そのカニバスの中で、delta-9 THC (tetrahydrocannabinol) が にわかに注目されつつある。 どうやら "PAKを遮断" するようである。もっとも、その抗癌作用自体はそれほど強くないが、極めて微量 (0.001 mg/kg) で、脳の機能、例えば学習能力 (記憶力) を高める働きがあることが、イスラエルの研究グループによって明らかにされた (1)。 その有効濃度は、最強のPAK遮断剤「15K」の(抗癌) 有効濃度 (0.1 mg/kg) の更に100 分の1 に相当する。
実は最近、米国ボストンの大学教授で毒物学の専門家 (Ed Calabrese) から、"Hormesis" という耳慣れない熟語を教わった (2)。 一般に、毒物を致死量よりもずっと低い濃度に薄めると、種々の治療効果が発揮されるという現象を指す。 その典型的な実例が、 上述したdelta-9 THC による学習能力の向上である。
「Hormesis」 の語源: 毒を希釈して、医薬 (Hormone) として役立てる医術 (錬金術= Alchemy)。 ドイツの薬理学者 Hugo Schulz が1888年に、ある微量の毒物を酵母に与えることによって、その増殖を促進することに成功した。以来、同じような現象が他の動物や毒物で観察されるようになった。それを受けて、1943年にChester Southam らが学術論文の中で、この不思議な現象に「Hormesis」という術語を与えた。
同じような現象が、宇宙飛行を終えて、地球へ帰還した飛行士たちにも観察された。宇宙飛行中に浴びた放射線 (地上の100倍) のおかげで、より健康になったという報告、更に宇宙ロケットに乗せたせんちゅうは、地上に残ったせんちゅうよりも長生きした、という興味深い結果もつい最近、報告されている。 以来、巷では、日光浴の代わりに「放射線浴」 (Hormesis) なる健康法が流行しているようだ。
「腹八分目」という言葉通り、全ての物には、適量 (Optimum dose) というものが存在し、過剰では有害、過少では無害 (あるいは無益) になる。この"常識"が「Hormesis」の根本原理である。
駅伝やマラソンのベテランは、適速 (Optimum Pace) を心得ている。速過ぎれば失速するが、遅過ぎれば、勝負(レース) にならない。「過ぎるは及ばざるが如し」。水平思考のできる人なら、"Hormesis" が人生における成功の指針であることに、直ぐ気づくであろう。
"水平思考"とは、「一を聞いて十を知る」進化論的な類推法である。
参考文献:
Pre- and post-conditioning treatment with an “ultra-low dose” of
Δ9-tetrahydro-cannabinol (THC) protects against pentylenetetrazole (PTZ)-induced
cognitive damage. Behav Brain
Res. 2011 ; 220 (1):194-201.
2. Calabrese EJ.
Hormesis: why
it is important to toxicology and toxicologists. Environ Toxicol Chem. 2008
;27(7):1451-74.
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