天然物から創薬する歴史の中で、最も古い成功例は、垂れ柳の成分「サリチル酸」をエステル化してできる「アセチルサリチル酸」、つまり鎮痛剤「アスピリン」である。ドイツの製薬会社「バイエル」の有機化学者が、自分の父親のリューマチを治すために、潰瘍性のサリチル酸の OH 基を 無水酢酸と脱水縮合させて、エステルの合成に成功したのが、長い「アスピリン史」の始まりだった。 しかしながら、アスピリンには、COOH が未だ残っているので、細胞透過性が極めて悪く、抗癌剤としては利用できない。そこで、COOH をエステル化する試みが今世紀に入ってなされ始めた。
その一つが、ノーベル受賞者 Barry Sharpless 教授 (MIT) によって発明された化学反応「CC」、つまり銅を触媒とする「Click Chemistry 」を介して、アニソールと呼ばれるアルコールを "2 ステップ" で脱水縮合させるアプローチである。このアプローチで、1,2,3-triazolyl ester of Aspirin が中国で製造されたが、細胞透過性は僅か30倍しか上がらず、抗癌剤としては、実用性に未だ乏しかった。
そこで、次の挑戦者がインドに登場した。アスピリンの代わりに、結婚相手をウルソール酸 (UA) に切り換えて、1、2、3-triazolyl ester of UA (7p) を創り出した。その反応で、細胞透過性が200 倍まで上がった。しかしながら、この有機化学者は、特許を得ようとはしなかった。何故かというと、UA は天然のトリテルペンで、有機合成が困難なので、製薬企業には、余り魅力がなかったからである。そこで、次の挑戦者 (第 3 の男) が豪州に現れ、「3度目の正直」をめざした。簡単に合成できるPAK遮断剤の中からCOOH 基を持つ化合物を見つけ始めた。先ず、プロポリスに存在するArtepillin C (ARC) や コーヒー酸 (CA) などに目を付けた。
1,2,3-triazolyl ester of ARC (15A) 及び、1、2、3-triazolyl ester of CA (15C) は、各々原料の細胞透過性を100 倍、及び 400倍に高めた。 気を良くした豪州の挑戦者は、更なる飛躍を狙って、COOH 基を持つ合成鎮痛剤「ケトロラック」(商標トラドール) を原料に選び、CC を介して、1、2、3-triazolyl ester of Ketorolac (15K) の合成に成功した。 このエステル化は、ケトロラックの細胞透過性を500倍以上に高め、最強のPAK遮断剤の誕生をもたらした (アスピリンの薬理作用の10万倍以上!) 。明らかに「ギネス記録」もの!
こうして、「第 3 の男」は、大手製薬会社の食指をそそるべき「15C 」等に関する特許の取得に成功した。創薬には、 先ず「混血」精神が必須である。しかしながら、最終的な成功には、最も適切な相手 (相補的な「鍵と鍵穴」) の選択が重要である。ただ手当たり次第に混血させても、いわゆる「大坂直美」や 「15K」は決して誕生しない!
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