2022年1月3日月曜日

抗癌剤:「DNA 合成」阻害から 「発癌シグナル」阻害へ
副作用を失く (軽減) するための「Paradigm」 シフト!

DNA合成阻害剤の "副作用":
1950年代後半のコンバーグによるDNA polymerase の発見を切っ掛けにして、抗癌剤の開発研究は、主に「DNA 合成阻害」へ、一斉にシフトした。しかしながら、正常な細胞も、癌細胞同様、増殖にDNA 合成を必要とする。 従って、DNA 合成阻害剤は、当然のことながら、正常な細胞の増殖、特に、分裂の速い育毛細胞、(骨髄の) 造血細胞、小腸膜の繊毛細胞などにも悪影響 をもたらし、脱毛、白/赤血球の減少、食欲不振など、一連の「副作用」が生ずることが避け難い!
"発癌遺伝子" の下流「シグナル」 ?
そこで、1980年代初頭に、DNA 塩基配列の決定法や DNA Recombinant テクノロジーが確立するや、いわゆる分子癌生物学者たちは、「発癌に必須な特定の遺伝子変異」に注目し始めた。 そして、MIT のボブ=ワインバーグ等が、RAS と呼ばれる「G 蛋白」 (GTPase) に、 ある一連の変異が起こると、発癌性になることを発見した! 更に、ソーク研究所のトニー=ハンター等が、SRC と呼ばれる 「チロシン キナーゼ」の一種にも、ある一定の変異が起こると、発癌性になることを、突き止めた! 従って、これらの発癌変異を (遺伝学的に) 元に戻すことは不可能であるが、その下流にある、一連の (発癌に必須な) キナーゼ (蛋白燐酸化酵素) を選択的に阻害/遮断する物質の探索が世界的に開始された!
固形腫瘍は「PAK」依存、しかも "健康長寿" をもたらす「PAK遮断」
その努力の一環として、浮かび上がってきたのが、PAK と呼ばれる「病原キナーゼ」である。最初のPAK は、我々が1970年代後半に土壌アメーバから「ミオシンキナーゼ」として発見したものであるが、1994年になって、シンガポール大学のエド=マンサーらによって、哺乳類からもクローンに成功した! 数年後に、我々との共同研究により、ある「PAK遮断ペプチド」により、RAS による癌化が抑制されることが判明した! 勿論、このペプチドは正常細胞の増殖には全く影響を与えなかった。 こうして、少なくとも、RAS による癌化は、PAK遮断剤によって、副作用無しに、抑えることが実証された! 更に、一連の実験から、凡ゆる固形腫瘍の増殖や転移にも、PAK が必須であることが判明した。 それだけではない。 (少なくとも) 線虫やマウス実験で、PAKを欠損あるいは遮断すると、寿命が6割も延長されることも判明した。即ち、PAK 遮断剤は、明らかに健康長寿を促進する!
PAK 遮断剤 1: "鎮静剤" の誘導体 (15K)
次の課題は、臨床でも有効な (即ち、水溶性で、しかも細胞透過性の高い) 、更に願わくば (家計の負担にならぬ) 「安価な」PAK 遮断剤を、如何に開発するか、であった。この難題も、数年前に、我々の手で、ほぼ解決された! 「クリック化学」という手法 (新兵器) を駆使して、鎮痛剤として、30年以上昔に開発された「Ketorolac」という酸性のPAK遮断剤をエステル化して、 水溶性で、しかも細胞透過性が500倍以上高い「15K」と呼ばれる新誘導体を開発した。少なくともマウス実験で抗癌作用が実証され、更に線虫で、寿命延長効果が実証された。 従って、あとは、臨床テストで、その薬理効果を試すだけである!
参考文献:
BCQ Nguyen, H Takahashi, Y Uto et al (2017). 1,2,3-Triazolyl ester of Ketorolac: A "Click Chemistry"-based highly potent PAK1-blocking cancer-killer. Eur J Med Chem.;126: 270-276.
PAK 遮断剤 2: "ビタミンD3" の誘導体
さて、ビタミン D3 に抗癌作用があることは、1980年代末以来、既知だったが、その抗癌メカニズムが長らく不明のままだった。 ごく最近、ドイツの研究グループによって、D3が「PAK遮断剤」であることが判明した! しかしながら、D3は体内で、ステロイド環の24位が 「CYP24 」という酵素によって、水酸化され、失活し易い。 そこで、10年ほど昔、帝京大 の 橘高教授 (東大薬学出身) らによって、水酸化されない D3 誘導体 「MART-10」が既に合成されていた。 この誘導体の抗癌作用は、(マウス実験では) 何んと「D3 の約千倍」だそうである! 更に、CYP24 遺伝子の発現は "PAK依存" であることも 判明した。 従って、他のPAK遮断剤、例えば、納豆由来のビタミンK2 (MK-7) と、D3 を併用すると、D3 の不活化が起こり難くなる から、その抗癌作用が 「MART-10」 並 (つまり「鬼に金棒」!) になる。。。
参考文献:

N Zeng, MS Salker, S Zhang, et al (2016). 1α,25(OH)2D3 Induces Actin Depolymerization in Endometrial Carcinoma Cells by Targeting RAC1 and PAK1. Cell Physiol Biochem. ;40: 1455-1464.
H Maruta, A Kittaka (2020). Chemical evolution for taming the 'pathogenic kinase' PAK1. Drug Discov Today.;25: 959-964.
The "paradigm" shift in our choice:
from “dead or alive” to “only live longer in good health”.

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