2021年12月21日火曜日

善玉「PAK遮断剤」: カプサイシンやその誘導体 で、
「悪玉」変異体「Omicron」を撃退せよ!

カプサイシン
400年ほどの伝統を持つ、朝鮮料理 (食卓) に欠かせない 「キムチ」 という辛い漬け物の一種に使われている香辛料 「赤トウガラシ」 (元をたどればチリ原産なので、「チリ」 と欧米では呼ばれている) の中に、抗癌作用のある物質が豊富に含まれている。その名は 「カプサイシン」。1816年に単離され、1846年に結晶化され、1923年にその化学構造が決定されている。バニリン(バニラの匂い物質)が脂肪酸とアミド結合した、バニリン誘導体の一種である。
この天然化合物は、バニリン類レセプター 「VR1」 に結合して、あの強烈な辛味の感覚をかもし出す。さて、カプサイシンの制癌作用が初めて見つかったのは、1989年のことだ。韓国のソウルにある国立癌センター病院のタイクー・ユンのグループは、化学発癌剤により、マウスに肺癌を発生させる実験で、マウスを予めカプサイシンで処理しておくと、癌の発生、あるいは増殖が抑えられることを発見した。「キムチを食べていると、癌にならない、あるいはなりにくい!」 というキャッチ・フレーズで、韓国や日本のスーパーで、キムチの売れ行きがにわかに上がったという噂がある。
さらに2003年になって、その抗癌作用のメカニズムがわかり始めた。韓国のソウルにあるデュクスング女子大学のアリー・ムーンのグループは、この 「カプサイシン」 がRASによる癌化を抑えるが、正常細胞の増殖には影響を与えないことを発見した。さらに、この抗癌作用には、(レオウイルスと同様) 癌細胞のRASの下流にあるPAKーp38 キナーゼ (MAPK) シグナル経路が必須であることを見つけた。
さらに2006年になって、フィリップ・コフラーのグループ(カルフォルニア大学、UCLA)は、ヒトの前立腺癌由来でPTENが欠損している (PAKが異常に活性化されている) 癌細胞をマウスに植え付けたのち、カプサイシン(5 mg/kg)を週3回経口投与すると、癌の増殖が強く抑えられることを報告した。
2008年に韓国のグループによって、カプサイシンが 「PAK」 を直接に遮断する科学的な証拠が最終的に示された。この物質が 「PAK」 を直接活性化する Gタンパク質 「RAC」 を阻害することによって、「PAK」依存性の固形癌であるメラノーマの転移を抑制することがわかった。更に、2020年には、中国の研究グループによって、カプサイシンが (チロシナーゼの発現を抑制することによって) メラニン合成を抑えることが確認された。従って、カプサイシンも健康長寿に役立つはずである。。。
「カプシエイト 」(“辛くない”誘導体)
「癌に効く、予防に良い!」と言われても、「甘党」の私には、あんなに辛いキムチを毎食ムシャムシャ食べるわけにはいかない。さて、1985年頃、矢澤 進 のグループ(現在、京都大学農学部教授)が赤トウガラシの研究中、タイ産の辛くないトウガラシを見つけ、「CHー19甘」と命名した。その後、京都大学農学部教授の伏木 亨研究室や渡辺達夫 (現在、静岡県立大学) との共同研究により、この変わったトウガラシには、カプサイシンの代わりに、その誘導体であるカプシエイトが含まれていることが判明した。その構造上の違いは、カプサイシン中にあるアミド結合が、カプシエイト中では、エステル結合になっている。いいかえれば、アミド結合のアミノ基が酸素に置換してエステル結合になっているに過ぎない。 両方とも同じレセプターに結合するが、カプシエイトは辛味の感覚を全くもたらさない。 しかしながら、カプサイシンと同様、交感神経を刺激して、脂肪燃焼や体温上昇を促進する作用があることがわかった。
2006年には、これらのグループの共同研究によって、カプシエイトの経口投与(10 mg/kg)を受けたマウスは、無処理のマウスに較べて、ずっと長時間遊泳することができることが判明した。このスタミナ効果は、カプシエイトが脂肪燃焼を促進することによって、グリコーゲンの消費を遅らせるためだというデータが出ている。 さて、カプサイシンやカプシエイトには、「PAK」遮断作用ばかりではなく、抗癌キナーゼ 「AMPK」 を活性化する作用もあることが2005年に判明していた。「AMPK」 活性剤は一般に、(グリコーゲンや糖の燃焼の代わりに) 脂肪の燃焼を促する作用がある。従って、カプシエイトの 「スタミナ」 (持久力) 増強作用は、主に 「AMPK」 活性化によるのかもしれない。
さて、2003年にイタリアのジョバンニ・アペンディノらは、カプシエイトやその誘導体が抗癌作用を示すことを、少なくとも細胞培養系で確認している。従って、将来いつか、この辛くない「CHー19甘」をたっぷり食べて、癌やNFの食餌療法が臨床に利用される日がくるかもしれない。日本では十数年前から、食品会社「森永製菓」と「味の素」が共同で、「CHー19甘」製品 (カプシEX) を主に「体重減量」促進剤(肥満対策の一環)および「冷え」解消剤として市販している。 http://www.ajinomoto.com/jp/presscenter/press/detail/2004_07_30_2.html
更に、2008年には、韓国の研究グループにより、カプシエートが (PAK依存性の) 血管新生を抑えることも確認されている。従って、辛くなくても、カプシエートが (カプサイシン同様)、PAK遮断剤であることは明白! そこで、"カプシエートで線虫の寿命が延長できるか" どうかを試してみるのは、極めて面白い。。。
勿論、カプシエート (あるいはカプサイシン) で、変異体「Omicron」を撃退でき るはず。。。

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