我が輩は1972年に東大薬学部で博士号を取得し、その翌年に米国に渡米した。
最初の一年はNIH から奨学金を貰って、米国中西部 (コロラド大学) で遊学しながら、ロッキー山脈の登山を堪能した。 その後、米国東海岸にある首都ワシントンの郊外にあるNIH (米国最大の医学研究所) に移った。ここで、丸6年間、ミオシンに関する研究に没頭した。
このNIHの3号館に、私のボス、Ed Korn の研究室があった。歴史的には、この3号館の地下で、筋肉収縮の研究で有名なAlbert Szent-Gyorgy が、戦後しばらくアクトミオシンの研究をしていた。
言わば、その弟子である Korn 博士の研究室に、1969年頃から、ハーバード大学医学部からやってきたポスドク、Tom Pollard が土壌アメーバ中の奇妙なミオシン(Myosin I) について研究していた。このミオシンは哺乳類に発見された双頭のミオシン(Myosin II) と違って、単頭だった! 奇妙なのは、それだけではない。 アクチンによって、そのATPaseが活性化されない! しかしながら、アメーバのある分画 (Cofactor) を加えると活性化されることが判明した。 その時点で、トムはハーバードに戻った。
我が輩の仕事は、謎の Cofactor の「正体」を暴くことだった。しかしながら、それに丸3年の月日がかかった! 結局、1977年末に、Cofactor=Myosin I heavy chain kinase であることが判明した! それから、17年後の1994年になって、シンガポール大学の英国人、Ed Manser によって、そのキナーゼによく似た酵素が哺乳類にも存在することが発見され、PAK1 と命名された。
さて、1980年頃に、MITのBob Weinberg 教授の研究室によって、ラット肉腫細胞に、”RAS” と呼ばれる発癌G蛋白の変異体が発見された。 それから、20年ほど経って、Manser 博士と我々の豪州チームにより、RAS による発癌には、PAK1が必須であることが突き止められた! つまり、PAK1 は発癌キナーゼだった。
それから、数年後の2007年に、我々は、線虫を使って、PAK1の欠損した変異体が野性株より6割も長生きすることを突き止めた。つまり、PAK1 は寿命を縮める「老化酵素」でもあることが判明したわけである! 言い換えれば、様々な「PAK1遮断剤」 (食材/薬剤) によって、”健康長寿”が達成される!
従って、我々, PAK Experts (Ed Manser and I) は、トムやボブにも感謝しなければならない。
さて、 我々のNIH 時代のボス (Ed Korn ) は本年96歳だが、何と90歳まで NIH に勤続 (米国や豪州では「定年制度」がない)!目下、ワシントン郊外にある老人ホームで、奥さん (ミッキー) と元気に暮しているそうである。
我が輩は (ボスとは違い), 63歳で (豪州の) 癌研を退職し、自営の研究所 (PAK 研) を立ち上げ、
"パソコン"を駆使して、世界中で "PAK1遮断剤" 研究を続けている。。。
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