2019年1月23日水曜日

薬剤の通過を阻む「血管脳関門」(BBB) を緩める要素?

脳腫瘍などの脳疾患を薬剤で治療するためには、その薬剤が「血管脳関門」(BBB) を通過せねばならない。 もう10年以上も昔、藤沢薬品 (アステラス製薬の前身) が1990年代中頃に開発した「FK228」 と呼ばれるヒストン脱アセチラーゼ (HDAC) 阻害剤が、下流のPAKを遮断することによって、NF腫瘍細胞の増殖を強く抑えることを、我々自身が発見して以来、一時、NFの治療薬として大いに期待したが、結局、血管脳関門 (Blood Brain Barrier=BBB) をこの環状ペプチドが通過できないことを知り、多くのNF 患者が非常に失望した記憶が未だに新しい。 以来、我々による「PAK遮断剤」開発の段階で、薬剤が果してBBB を通過しうるかどうかを、動物実験で予め (治験前に) 確認することが極めて重要になった。当然のことながら、 PAK遮断剤「15K」がBBB を通過するかどうかを、先ずマウスの「認知症」モデル ( SAMP8 ) を利用して、目下検討中である。 

さて、 最近のBBB に関する研究から、BBBの障壁を一時的に破壊、あるいは緩めて、薬剤の通過を促進する方法が開発されつつあることが判明した。その一つは、電磁波を利用して、BBB という関所を緩和する「EMP」(Electro Magnetic Pulse) という方法である。 BBB の機能維持にはジェラチン線維が重要な役割を果たしているようだが、それを分解するジェラチナーゼ (ジェラチン分解酵素) の一種 (MMP-2) が 電磁波パルス (EMP) によって、活性化するという結果が、中国のある陸軍大学病院で発見された。 更に、ラットの脳腫瘍実験で、抗癌剤「CCNU」自体は、元来BBB を通過し難いが、電磁波パルス を施すと、その抗癌剤の治療効果が向上したという報告も最近出つつある。 従って、稀少難病「CTCL」(Cutaneous T-cell Lymphoma) に対する抗癌剤として、2009年から欧米で市販され始めた FK228 (商標 Istodax) も近い将来、電磁波パルスとの併用で、NF などを含めて脳腫瘍や認知症の治療にも使用される日が訪れるかもしれない。。。

BBBの障壁を緩めるもう一つの要素は、腫瘍自体である。固形腫瘍からは、通常「VEGF 」と呼ばれる血管新生を促進するペプチドホルモンが分泌され、 腫瘍の周囲に血管を構築する働きを持つ。 このVEGF の生産は、PAK によって促進され、更に、VEGF がPAK を活性化するという、言わば「悪循環」が起こる。面白いことには、VEGFには、血管新生ばかりではなく、BBBという関所を緩める作用もあるようである。 従って、脳腫瘍が発生すると、BBB が緩まる可能性がある。。。 BBBの一部は、細胞と細胞との接合 (Tight-Junction) によって構築されているが、この構築は発癌キナーゼ「PAK 」によって、緩むことが昔から知られている。 従って、BBBにPAK遮断剤が接近すると、関所が閉まる (より厳重になる) 可能性がある。 そこで、EMP (電磁波パルス) 活躍の出番がやって来る。。。

さて、松果腺ホルモン「メラトニン」はPAK遮断剤の一種であるが、「血管脳関門」を自由に往き来できるので、多くの薬剤と違って、極めて微量で、催眠効果や抗癌作用などを発揮しうる。従って、メラトニンの生産や分泌を促進することによって、睡眠を促進するばかりではなく、脳腫瘍の増殖を抑えることが出来るはずである。さて、"暗闇" はメラトニン合成を促進するが、"電磁波パルス" (EMP) は果してメラトニン合成を促進しうるだろうか?  研究してみる価値は十分にあると思う。 

今のところ、メラトニンに対する「EMP」効果については研究報告がないが、(モーツァルトなどの) 静かなクラシック音楽がメラトニンのレベルを高めるという報告が、20年ほど昔、ドイツのチュウビンゲン大学の心理学者 (音響医学の専門家) によって、報告されている。。。少なくとも、"三大"子守歌 (モーツァルト、シューベルト、ブラームス) は、確実に  (ドイツの) 子供たちの脳内メラトニンを高めているに間違いない。 

「奇跡のホルモン: メラトニン」(ラッセル=ライター著) に大変面白いコメントが載っていた。麻薬「マリファナ」、特にその幻覚成分「delta 9-THC」がメラトニンの分泌レベルを急激 (20分以内) に上げる、 という人体 (臨床) 実験結果が30年以上昔、イタリアのミラノ大学で出たそうである。マリファナは "PAK遮断剤" であると前述したが、そのメカニズムの一部はメラトニンを介して発揮されている可能性がある。  ただし、マリファナには幻覚症状や中毒症状を起こす傾向があるので、要注意!   更に、マリファナを吸った直後に「睡魔」が訪れるので、車の運転はご法度! 

 脳内PAK遮断剤「メラトニン」は "PD-L1" 発現を抑制する

メラトニンが
脳内「松果腺 (体) 」由来の「PAK遮断ホルモン」であることは、何度か前述したが、このホルモンが他の幾つかのPAK遮断剤と同様、貪食細胞 (マクロファージ) による PD-L1 の発現を抑えることが最近、中国の上海郊外にある大学の研究グループによって、明らかにされた (1) 。 PD-L1 は、しばしば癌細胞の表面に発現され、抗癌免疫細胞 (T-cell) の表面にあるPD-1 と呼ばれる受容体と結合して、免疫細胞を破壊する機能を持つことが、京大の本庶 教授 (2018年ノーベル医学受賞) らによって、20年ほど昔に明らかにされている。 従って、メラトニンや他のPAK遮断剤 (例えば、プロポリスや 15K など) が、いわゆる 「癌のチェックポイント」療法剤として、抗癌免疫能を高めることが、改めて自明になった!
 

さて、目下 (小野薬品などから) 市販されている「チェックポイント」モノクローナル抗体は、血管脳関門 (BBB) を通過できないから、脳腫瘍の治療には明らかに無効である。従って、脳腫瘍や認知症などの脳内疾患の治療には、メラトニンや(他のBBB を通過しうる) PAK遮断剤 (例えば、プロポリスなど) を使用すべきだろう。 

参考文献: 

1. Cheng L et al. Exosomes from Melatonin Treated Hepatocellularcarcinoma Cells Alter the Immunosupression Status through STAT3 Pathway in Macrophages. Int J Biol Sci. 2017 ;13: 723-734.

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