2021年10月15日金曜日
PAK 遮断 ペプチド: PAK によって燐酸化される 抗癌蛋白「RUNX3 」由来のペプ チド (Thr 209 を含む)
博士論文: 「RUNX3」 の Thr 209 付近 と「メルリン」のSer 518 付近にある構造 (あるいは機能) 的な「共通点」?
インド南部のマドラス市 (人口は、ほぼ東京都と同じ) にある Suresh Rayala 博士の研究室 (インド工科大学) は数年前から、(副作用のな い) 「抗癌剤」の開発をめざして、本格的に 「PAK 」研究を開始した。 その過程で、(抗癌性のある) 転写蛋白「RUNX3 」の 209 番目のTHR がPAK によって特異的に燐酸化されると、発癌することを突き止めた。 そこで、 「RUNX3 」蛋白中の Thr 209 を含むいくつかのペプチドから、2021年になって、PAK 遮断剤 (RMR, 12 個のアミノ酸: RMRV-T-PSTPSPR) を見つけた。 細胞培養系でのIC50= 2 micro M (実験用試薬としては、OK!)。 もし、このペプチドの誘導体 (peptide mimetics) で、水溶性、かつ細胞透過性の高い化合物が、近い将来、開発されれば、抗癌剤として有望だろう。。。
我々は、もう20年ほど昔、「WR-PAK18」 というPAKを遮断する水溶性、細胞透過 性の高いペプチド化合物を開発した。 しかしながら、全体が34個のアミノ酸から なり、体内で消化され易い傾向があるので、もっと (分子量の) 小さな化合物 (peptide mimetics) の開発/登場が長らく嘱望されていた。。。
参考文献:
Rahul Kanumuri et al. Oncogene. 2021 Aug; 40(34):5327-5341. Small peptide inhibitor from the sequence of RUNX3 disrupts PAK1-RUNX3 interaction and abrogates its phosphorylation-dependent oncogenic function.
さて、 NF2 遺伝子産物 (メルリン) も抗癌蛋白 (595個のアミノ酸からなる) で、PAK により 518番目のSER が燐酸化されて、その抗癌作用が抑えられることが、既に知られている。 更に、我々の手で、メルリンの"前半部" と "後半部" が、各々PAKを遮断することが、20年ほど前に明らかにされている。 燐酸化を受ける "SER 518" は メルリンの後半部 (NF78C, residues 447-524) の「C 末端近く」にある。 従って、メルリン後半部のPAK遮断機能は、この "SER 518 を含むプチド" による可能性が極めて高い! 少なくとも、Ser 518 がAsp に置換された変異体は、燐酸化されたメルリンのごとく、抗癌作用を失うが、Ala に置換された変異体は、あくまでも抗癌作用を保持することが判明している:
Ezequiel Surace, Carrie Haipek & David Gutmann (2004). Effect of merlin phosphorylation on neurofibromatosis 2 (NF2) gene function.Oncogene 23, 580–587.
従って、「RUNX3」 の Thr 209 付近のアミノ酸配列 (=RMR) と「メルリン」の Ser 518 付近のアミノ酸配列との間に、何か「共通点」があるか否か、調べてみる (「水平思考」してみる) 価値は十分あると私は思う。。。両者の間に、一次配列的に、あるいは「3次構造的」に何らかの共通点を見つけることができれば、確実に「博士論文」 になる!
例えばの話 (一案) であるが、 メルリンのC末端、514番目から、525番目のアミノ酸12個からなる「MKR」と呼ぶペプチド、MKRL-S-MEIEKEK は、5番目に燐酸化されるSer 518 を含む。 更に、このペプチドの「K」を全部 「R」に変換すると、細胞透過性、および水溶性の極めて高い「MRR」と呼ぶ塩基性のペプチドになる: MRRL-S-MEIERER。 これがRUNX3 由来の「RMR」に、機能的に果して匹敵するかどうか、調べてみると面白い!
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