抗生物質「ラパマイシン」は発癌キナーゼ"TOR" の阻害剤だが、
(不幸にして) 「免疫機能を阻害する」副作用があるので、結局、臓器移植を可能
する薬剤としてのみ、臨床で使用されている。
抗癌遺伝子TSC が欠損すると、TORが異常に活性化し、腫瘍が発生する。
そこで、"免疫機能を阻害しない" TOR阻害剤として、2010年頃にボストン市内の "MIT" と "Dana-Farber 癌研" との共同研究で、「TORIN-1 」が開発された。
試験内では、TOR複合体を、IC50 =ca 5 nM で阻害するが、(何故か) TSC 腫瘍細胞
内では、IC50=250 nM だった。。。
その後、様々な研究結果の末、少なくとも細胞内では、主な標的はTOR ではなく、意外にも"PAK"であるらし
いことが判明した。
例えば、炎症に伴う痛みの原因である「プロスタグランディン」を合成する酵素
「COX-2」遺伝子の発現には、PAKが必須であるが、TOR阻害剤であるラパマイシン
は、COX-2 発現を阻害しないが、「TORIN-1 」はCOX-2 を阻害する (1)。 更に、ラ
パマインシンはPAK依存のメラニン合成を刺激するが、「TORIN-1 」は明らかにメ
ラニン合成を抑制 (美白作用を発揮) する (2)。 言い換えれば、「TORIN-1 」
は何らかのメカニズムで (細胞内で) 「PAK」を遮断していることが、明らかになっ
た!
REFERENCES:
1. C Li, PS Lee, Y Sun, et al (2014).
Estradiol and mTORC2 cooperate to enhance prostaglandin biosynthesis and tumorigenesis in TSC2-deficient LAM cells.
J Exp Med. ;211: 15-28.
2. Juxiang Cao, Magdalena E Tyburczy, Joel Moss, et al (2017).
Tuberous sclerosis complex inactivation disrupts melanogenesis via mTORC1 activation.
J Clin Invest. 2017 Jan 3;127(1):349-364.
結論: 稀少難病「TSC 」も「NF」も、PAK遮断剤で治療しうる!
市販の「Gleevec」も結局、PAKを遮断 (IC50=10 micro M) するが,
「TORIN-1 」の IC50 =0。25 micro M, つまり 「40倍」も強力!
奇妙にも両者の化学構造は良く類似している。。
逆に、Gleevec の弗素 (F3) 誘導体 「Nilotinib」は、試験管内では、 PAKを遮断
するようだが、細胞内では、TOR を阻害して、(美白作用のあるGleevec とは逆に
) 「メラニン色素合成を誘導」する! 従って、"弗素" 付加により、 Gleevec
(PAK遮断剤) が "TOR阻害剤" に豹変 (進化) したことになる。 言うなれば、飛べない
ペンギンが翼 (フリッパー) で、海を泳ぐ鳥に「進化」したようなものである!
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