1996年に英国第2位の製薬会社「アストラゼネカ」から市販され始めた「セロクエル」と呼ばれる「統合失調症」用の治療薬はどうやら、PAK遮断剤のようである。その根拠は、この薬剤に鎮痛作用、抗炎症作用、抗癲癇作用、抗認知症作用など一連の抗PAK作用が、最近、動物実験で確認されると共に、PAKの下流にある発癌キナーゼERKやAKT などが、抑制されるからである。CNS (中枢神経) 薬には珍しく副作用が殆んどないのも、その特徴である。
10年ほど昔に出版された単行本「新薬誕生: 100万分の1 に挑む科学者」(ロバート=シュック著、ダイヤモンド社) によれば、この薬剤は、動物実験を終えてから、10年間の歳月をかけて、数十億円の投資を費やし、一連の臨床テスト (I, II III) を無事クリアして、市販に到達したものである。 開発から既に30年以上経た現在では、安価なジェネリック薬が発売されているはず。
実は、我々自身のPAK遮断剤「15K 」 の 臨床テストに先立って、いかなる苦労や困難が、市販に向けて待ち受けているかを、ある程度予測するために、この本を参考のために読んでいる。 幸い、アストラゼネカは欧州の大手製薬には珍しく、発癌/老化キナーゼ「PAK」に関心を払い、独自にPAK阻害剤を開発しつつあるが、臨床に応用できるような化合物は未だ見つけていない。従って、「セロクエル」より数十倍ほど作用が強いPAK遮断剤「15K」に近い将来、関心を持ってくれる可能性がある。。。
アストラゼネカ (正確には、その前身であるICI=帝国化学工業) がその昔、乳癌の治療薬として開発した抗癌剤 「タモキシフェン」(TAM) は女性ホルモン「エストロジェン」の拮抗剤である。 しかし、TAM 耐性の乳癌が 3割以上存在する。 10年以上昔、我々はTAM 耐性の主因がPAKの異常活性化にあることを突き止めた。言い換えば、PAK遮断剤で乳癌を治療すれば、殆んど100% 治癒可能である。 更に、TAMの特許は既に期限切れであり、安価なジェネリック薬が巷に横行しているので、TAM は最早アストラゼネカのドル箱ではなくなった。 更に、(一時「薬害」で騒がれた) 肺癌治療薬「イレッサ」の特許期限も最近切れ、本年2月からジェネリック薬の販売が承認される予定。 そこで、副作用のない「15K」を新たなドル箱として、(例えば) アストラゼネカから「独占的に市販」するのは、決して悪くない商法であるに違いない。。。
(注) アストラゼネカ ( AstraZeneca )は、英国ケンブリッジに本社を置く製薬企業。1999年に英国の大手化学会社ICIから医薬品部門が分離したゼネカと、スウェーデンに本拠を置き北欧最大の医薬品メーカーであったアストラが合併して誕生。抗癌剤で、上皮細胞成長因子 (EGFR) 阻害薬「イレッサ」(一般名:ゲフィチニブ)の承認を世界に先駆けて日本で獲得したが、副作用などが問題となった。その後、ガイドラインの周知を図ることで、イレッサを使い続けることを決定。
日本には現地法人として、大阪市北区大深町のグランフロント大阪内に、アストラゼネカ(AstraZeneca K.K.)本社を置く。また東京都千代田区丸の内の丸の内トラストタワー本館内に東京支社を置いている。ゼネカは旧ICI時代に住友化学(当時は住友化学工業)と合弁でアイ・シー・アイファーマを設立したことがあり、一方のアストラは旧藤沢薬品工業(現・アステラス製薬)と合弁で藤沢アストラを設立したことがあった(いずれも当社の前身にあたる)。
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