2019年1月11日金曜日

「魔法の弾丸」 (=特効薬) という概念の源泉

その源泉は、実は「旧約聖書」("創世記"以外は実話!) に載っている羊飼の少年ダビデのパチンコ (投石器、Sling) に遡ることができる。ミケランジェロの有名なダビデ彫像に見るように、このユダヤ人少年は、いわゆる「パチンコ」打ちの名人だった ("正義の味方" ウイリアム=テルやロビンフッドの弓矢に相当する)。元来、この飛び道具は、飛ぶ鳥を落とす狩猟用だった。ところが、ある日突然、イスラエルのユダヤ人部落を、ゴリアテという巨人を主領とする異民族が襲撃してきた。そこで、少年ダビデは、パチンコでゴリアテの眉間を見事に打ち砕いて、部落を守り、その"勇気"と"先見の明"を買われ、成人後にユダヤ人の王様になった。 これが「魔法の弾丸」の歴史的な由来である。

さて、ユダヤ系のドイツ人医者パウル=エーリッヒは、宗教的にはユダヤ教徒ではなかったが、ユダヤ人の伝統を守って、その概念を自分の研究にも導入した。 彼は元々、病理学者で組織染色が得意だった。 1940 年のMGM 映画では、結核菌を発見したロベルト=コッホに促されて、結核菌だけを特異的に染色する方法を編み出し、念願のコッホ研究所に採用されたというエピソードが描かれている。

実は、この結核菌染色中に、(不用意にも) 自分も結核に感染したため、暖かいエジプトの地でしばらく療養生活をせざるを得なくなった。そこで、毒蛇に噛まれた老人が、噛まれる度に、蛇毒に対する抵抗性を増すことに気づき、抗毒性が蛇毒に対する特異的な抗体 (魔法の弾丸) によるものであるという、「新しい概念」(抗体免疫) を発見、それをジフテリア菌などの病原菌に対する抗血清の開発という形で、エミール=フォン=ベーリングと協力して、ジフテリア撲滅に貢献した。ベーリングは1901年に、エーリッヒは1908年に各々ノーベル医学賞をもらった。ちなみに、抗原と抗体の関係は「鍵と鍵穴」という説 (鋳型説) は、エーリッヒの免疫学への最大の貢献である。

しかし、エーリッヒの「魔法の弾丸」作戦は、抗体のみに留まらなかった。 当時世界中に蔓延していた性病 (梅毒) の特効薬を開発する目的で、その病原体である梅毒菌 (スピロヘータ) を特異的に染色するアニリン色素を捜し出し、それに毒素のヒ素を化学的に結合させ、梅毒菌を殺す「魔法の弾丸」(606番目の化合物) をついに編み出した! この特効薬「606」の開発には、伝研から派遺されていた "秦 佐八郎" が動物実験で大いに寄与したことも付記したい。

エーリッヒの「魔法の弾丸」作戦は、我々自身による「PAK 遮断剤」 (15K) 開発作戦にも、奇しくも応用された。 先ず我々は、PAK遮断作用を持ついくつかの既成薬剤を同定した。 その一つが鎮静剤「ケトロラック」である。 しかしながら、この薬剤にはCOOH 基が存在し、標的の癌細胞内に取り込まれ難い。そこで、Click Chemistry という化学反応を介して、水溶性の特殊なTriazolyl alcohol を結合させ、エステル化した。 結果的には、この抗癌エステル (15K) は、原料である鎮静剤の500 倍以上の細胞透過性を示した!  その上、酸性を制したので、「潰瘍」という副作用も除いた。 こうして、「磨き上げた」我々自身の「魔法の弾丸」が誕生した。

この「21世紀の弾丸」は、癌ばかりではなく、各種の感染症、炎症、認知症や癲癇などの脳障害、糖尿病、高血圧など、非常に幅広く、PAK依存性の難病全ての治療に役立つはずである。 エーリッヒ博士も天国で、この新しい「魔法の弾丸」の (近い将来に期待される) 活躍に声援を送ってくれることと、我々は確信している。。。

こうしてみると、絵画 (あるいは組織染色) 的発想と、(魔法の弾丸) 創薬との間には、密接不可分な関係が存在することに、気づく読者も多かろう。。。 エーリッヒ博士の残した有名な言葉がある:  結合せぬ物に、反応なし。 標的に親和性のない(届かぬ) 物は、薬として、先ず不合格。 合格者の中から、最も親和性の高い (  更に標的の機能を強く遮断する) 物を「魔法の弾丸」として、えり抜くコツが大事である。。。

 さて、1950年代の西部劇 (連続テレビ映画) が好きな人は、目に黒い覆面、白馬 (シルバー) に跨り、(ロッシーニ作曲の) 歌劇「ウイリアム=テル」の序曲 (第4部: スイス独立軍の行進) と共に、さっそうと画面に登場する「ローンレンジャー」をご存知だろう。




 インデアンの「トント」と共に、弱気を助け、強気 (悪党) を挫く「キモサベ」の拳銃には、銀の弾丸 (Silver Bullet) が込められている。この弾丸も「魔法の弾丸」の一種である。 アメリカ人との会話には、「その難問題を解決するような "Silver Bullet" は中々ない」と言うせりふがしばしば登場する。 "特効薬" という意味だが、巨人 (ゴリアテ) を見事に倒したダビデの「魔法の弾丸」 (パチンコ) を想起させる。目下、米国の進歩派 (民主党) は、悪党「トランプ」を倒す「魔法の弾丸」を摸索している。。。日本でも、悪党「安倍」を倒す「正義の味方」を探している革新派がいるが、中々見付からない! 沖縄では "スイゾウ癌"  (あるいは「有毒な抗癌剤による」合法的な暗殺?) に倒れた翁長氏に代って、玉城デニー氏が「キモサベ」として活躍している。 小泉進次郎も果して「キモサベ」になり得るだろうか? 



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