2018年9月3日月曜日

稀少難病「NF2」は果して、PAK遮断剤「15K」で治療し得るだろうか?

NF2と呼ばれる稀少難病は、抗癌遺伝子NF2 (メルリン) の機能不全によって発生する遺伝子病の一種で、主に脳内に、シュワノーマあるいはメニンジオ--マと呼ばれる良性腫瘍が左右の聴覚神経や視覚神経の周囲に増殖して、難聴や失明をもたらす難病である。 これらの良性腫瘍は手術によって、ある程度除くことはできるが、術中に周囲の聴神経や視神経を傷める可能性があり、後遺症が残る場合が多く、数回の術後には、全身麻痺を来たす場合が数少なくない。従って、理想をいえば、(手術ではなく) 飲み薬で治療したい。しかしながら、今日までのところ、プロポリス以外のPAK遮断剤で、NF2が治療し得たという臨床例は殆んどない。

さて、 抗癌蛋白「メルリン」は我々自身の研究によれば、PAK阻害蛋白なので、それが欠損しているNF2患者の脳腫瘍では、PAKが異常に活性化されているので、原理的には、(プロポリスよりずっと) 強力なPAK遮断剤である「15K」などによって、治療可能なはずである。しかしながら、臨床テストの前に、次の2点について、動物 (マウス) 実験で確かめておかねばならぬ事柄がある。その一つは、経口投与した15KがBBB (血管脳関門)を通過して、脳内に到達し得ることである。 15Kの原料であるケトロラックが、元々鎮痛剤であることから、恐らく15kも脳内に到達しうると考えられる。

もう一つの点は、NF2腫瘍は、最近の研究結果によれば、癌と違って (意外にも)、「COX-2 阻害剤」(Celecoxib etc) 耐性であることが判明した (1)。実は、15Kはラセミ体 (光学異性体の混合物) で、COX-2 阻害剤 (S型) であると同時に、PAK遮断剤 (R型) でもある。 従って、少なくとも"S型"は、NF2腫瘍には無効なはずである。 "R型"だけで、NF2腫瘍の増殖を十分に抑えることが期待される。これを、NF2遺伝子を欠損したマウスで、実証確認することが、(臨床テスト前の) 来たるべき動物実験で極めて重要になってくる。もし、NF2に有効ならば、15Kが認知症を始め他の多くの (PAK依存性) 神経疾患にも有効であることが、明白になるからである。

そこで、米国のインディアナ大学医学部の知人で、WADE Clapp 教授 (PAK研究とNF2研究の専門家) にメールを送り、彼の「NF2 モデル」マウスで、我々の「15K」の薬効を調べてもらえないか、問い合わせしようと、目下作戦をじっくり練ってしている最中である。というのは、実際の文献を読んでみるとわかるのだが、このNF2モデルマウスでは、腫瘍の増殖が遅いので、(癌を移植した) マウスでは、一ヶ月以内に「勝負が着く」(治療の正否がはっきり判明する) のに対して、長々と6か月もかかる。 従って、検体 (15K) も少なくとも6倍の分量が必要になる。その上、腫瘍のサイズが小さいので、 コントロールの腫瘍と15K処理を受けた腫瘍との間にはっきりとした大幅な差が出ない可能性もある。残念ながら、 理想的な実験系 (少なくとも「即答」を期待出来る系) とはいえない。

参考文献:

Chemopreventative celecoxib fails to prevent schwannoma formation or sensorineural hearing loss in genetically engineered murine model of neurofibromatosis type 2.

Oncotarget.  9 (2017): 718-725.

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