2021年1月17日日曜日

草花の "開花"と"閉花" のタイミング: 開花遺伝子
(フロリゲン) の発現が気温や日照(UV)により調節!
草花は「コンビニ」と違って「夜間営業」をせぬ!


私は薬理学や生化学が専門であり、植物学や遺伝学には疎い。従って、草花の開花期を支配している遺伝子や環境 (特に温度) の変化については、 余り知識がない。 しかしながら、南半球の豪州メルボルンに30年以上永住していると、ある不思議な現象に気づく。 例えば、藤の花が年に2度 (春と秋に) 開花 する。沈丁花もしかり。真冬 と真夏に咲く。 ニオイバンマツリ (American Jasmin) も 5月 と11月に咲く。いずれも 北半球が原産である。 さて、桜はこちらでも、春 (10月) にだけ 咲く。 梅も年に一度しか咲かない (晩冬の8月にだけ咲き、実の収穫期は11月末になる)。 従って、原産が北半球でも、花によって、豪州で二度咲くものもあれば、一度しか咲かないものをある。 他方、南半球原産のジャコランダは、12月初めに一度だけ、紫の花を咲かせる。一体、どうしてだろうか?
2013年の論文: (地球温暖化世界で生じる開花フェノロジー変化を開花遺伝子発現量から予測する: 佐竹暁子(北大)、川越哲博(京大)、佐分利由香里(北大)、 千葉由佳子(北大)、櫻井玄(農業環境技術研)、工藤洋(京大)
Forecasting flowering phenology under climate warming by modelling regulatory dynamics of flowering-time genes
Nature Comm。 4, 2303, 2013/08/13/online

上記 の植物遺伝学の専門家によれば、アブラナ科には、少なくとも2種類の開花遺伝子 (「負」のFLC 遺伝子と「正」のFT 遺伝子=フロリゲン) が存在するそう である。越冬の後、春に開花する植物 (例えば、アブラナ科) では、長期間の低温を経験して初めて花芽形成が誘導される。このことは春化(しゅんか)と呼ば れ、春まきと秋まき小麦の違いに代表されるように古くから知られていた現象。
さて、FLC 遺伝子は低温 (冬) の状態では、高く発現され、FT遺伝子の発現を抑えている。温度が2度ほど上昇すると、FLC遺伝子の発現が急速に下がり、逆に (開 花に必須な) FT遺伝子の発現が急速に高まり、花が咲く。 更に温度が2度ほど上がると、FLC遺伝子の発現が再び高まり、FT遺伝子の発現を抑え、閉花となる。従って、通常 (北半球では) 暖かくなると開花するが、南半球では、暖かくなった時ばかりではなく、逆に寒くなった時にも、(逆反応で) 開花 (狂い咲き) しうる、という解釈が可能となろう。。。 亜熱帯の沖縄や台湾では、ハイビスカスが殆んど年中咲いている。 亜熱帯では年較差が小さく、気温が小幅に上下する度に開花を繰り返すので、殆んど年中開花しているようにみえるのだろう。メルボルンでは、真夏の1-2月のみがハイビスカスの開花期である。
より最近の研究によると、FT 遺伝子の発現は、長日の "日照" (特に紫外線) によっても、制御されている。日暮れになると、"ヒストン脱アセチラーゼ" (HD2C) の作用により、 FT 遺伝子の発現が抑制され、閉花する。 「開花」の主な目的は (昆虫による)「受粉」=「雌しべ」と「雄しべ」の交尾 なので、日が暮れ、昆虫が眠っている暗闇では、開花する必要がない! Zhihao Guo, Zepeng Li, Yuhao Liu et al. MRG1/2 histone methylation readers and HD2C histone deacetylase associate in repression of the florigen gene FT to set a proper flowering time in response to day-length changes. New Phytol. 2020 Sep;227(5):1453-1466.
なお、“一季咲き、二季咲き、四季咲き” について詳しくは: https://karuchibe.jp/read/7289/
Nature 論文 (2014) によると、FT (florigen) 遺伝子産物 は、PC (phosphatidyl choline) と呼ばれる燐脂質に結合する蛋白のようである:
Nat Commun. 2014; 5:3553. Yuki Nakamura et al. Arabidopsis florigen FT binds to diurnally oscillating phospholipids that accelerate flowering.

これらの研究で判明した、もう一つ重要なことは、(地球温暖化により) 温度が4度以上急激に上昇すると、全く開花しなくなるか開花時間が極端に短くなり、蜜蜂や蝶による受粉チャンスが少なくなるため、多くの作物が全く結実しなくなる (つまり、稲や麦などが実らなくなる) 可能性! これは「一大事」である!

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