2022年5月10日火曜日

分子遺伝学に基づく「健康長寿」法:
PAK 遮断剤/食物の同定と開発

ある特定の遺伝子の発現や機能を抑えると、動物が健康に長生きする。言い換えれば、その遺伝子は「老化」遺伝子である。 最初に線虫で見つかった「老化」遺伝子は、発癌遺伝子の一つで、燐脂質を燐酸化する「PI-3 キナーゼ」を発現する遺伝子だった。 このキナーゼは、我々哺乳類では、発癌にも必須であるが、心臓の機能にも必須だから、このキナーゼを抑制すると、長生きできない (幸い、線虫には、心臓がないので、長生きできる!)。
この発癌キナーゼによって、活性化される酵素 (キナーゼ ) が少なくとも2種類、知られている。PAK と AKT である。 AKT は哺乳類の心臓の機能に必須なので、抑制すれば、死に至る! さて、発癌に必須であるPAK はどうだろうか? そこで、我々は、PAKを欠損した変異体に注目した。 先ず、線虫では、PAK欠損株では、「少子化 」が起こる (産卵数が激減する)。 一般的には、「産卵数は寿命と反比例」する。従って、PAK欠損株は長寿である可能性が高い。。。 実際、線虫でもマウスでも、PAK欠損株は、野性株に比べて6割ほど長生きする! これが、PAK 遮断剤で、我々人類の健康長寿を実現しうる科学的な「根拠」である。驚くなかれ、植物にはPAK遺伝子が存在しないから、何千年も生き延びることができる!
さて、寿命を測定する実験は、最短の線虫でも2週間 (20度で)、マウスでは2年半、人類では 80年以上かかる。。。 従って、(先を急ぐ) 大部分の若い寿命研究者 (学生/ポストク) は、線虫を実験材料に選ぶ。時は金なり! しかしながら、哺乳類の細胞培養系を利用すると、"答え" (=PAK遮断剤の同定) が数日以内で、得られる場合がある。 我々は数年前に、メラニン色素を合成するメラノーマ細胞の「PAK遺伝子の発現を遮断」すると、メラニン色素の合成が半減することを発見した。 つまり、メラニン色素の合成には、PAKが必須であることが判明した! そこで、「美白」(メラニン色素合成を抑える) 作用を指標に、PAK 遮断剤/食品 を敏速に同定/スクリーニングする方法を考案した! 「必要は発明の母」である! 以来、 プロポリスばかりではなく、メラトニン、フコイダン、酸乳飲料「カルピス」など様々な、いわゆる健康食品が、PAK遮断剤であることを、科学的に突き止めてきた。
勿論、これらの天然物のPAK遮断作用は (様々な理由から) 余り強くないので、我々は (遠い将来を見据えて) 有機化学の "粋" を集めて、現存の天然物より "千倍以上"も 強力な合成PAK遮断剤 「15K」も開発し、特許を取得している。。。言い換えれば、"健康長寿" をめざす「創薬」に成功するには、遺伝学、生化学、分子病理学、有機化学など、 幅広い学問分野に "熟知" している必要がある。。。

0 件のコメント:

コメントを投稿