序:「FK228」がBBB を通過しないことが判明した2005年以来、我々は稀少難病「NF」
(神経線維腫) 患者のために、BBBを通過しうる「安価かつ副作用のない」PAK遮
断剤を食材などから発掘する努力を開始した。 実は、NF は「遺伝子病」なので、
癌と違って、一生治療が必要なので、副作用のない、かつ安価な薬剤が、特に必
須である。 従って、 (主に「利潤」を追及する) 製薬会社は (当然ながら) 見向き
もしない! 癌は3人に一人といわれているが、NFは 3、000人に一人 (とても「儲け」にならない!)。
当時 (今日でもそうだが) 唯一の治療法は、脳腫瘍を外科手術で除去するしかな
いが、脳腫瘍が視神経や聴神経の周辺にできるので、手術の際に、これらの神経
をも損傷する可能性が高く、(手術の度に) 後遺症が残り、数度、手術を繰り返す
と、「全身麻痺」で死亡する可能性が高い! マウスモデルの場合、NF患者の平
均寿命は、正常マウスの高々6-7 割 (短命) である。 病原キナーゼ「PAK 」が異
常に活性化しているために、当然「短命」になる! 従って、PAK遮断剤で、PAKレ
ベルを正常に戻すのが「正攻法」である。。。しかしながら、脳外科医の大半は、有効な治療薬が開発されると、自分達が "失業" するので、
治療薬を無視、極力使いたがらない! しかも脳外科医には、(残念ながら) NF発症の複雑な病理を "分子レベルで理解する" 頭脳に欠けている!
要約: 我々が先ず注目したのは、山椒の親戚にあたる「花椒」(四川省特産) である。
「花椒」の赤い実は、「麻婆豆腐」と呼ばれる四川料理 (スープ) に入れる伝統
的な香辛料の一つである。実は、風の便りに、「山椒エキスに、抗癌作用がある!」
という噂を聴き付けたのがきっかけ。 日本の癌学会で、そんなポスターを見かけたという、
ごく断片的な情報を、ある友人から受け取った。 そこで、 我々は得意の「水平思考」を発揮! 豪州メルボルンでは、山椒は
容易には入手できないが、花椒は最寄りの 中国系スーパーで、安く手に入る!
幸い、我が研究助手のひとりで北京大学医学部出の女医から、日常、料理に使っ
ている花椒 (漢語で Hua Jiao) のパックを一部分けてもらって、実験を開始!
先ず花椒を粉砕して、70% エタノール (消毒用) 中で 数時間抽出後、遠心分離
(あるいは茶漉しでロ過) して、赤い上清を「花椒エキス」とする。 これを系列
希釈して、NF遺伝子を欠損したNF腫瘍細胞の増殖に対する 50%阻害濃度 (IC50)
を調べる。 IC50=10-20 micro g/ml というデータが出た! 次に、PAK遮断作用
を調べ、同様にIC50=10-20 microg/ml というデータが出た。 当然ながら、正常
な細胞の増殖には、全く影響がなかった! 後に、日本から高価な山椒 (薬局方
) を入手し、同様な実験をしたところ、IC50=100 microg/ml と出た。 つまり、花
椒エキスは 山椒エキスに比べて、少なくとも数倍、PAK遮断作用が強いことが明
らかになった! その後、(通常の家庭でも再現できるよう) 、抽出を (アルコール
の代わりに) 45度の温湯 (水) で行ない、同様な結果を得た。 (蛇足になるが) 、理研の吉田グループとの共同研究によれば、FK228 と違い、
「花水」は HDAC を阻害せずに、PAKを遮断することが判明した。。。
いよいよ動物実験の番である! ヒト由来のNF腫瘍を、移植拒絶しない (いわゆる
ヌード) マウスに皮膚移植し、一ヶ月ほどの期間、花椒エキス (略称: 花水) を週に
2度、110 mg/kg, 腹腔に注射し、腫瘍の増殖をコントロール (無処理) と比較し
たところ、「50% 以上の増殖抑制」という結果を得た! そこで、早速、実験結
果を英文医学雑誌 (Cancer Biology & Therapy) に投稿すると共に、「NF ジャー
ナル」という、日本のNF患者/家族向けの読者欄に執筆した:
Yumiko Hirokawa, Thao Nheu, Kirsten Grimm, et al (2006).
Sichuan pepper extracts block the PAK1/cyclin D1 pathway and the growth of NF1-deficient cancer xenograft in mice.
Cancer Biol Ther.; 5 : 305-309.
我々の投稿論文は CBT 編集長の"英断"により、 2週間以内に受理された!
ところが、そのニュースを聞き付けた (我々が所属している) 国際癌研究所の メ
ルボルン支部長が、研究論文の出版を横暴にもブロックせんとしたので、我が輩
は、 (18年間勤めた) 癌研究所を潔ぎ良く辞し、以後「我が道を自由に歩む」決
心をした。 2006年3月のことである。
一体何故、花椒エキスに関する研究に、支部長が「難色」を示めしたか? 未だに
「謎」のままだが、一説には、いわゆる「herbal research」は、不幸にして、癌
研究所のNY 本部長の好みではなかった! 実は、1990年初頭まで、カナダのモン
トリオールにも支部があったが、天然物から抗癌剤を発掘し始めてから、「支部
の閉鎖」を食らったという悲しい歴史がある。。。(肉食の) 欧米社会では、 残念ながら「漢方」の精神というか、微生物界や植物界を尊重する「伝統」が未だに欠けている!
