乳首を (勃起) させる効果はあるようである。 ただし、妊婦には「使用禁止」 (新生児が死亡するケースあり)! 

さて、PAK遮断剤にも血圧降下作用があるので、バイアグラの薬理作用のメカニズムを少し調べてみたところ、バイアグラは元来、cyclic GMP を選択的に分解する酵素 (PDase 5) の阻害剤である。 従って、cyclic GMP のレベルを上昇させる効果がある。 しかしながら、それ以外にも、抗癌作用や抗炎症作用などが観察されている。従って、私自身の見解では、バイアグラの血圧降下作用は、cyclic GMP レベルの上昇ではなく、それ以外のメカニズムによると見る。何故かというと、PDase 5 に対するIC50 は 5 nM 以下なのに、実際の癌細胞に対するIC50 は 100 nM前後であるからである。バイアグラ自身は「塩基性」で、細胞透過性は高いはずだから、実際の細胞内ターゲットは他にあるはず。。。

2、3年前に発表された米国の研究グループの論文によれば、バイアグラには、(プロポリスなどのPAK遮断剤と同様に) 抗癌免疫能を高める作用があり、抗癌T細胞を破壊する「PD-L1 」というリガンドの発現を抑制することが判明した。更に、驚いたのは、FK228 と同様、HDAC (ヒストン脱アセチラーゼ) を阻害することによって、間接的にPAKを遮断することである (1)。 従って、肺癌細胞の増殖を抑制する作用も観察されている、米国では、オプシーボなどのいわゆる「チェックポイント 」(免疫療法) モノクローナル抗体と併用する臨床テストが進行中。

もう一つ注目すべき発見は、認知症に対する治療効果である。 10年ほど昔の米国コロンビア大学からの研究論文によれば、認知症にかかったマウスに、バイアイグラ (3 mg/kg, i.p.) を3週間投与すると、喪失した記憶が (完全ではないが) 半ば甦るそうである (2)。 この効果も、一連のPAK遮断剤の効果と良く一致する。言い換えれば、バイアグラは「安価に、然も医師の処方箋なしに」入手できる市販のPAK遮断剤ということになる。しかも、FK228 と違って、「血管脳関門を容易に通過する」ので、NFなどの脳腫瘍や種々の神経疾患にも有効である可能性がすこぶる高い!
  
「バイアグラ商法」から学ぶべきこと:
PAK遮断剤であるFK228 (商標: Istodax) やグリーベックは、CTCL (Cutaneous T-cell Lymphoma) や CML (Chronic Myelogenous Leukemia)/GIST と呼ばれる極めて特殊/稀少な癌 (癌全体の僅か 0。1% に過ぎない) 治療のために市販されたが、「医師の処方箋」を必要とするので、残りの癌やPAK依存性疾患には、全く使用されぬまま、特許の期限切れを迎えつつある。言わば「 宝のもち腐れ」に終わった。

それに比べて、ファイザーによる「バイアグラ」商法は、適用範囲を「勃起不全」に限定したために、(アスピリンなどの鎮痛剤同様) 医師の処方箋なしに、いわゆるドラッグストアで販売され始めたので、使用目的に限定されず、誰でも自由に入手可能になった。癌患者全体から観れば、 バイアグラは「救世主」である。 巷の無知な「ヤブ医者」は、恐らく癌やNFの治療などには勧めないだろうが。 従って、我々自身の開発したPAK遮断剤 (15K や MART-10) も、バイアグラ商法に習って、鎮痛作用や「勃起」治療を前面に出して、(医師の処方箋を必要としない) "一般医薬" ("ナイアガラ K" や "ナイアガラ D" などの商標) として、市販を目指すべきだろう。。。ただし、(喫煙やアルコール類と同様) 念のため「妊婦には使用禁止」!  実際、(15K 同様) ビタミンD3 にも "鎮痛作用" がある (3)。
 

参考文献:

1.Booth L, Roberts JL, Poklepovic A, Dent P. [pemetrexed + sildenafil], via autophagy-dependent HDAC downregulation, enhances the immunotherapy response of NSCLC cells. Cancer Biol Ther. 2017;18 (9): 705-714.
2. Puzzo D, Staniszewski A, Deng SX, Privitera L, Leznik E, Liu S, Zhang H, Feng Y, Palmeri A, Landry DW, Arancio O. Phosphodiesterase 5 inhibition improves synaptic function, memory, and amyloid-beta load in an Alzheimer's disease mouse model. J Neurosci. 2009 ;29 (25): 8075-86. 
3.Poisbeau P, Aouad M, Gazzo G, Lacaud A, Kemmel V, Landel V, Lelievre V, Feron F.Cholecalciferol (Vitamin D3) Reduces Rat Neuropathic Pain by Modulating Opioid Signaling. Mol Neurobiol. 2019 Apr 18. doi: 10.1007/s12035-019-1582-6.

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