Proteolysis Targeting Chimera (PROTAC) 工学開発の歴史は、実はかなり古く、
2001年に遡る。 米国の CalTech のグループによって、初めて提唱された新しい
「抗癌」作戦である (1)。 それが20年近くの歳月を過ぎて、臨床で実際に治療効
果が出つつあるという、中国発のレビューが最近出版された (2) ので、それを手
短かに紹介したい。
実は、キメラ分子ではないが、2015年にノーベル医学賞 に輝いた駆虫剤「イベル
メクチン」が 「PAK遮断剤」である事を、2009年に我々が初めて突き止めた (4) が、
数年後 (2016年) に、中国の四川大学グループ (黄灿华教授 etc) によって、この駆虫剤が、PAKの「ユビキティ
ン (Ubiquitin) による蛋白分解」を選択的に促進することが、明らかにされた (3)
。 従って、(理論的には) 特異的な 「PAK分解メカニズム」を介して、抗癌ばか
りではなく、(ダウン症、認知症、NF などを含めて) 凡ゆる「PAK依存性難病」を
克服することができる。
一口に言えば、右図の 「キメラ」分子 (PROTAC) には、標的蛋白に結合する (右
手、正方形) とプロテオゾーム (蛋白分解酵素) に結合する (左手、三角形=疎水性環状、例えば「サリドマイド」など) を
介して、基質と酵素を結びつけ、ユビキティン化により、(病原蛋白、例えば"PAK"
等) の分解を促進する。 従って、正方形の部分が親水性でないと、PROTAC 分子全体が疎水性 (水に不溶) になり、吸
収性の悪い製剤となる! イベルメクチン (環状のラクトン=マクロライド) の場合は元来、分子中に「PAK結合部」と「プロテオゾー
ム結合部」が同時に備わっていると考えられる。
参考文献:
1.Kathleen Sakamoto, Kyung Kim, Akiko Kumagai, Frank Mercurio, Craig Crews, and Raymond Deshaies (2001). Protacs: Chimeric molecules that target proteins to the Skp1–Cullin–F box complex for ubiquitination and degradation. Proc Natl Acad Sci U S A. 2001 Jul 17; 98(15): 8554–8559.
2. Si-Min Qi, Jinyun Dong, Zhi-Yuan Xu , et al (2021).
PROTAC: An Effective Targeted Protein Degradation Strategy for Cancer Therapy. Front Pharmacol. ;12: 692574.
3.Autophagy. ;12: 2498-2499.
Ivermectin induces PAK1-mediated cytostatic autophagy in breast cancer
Kui Wang, Wei Gao , Qianhui Dou et al (2016).
実は、「イベルメクチン」にPAK遮断作用があることに、気づいたのは、極めて "偶
然" の結果だった。 2007年にボルチモア滞在中、線虫のPAK遺伝子欠損株が、野生
株に比べて、産卵数がひどく少ないことに、先ず気付いた。 野生株をプロポリス
などのPAK遮断剤で処理すると、全く同様な結果 (少子化) が出た! その後、 豪
州メルボルンに戻って、郊外にある大学で、線虫を扱っている旧友の研究室に立
ち寄った折、彼らが NZ (滞在) 時代に発表した古いポスターを何気なく眺めていた瞬間、「イベルメク
チン」が 「致死量」以下で、PAK遮断/欠損と全く同じ現象 ( (少子化) を示すこ
とに気付いた! そこで、2009年に兵庫県の癌研と共同で、イベルメクチン= PAK遮
断剤を、癌細胞を使用して、直接実証した (4)。
4. H Hashimoto, S M Messerli, T Sudo, H Maruta (2009).
Ivermectin inactivates the kinase PAK1 and blocks the PAK1-dependent growth of human ovarian cancer and NF2 tumor cell lines. Drug Discov Ther. ;3: 243-246.
我々は、2003年頃に、「AG 879」と呼ばれる化合物がPAK の上流にあるチロシンキ
ナーゼ「ETK」 を特異的に阻害することを発見した (IC50=5 nM)。更に、「PP1 」
と呼ばれる 化合物が、主にPAK の上流にあるチロシンキナーゼ「FYN」を特異的
に阻害し (IC50=10 nM) 、これら2種類の化合物を併用すると、スイゾウ癌などの
増殖が完全に抑えられることを、マウスで確かめた。 しかしながら、両化合物共、
(残念ながら) 水に不溶なので、臨床には応用しかねるため、各々の「水溶性」誘
導体、「GL-2003」 と「PP12」を、隣接するWEHI の有機化学チームと共同で開発
し、US特許を得た。 さて、最近、PROTAC に関するレビューに啓発されて、これ
ら "水溶性かつ細胞透過性の高い" 誘導体に各々、例えば、サリドマイド (あるいは、奇形を誘導しないアミノ誘導体=ポマリドマイド) を連結させ、「イベルメクチン」より強力な、新しい PAK遮断 "PROTAC" (PAK Proteolysis Chimera, PPC) の合成を目下企画している。 実は、サリドマイド自体にも (弱いが) PAK遮断作用があり、癌の増殖/転移/血管新生などを抑えることが知られている。。。 サリドマイドを妊婦が服用すると、いわゆる「奇形児」が誕生し易いが、妊婦以外
には、副作用は全くない!
目下、PAK を遮断する「PROTACs」 に関する短評を英国の医学雑誌 (Drug Discovery Today) に投稿中:
Ivermectin and Pomalidomide: PAK1-blocking PROTACS (Proteolysis Targeting
Chimeras) available in the healthy drug market.
なお、帝京大(薬) の橘高教授によれば、彼の東大 (薬) 時代の同級生 (内藤幹彦
博士) が日本では、「PROTAC」 の草分け (2011年以来) だそうで、最近、東大 (薬) の特任教
授に就任し、製薬会社「エーザイ」とのPROTAC (Sniper) 共同研究を進めている
そうである。
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