皮肉にも、「研究の推進力」を失ったメルボルン支部も、数年後に閉鎖された! 幸い、我
が輩自身は、EU 内で最大規模を誇るドイツのハ
ンブルグ大学病院 (UKE) 内にあるNF研究グループに、客員教授として招かれ、し
ばらくNF治療薬 (特にプロポリス) の開発研究 (動物実験) を続けることができ
た。。。実は、「花水」の製品化への初段階で、 (例えば、蜂蜜など)で、甘みを
付ける目的で、NZの養蜂家 (Kerry Paul) と一種の商談を試みたところ、「Bio 30」と呼ばれる市販された
ばかりのプロポリス(液体) 製品の存在を知った。。。
幸い、CAPE を主成分とするNZ 産プロポリス (商標: Bio 30) は、UKEでの動物実
験で、同様な摂取濃度で、NF腫瘍の増殖を90%以上、抑制した! そこで、米国
で翌年 (2007年) の夏に開催されたNF腫瘍に関する年会で、この画期的な結果を
ドイツの同僚達に頼んで、ポスター発表してもらった。そして、そのニュースは
世界中のNF患者の間に「津波」のごとく伝わった!
丁度、その年会の最中、我が輩は米国の首都ワシントンの郊外 (ボルチモア) にある大学で夏期休暇をとりながら、「PAKを欠
損した線虫株」(RB689) の phenotype (形質) の検索を初めて開始した。 面白い
ことには、CAPE で処理した野生株と、RB689 株とは、殆んど同じ形質 (熱耐性、
少子化、etc) を示した。動物界では一般に、「多産」株は、「短命」である。。。 言い換えれば、「健康長寿」の可能性を強く示唆してい
た! つまり、花水、プロポリス等の天然PAK遮断剤が、健康長寿をもたらす。。。
実は、その当時 (2005年頃) 、 (我が輩自身は全く知らなかったが)、 少なくとも ショウジョウバエの実験で、HDAC阻害剤 (=PAK遮断剤) である酪酸やTSA (Trichostatin A) などで処理すると、かなり (3-4割ほど) 寿命が延びることが、既に報告されていた! (2005年時点では、「寿命の延長がPAK遮断による」という遺伝学的な実証は未だなかったが, 2013年になって、我々は、線虫で "PAK欠損株" が野生株に比べて、6割も長生きする ことを実証。 2021年には、同様な結果が、マウスでも証明された!)。
Y Zhao, H Sun, J Lu, et al (2005). Lifespan extension and elevated hsp gene expression in Drosophila caused by histone deacetylase inhibitors. J Exp Biol; 208:697-705.
最近の進歩: さて、2013年になって、中国 (上海) の 研究グループによって、花水中のポリフェノール「GXー50」 (1 mg/kg、腹腔注射) が認知症マウスの記憶を回復しうることが確認された 。前述したが、認知症の進行にもPAKが必須である。 従って、「GXー50」も (抗癌/抗認知症作用を発揮する) PAK遮断剤である可能性が高い。 実際、「GXー50」の化学構造はPAK遮断剤であるCAPE (コーヒー酸 フェネチルエステル) やクルクミンと良く似ている:
プロポリス由来のCAPEのエステル結合が、花水のGXー50ではアミド結合に置換されている。従って、CAPE同様、GXー50の化学的な合成も極めて容易であり、かつ安上がりに違いない (2015年には、GX-50 が "PAK遮断剤" であることが確認された!)。
従って, 花椒エキスがプロポリスや乳酸菌 (食品) 同様、脳の難病 (NF/癌 、てんかん、認知症など) の予防に役立ち、最終的には「健康長寿」にも貢献するに違いない!
最後に特筆すべき点は、花水 (GX-50、アミド結合!) はアレルギー症を起こさない! (前述したが) プロポリスの主成分CAPE (エステル結合!) には、人口のわずか1% に過ぎないが、(我が輩自身を含めて)、 皮膚アレルギーを起こす。 従って、「CAPEアレルギー症」の人々には, 花水をぜひお勧めしたい。 なお、CAPE がほんの一部の人々にアレルギー症状を起こす原因は、恐らく、そのエステル結合が体内で分解して、コーヒー酸と (「アレルゲン」として知られている) 「フェネチルアルコール」(揮発性、バラの香り) を生じるからである可能性が高い。
参考文献:
Tang M, Wang Z, Zhou Y, Xu W, et al. A novel drug candidate for Alzheimer's disease treatment: gx-50 derived from Zanthoxylum bungeanum. J Alzheimers Dis. 2013 34: 203-13.
0 件のコメント:
コメントを投稿