2018年9月16日日曜日

「生きている化石」アルテミアの生存にはPAKが必須!

アルテミア (Artemia) は、ホウネンエビモドキ科 の属名で、小型 (体長1 cm) の甲殻類で世界各地の塩水湖に生息し、代表種は Artemia salina。1億年前から変化していない "生きている化石" とされる。ブラインシュリンプ (brine shrimp) とも呼ばれ、長期間乾燥に耐える休眠卵の採取を目的に採取・養殖され、市販されている。

実は、この 「生きている化石」の存在を私自身が知ったのは、ごく最近である。沖縄の琉球大学構内にある農学系研究室 (石井貴広助教授ら) で、先月末、沖縄産の海鼠 (ナマコ) から、サポニン (トリテルペン配糖体) の一種で、硫酸基のないエチノシド B (DEB) が、硫酸基のある「フロンドシド  A 」(FRA) と同様、強いPAK遮断作用があるらしいという研究結果を発表した (1)。
http://www.agr.u-ryukyu.ac.jp/labos/ishiit/

2糖体のDEB は、5糖体のFRAに比べて、分子量が小さく、かつ硫酸基がないので、細胞透過性もずっと高いと思われる。 さて、 私が特に注目したのは、両者がアルテミアの幼虫に対して、24時間以内に (同じくらいの) 毒性 (IC50=10 micro M) を示すという "意外な" 結果である。 プロポリスや15K など、一般にPAK遮断剤は、せんちゅうなどの小動物の「健康寿命を延ばす」薬理作用がある。 私の知る限り、せんちゅうからマウスまで、その生存にはPAKは不必要であり、むしろPAKの存在は、動物の寿命を明らかに縮めている。  FRAは開発中の抗癌剤であるが、マウスに対して毒性 (副作用) を示したことは全くない! 

そこで、頭を "180度" 回転させて、アルテミアの幼虫に対する毒性は、いわゆる「無差別な毒性」によるものではなく、これらのサポニンによる選択的な「PAK遮断作用」によるものと解釈してみた。もし、例外的な「生きている化石」の生存にPAKが必須ならば、アルテミアの幼虫を使用して、短時間にPAK遮断剤をスクリーニングすることができる。。。 従って、プロポリスや15Kが、果して、アルテミアの幼虫に毒性を示すかどうか、一度調べてみる価値ありと、私は確信した。 

私の予測を裏付けるように、ブラジル産プロポリスは、アルテミアの幼虫に強い毒性を示すことが, 既に (20年ほど昔) 報告されている (2)。そもそも、アルテミアの幼虫を対象とする簡便な "in vivo" 毒性テスト (micro-titer 法) は、1993年に英国ロンドン大学の生薬研究グループによって、開発されたもので、各種のQuassinoid が毒性を示すことが報告されている (3)。 我々による最近の研究から、Glaucarubinone など Quassinoid 類は一般に、PAK遮断剤に属する。

 PAK遮断剤は一般に、癌/NF腫瘍細胞には毒性を示すが、"正常な (哺乳類) 細胞には無毒" である。従って、正常細胞に無毒だが、アルテミアに毒性を示す薬剤は全て、PAK遮断剤と判断しても、ほぼ間違いはなかろう。

参考文献
Cytotoxic Desulfated Saponin from Holothuria atra Predicted to Have High Binding Affinity to the Oncogenic Kinase PAK1: A Combined In Vitro and In Silico Study. 
Sci Pharm. 2018 Aug 31;86(3).
2.  Velikova M1, Bankova V, Marcucci MC, Tsvetkova I, Kujumgiev A.Z
Chemical composition and biological activity of propolis from Brazilian meliponinae. 
Naturforsch C. 2000 ; 55(9-10):785-9.
3.  Solis PN1, Wright CW, Anderson MM, Gupta MP, Phillipson JD.
A microwell cytotoxicity assay using Artemia salina (brine shrimp). 
Planta Med. 1993 ;59(3):250-2.

0 件のコメント:

コメントを投稿