2019年1月5日土曜日

Hormesis: 過ぎるは及ばざるが如し! 麻薬「大麻」由来の delta-9 THC (tetrahydrocannabinol) は PAK遮断剤

マリファナ (大麻) には、「カニバス」と総称される麻薬 (麻酔薬) 成分が豊富に含まれている。 阿片、アルコール (ビールや焼酎など)、煙草 (ニコチン) など と同様、中毒症状を起こす傾向があるので、医療用以外では、販売が一般に禁止されている (欧米や豪州)。しかしながら、 極めて「微量」に使用すれば、鎮痛、癲癇などの発作の抑制、認知症などにより喪失した記憶の回復などに有効であることが最近明らかになってきた。

そのカニバスの中で、delta-9 THC (tetrahydrocannabinol) が にわかに注目されつつある。 どうやら "PAKを遮断" するようである。もっとも、その抗癌作用自体はそれほど強くないが、極めて微量 (0.001 mg/kg) で、脳の機能、例えば学習能力 (記憶力) を高める働きがあることが、イスラエルの研究グループによって明らかにされた (1)。 その有効濃度は、最強のPAK遮断剤「15K」の(抗癌) 有効濃度 (0.1 mg/kg) の更に100 分の1 に相当する。

実は最近、米国ボストンの大学教授で毒物学の専門家 (Ed Calabrese) から、"Hormesis" という耳慣れない熟語を教わった (2)。 一般に、毒物を致死量よりもずっと低い濃度に薄めると、種々の治療効果が発揮されるという現象を指す。 その典型的な実例が、 上述したdelta-9 THC による学習能力の向上である。

「Hormesis」 の語源 毒を希釈して、医薬 (Hormone) として役立てる医術 (錬金術= Alchemy)。 ドイツの薬理学者 Hugo Schulz が1888年に、ある微量の毒物を酵母に与えることによって、その増殖を促進することに成功した。以来、同じような現象が他の動物や毒物で観察されるようになった。それを受けて、1943年にChester Southam らが学術論文の中で、この不思議な現象に「Hormesis」という術語を与えた。

同じような現象が、宇宙飛行を終えて、地球へ帰還した飛行士たちにも観察された。宇宙飛行中に浴びた放射線 (地上の100倍) のおかげで、より健康になったという報告、更に宇宙ロケットに乗せたせんちゅうは、地上に残ったせんちゅうよりも長生きした、という興味深い結果もつい最近、報告されている。 以来、巷では、日光浴の代わりに「放射線浴」 (Hormesis) なる健康法が流行しているようだ。

「腹八分目」という言葉通り、全ての物には、適量 (Optimum dose) というものが存在し、過剰では有害、過少では無害 (あるいは無益) になる。この"常識"が「Hormesis」の根本原理である。

駅伝やマラソンのベテランは、適速 (Optimum Pace) を心得ている。速過ぎれば失速するが、遅過ぎれば、勝負(レース) にならない。「過ぎるは及ばざるが如し」。水平思考のできる人なら、"Hormesis" が人生における成功の指針であることに、直ぐ気づくであろう。

"水平思考"とは、「一を聞いて十を知る」進化論的な類推法である。



参考文献: 

Pre- and post-conditioning treatment with an “ultra-low dose” of Δ9-tetrahydro-cannabinol (THC) protects against pentylenetetrazole (PTZ)-induced cognitive damage. Behav Brain Res. 2011 ; 220 (1):194-201.

2. Calabrese EJ. Hormesis: why it is important to toxicology and toxicologists. Environ Toxicol Chem. 2008 ;27(7):1451-74.

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