2020年1月10日金曜日

ビタミンA 代謝物: レチノイン酸 (ATRA) も PAK遮断剤!
NF1 腫瘍は全て、 ATRA で治療しうるはず!

興味深いことには、2、3年前に、我々と韓国プサンのグループとの共同研究によれば、ニワトリの受精卵 を使用した (in ovo ) 実験 で、強力なPAK 遮断剤である「15K 」同様、ATRA (All-trans Retinoic Acid) が 5 nmole/egg という微量で、(PAK 依存性の) 血管新生を70% 以上、抑制することが判明 (1)。こうして、ATRA がPAK 遮断剤である可能性が急に浮上した。

案の定、 つい最近になって、私の古い同僚 (賀 紅 博士) の研究室 (メルボルン大学病院) によれば、ATRA が実際にPAK を遮断することによって、薬剤耐性のスイゾウ癌細胞の増殖を抑えることが、少なくとも細胞培養系で 証明された (2)。更に同研究室により、PD-L1 の発現がPAK 依存性であることが遺伝学的に証明されると共に、つい最近、ATRA が実際にPD-L1 の発現を抑えることも、別の中国の研究グループによって証明された。

 3年ほど前、英国のロンドン大学の研究グループがすいぞう癌細胞の転移に対するATRA の阻害効果を調べている内に、ATRA がアクトミオシンの収縮作用を抑えることを発見した (3)。 アクトミオシンの収縮には、PAK によるミオシンの燐酸化が必須であり、明らかに 「PAK」 依存性である。

面白いことには、レチノイン酸はビタミンA (レチノール) の代謝物である。 従って、ビタミンA を十分に摂取すれば、体内で代謝されてATRA に変化して、スイゾウ癌などの固形腫瘍の増殖、転移、血管新生などを抑える可能性が出てきた。 言い換えれば、ビタミン A やビタミン D3  (共に、PAK 遮断剤) を普段から十分に摂取していれば、癌などの難病の予防ができるというわけである。

そこで、ビタミンA の抗癌作用に関する比較的最近の文献を探したところ、意外な事実が判明した。星薬科大学の高橋のり子研究室によれば、(スイゾウ癌に対する) 抗癌作用に関しては、ビタミン A (レチノール) のほうが、むしろ「ATRA」よりも2倍 以上 強いそうである (4)。


 

更に、面白いことが判明した。10年以上前、静岡大学農学部の鳥山 優教授らにより、ATRA がメラニン合成を強く阻害すること (IC50 < 1 micro M)  が発見されていた (5)。 しかしながら、ビタミン A のメラニン合成阻害作用はずっと弱い (IC50 >20 micro M)。 メラニン合成にPAKが必須であることは、我々により数年前に突き止められている (前述)。 従って、ATRAのメラニン合成阻害も、PAKの遮断による可能性が極めて高い。

数年前にハーバード大学医学部の研究グループにより、NF1 遺伝子が欠損した乳癌細胞株 (従って、NF1 癌 "MPNST" と形質が同じ) を移植したマウスに対して、 ATRA (12.5 mg/kg) を投与すると、50% 以上の 増殖阻害が観察された (6)。同時に、PAKの下流にある発癌酵素 「PIN 1 」がATRA により阻害されることも発見。 従って、原理的には、MPNST を含めて "NF1 腫瘍" は全て、 ATRA で治療しうるはず!  


参考文献:
1. Ahn MR, Bae JY, Jeong DH, Takahashi H, Uto Y, Maruta H. Both triazolyl ester of ketorolac (15K) and YM155 inhibit the embryonic angiogenesis in ovo (fertilized eggs) via their common PAK1-survivin/VEGF signaling pathway. Drug Discov Ther. 2017;11(6):300-306. 
2. Wang K, Baldwin GS, Nikfarjam M, He H. Antitumor effects of all-trans retinoic acid (ATRA) and its synergism with gemcitabine are associated with downregulation of p21-activated kinases in pancreatic cancer. Am J Physiol Gastrointest Liver Physiol. 2019; 316: G632-G640.
3. Chronopoulos A, Robinson B, Sarper M, et al. ATRA mechanically reprograms pancreatic stellate cells to suppress matrix remodelling and inhibit cancer cell invasion. Nat Commun. 2016;7:12630.
4. Li C, Imai M, Yamasaki M, Hasegawa S, Takahashi N. Effects of Pre- and Post-Administration of Vitamin A on the Growth of Refractory Cancers in Xenograft Mice. Biol Pharm Bull. 2017 ;40: 486-494.
5. Sato K1, Morita M, Ichikawa C, Takahashi H, Toriyama M.
Depigmenting mechanisms of all-trans retinoic acid and retinol on B16 melanoma cells. Biosci Biotechnol Biochem. 2008 ;72(10):2589-97. 
6. Wei S, Kozono S, Kats L et al, Active Pin1 is a key target of all-trans retinoic acid (ATRA) in acute promyelocytic leukemia and breast cancer. Nat Med. 2015; 21(5): 457-66.


 

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