2018年10月11日木曜日

安価な"PAK遮断"も癌の「免疫 (チェックポイント) 療法」

癌の治療法として開発された「免疫 (チェックポイント) 療法」(本庶 ら) と我々の「PAK遮断療法」とは、元々全く "別の原理" から出発したアプローチである。しかしながら、ごく最近の研究によると、全く偶然にも、この2種類のアプローチの間には、実は「密接不可分な関係」があることが判明した。

両者の共通の接点は、"RAS" と呼ばれるG 蛋白の一種で、 その遺伝子に一定の変異が起こると、異常に活性化され、種々の臓器で、正常な細胞が癌化し始める。ヒトの癌の場合、3割がRASの変異によって癌化し、すいぞう癌の場合は9割以上、結腸癌の場合は5割、肺癌の場合は3割がRAS遺伝子の変異によって発生する。さて、RASが活性化すると、下流で様々なキナーゼが活性化するが、その内でも最も重要なのが、いわゆる発癌/老化キナーゼ「PAK」である。  PAK を阻害するとRAS 癌の増殖がピタリと止まるからである。

さて、南仏のリヨン大学の研究グループによれば、ヒトの肺癌の 13%  (つまりRAS 癌の4割以上) がPD-L1  (Programmed death ligand) と呼ばれるリガンドを発現していることが判明した (1)。本庶らが発見した "PD-1 " は「PD-L1の受容体」で、免疫細胞を破壊する機能を持つ。 このリガンドの発現には、"RAS-JAK2-PAK" 経路が関与している模様: 

すいぞう癌患者の 9 割は、(発見から) 3か月以内に死亡する。唯一の治療薬であるGemcitabine (Gem) に耐性であるからである。Gem 耐性のメカニズムが最近判明した。 Gem がPAK を異常活性化するからである。 更に、 PD-L1 発現を 高めることも判明した。 ところが、PAK の上流 JAK を阻害すると、 PD-L1 発現が治まる (2)。 

ここで、PAK と免疫機能との関係に、もう一度触れてみよう。 昨年、 豪州メルボルン大学の 賀 紅 博士の研究室で、面白い発見があった。抗癌遺伝子 APC が欠損したマウスでは、免疫機能が明らかに低下する。 つまり、RAS 癌が増殖しやすくなる。 そこで、このマウスをPAK遮断剤で処理すると、免疫能が回復して、癌の増殖が抑制される (3)。

言い換えれば、RAS-PAK シグナル経路は、恐らく、PD-1/PD-L1 を介して、個体の (癌細胞に対する) 免疫能を抑制する働きをもっていると解釈される。 従って、「抗PD-1 による」癌治療と「PAK遮断剤による」癌治療とは両者共、メカニズムの詳細には違いがあれ、「抗癌免疫能」を高めることによって、癌の増殖を抑えようという共通の目的を、偶然にもめざしている。当然の帰結ながら、両者を併用すれば、「相乗効果」が期待できるだろう。。。

米国Genentech による最近の研究によれば、PAK の直下にある「MEK 」というキナーゼを阻害する薬剤と抗PD-L1 モノクローナルを併用すると、 (動物実験で) 癌の治療に "相乗効果"がみられた! 

埼玉大学の研究グループによれば、緑茶中のカテキン (EGCG) がPD-L1 の発現及び癌の増殖を抑制する (4)。 PD-1 抗体 はノーベル賞に輝いたが、ひどく高価なので、ずっと安価で副作用のない (PAK遮断作用もある) 緑茶、プロポリス、クルクミン、赤ワイン 、 漢方「センシンレン」などで「癌の免疫療法」を試みる方が、ずっと実用的な選択肢のように思われる。

なお、未発表データだが、(我が昔の同僚) 賀 紅女史によれば、癌細胞のPAK活性を選択的に抑制すると、PD-L1の発現レベルが下がることを最近実証した。 従って、我々の予測は見事に的中!  乾杯! 

早速、PD-L1 研究のエキスパートと共同研究で、強力なPAK遮断剤である "15K" や"FRA" (海鼠由来のFrondoside A) が実際にPD-L1 発現を抑えることを、(「チェックポイント」療法が臨床で効果をあげている) 肺癌などの細胞 (A549株) で確認するため、準備を目下進めている。

参考文献: 
1.Serra P1, Petat A2, Maury JM3, Thivolet-Bejui F1, Chalabreysse L1, Barritault M1, Ebran N4, Milano G4, Girard N2, Brevet M5. Programmed cell death-ligand 1 (PD-L1) expression is associated with RAS/TP53 mutations in lung adenocarcinoma. Lung Cancer. 2018 Apr;118:62-68
2. Doi T1, Ishikawa T1, Okayama T1, Oka K1, Mizushima K1, Yasuda T1, Sakamoto N1, Katada K1, Kamada K1, Uchiyama K1, Handa O1, Takagi T1, Naito Y1, Itoh Y1. The JAK/STAT pathway is involved in the upregulation of PD-L1 expression in pancreatic cancer cell lines. Oncol Rep. 2017 ;37(3):1545-1554.
3. Huynh N1, Wang K1, Yim M1, Dumesny CJ1, Sandrin MS1, Baldwin GS1, Nikfarjam M1, He H2. Depletion of p21-activated kinase 1 up-regulates the immune system of APC∆14/+ mice and inhibits intestinal tumorigenesis. BMC Cancer. 2017 Jun 19;17(1):431

4.Rawangkan A1,2, Wongsirisin P3,4, Namiki K5,6, Iida K7, Kobayashi Y8, Shimizu Y9, Fujiki H10, Suganuma M11,Green Tea Catechin Is an Alternative Immune Checkpoint Inhibitor that Inhibits PD-L1 Expression and Lung Tumor Growth. Molecules. 2018 Aug 18;23(8). pii: E2071. 12.

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