2018年10月6日土曜日

マイケル=ローズ著「老化の進化論: 小さなメトセラが寿命観を変える」(熊井ひろ美訳、2012年出版)

上記の英文原本「The Long Tomorrow 」(オックスフォード大学出版) は、2005年に出版された。 (副作用のない抗癌剤の開発を長らく目指していた) 私が、「健康な寿命の延長」法について、丁度、興味を感じ始めた時分だった。

この本の冒頭にあるアンドリュー=ワイル (「医食同源」で有名な米国の医学者) による推薦の辞を、先ず紹介したい。ヒトの寿命延長の可能性は、科学界と医学界を分裂させるような問題を提起している。古典的な生物学者の多くは、我々の寿命は事実上およそ120歳あたりで固定されていると主張する。 死や老化をもたらす遺伝子は存在しない、なぜなら自然淘汰が影響を及ぼすことができるのは生物が生殖する時点までだからだ、と言う。だが、若い分子生物学者たちは、代謝をコントロールするマスター制御遺伝子を突き止めて操作することによって、酵母やせんちゅうの寿命を劇的に延ばしてきた。

私に言わせれば、ノーベル選考委員会に関与する生物学者の大多数は、前者の部類に属する。  その証拠に、120年近いノーベル賞史で、寿命や老化に関する研究者で、受賞の対象になった者は、皆無だったからである。 つまり、彼らは「寿命/老化」音痴なのである。

私はもはや若くはないが、明らかに後者に属する "分子生物学者" の一人である。 なぜなら、この英文原本が出版されて間もなく、せんちゅうを使って、発癌酵素 "PAK" が老化酵素でもあることを、見事に証明したからである。PAK遺伝子を欠損したせんちゅうは、野生株に比べて、6割ほど健康長寿になる。 更に、 PAK遮断剤であるプロポリスや15Kによって、せんちゅうの寿命を有意に延ばすことにも成功している。つまり、「健康長寿の薬」をも発見したのである。私はダーウイン同様、「進化論」者であるから、せんちゅうの寿命を延ばす物は、人類の寿命をも延ばし得ると確信している。

さて、この邦訳の副題である「メトセラ」とは、一体何者だろうか?  旧約聖書の創世記に登場する長寿者で、969歳まで生きたといわれる「伝説上」あるいは「架空の」人物である。著者 (ローズ博士) が、英国のサセックス大学の院生時代 (1979年頃) に自ら見つけた「小さなメトセラ」は、小さなショウジョウバエの突然変異株で、野生株より10% ほど長生きした。 この博士研究論文で、彼は「寿命の長さが遺伝する」ことを初めて実証した。

更に、「寿命が延びると若齢期の生殖にコストが生じる (少子化する」という注目すべき現象も見つけた。 この現象は、「若齢期の生殖を増やす遺伝子は寿命を短くする働きをする」ことを意味する。 実際、せんちゅうやマウスでも、若齢期の生殖を増やすいわゆる「発癌遺伝子」は寿命を短くする「老化遺伝子」でもあることが、PAKやTOR などを含めて一連の (キナーゼ) 遺伝子に関して証明されている。

 
言い換えれば、若齢期の生殖能を低下させる薬剤の中から、健康長寿を促進しうる一連の LED (Lifespan Extending Drug) 、 例えば プロポリスなどのPAK遮断剤を, せんちゅうなどを実験動物として、短時間かつ組織的にスクリーニングすることが可能になった!  

従って、著者ローズ博士 (1955年生まれ) を始め、トム=ジョンソンやシンシア=ケニオン女史など、2、3 名の「寿命を支配する遺伝子」の草分け研究に従事してきた分子生物学者は、近い将来の "ノーベル医学賞" に値いすると、私は確信している。

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