1970年代に英国ケンブリッジ大学のMRC所長、シドニー=ブレナーが透明な線虫 (C. elegans 体
長 わずか1 mm) を、新しい実験動物として、紹介した。そのお蔭で、(動物の) 分子生物学
が急速に進み、2002年にブレナーとその弟子たちがノーベル医学賞をもらった。その直後、彼の自伝の邦訳「エレガンスに魅せられて」を、我々は琉球新報から出
版した。 当時、彼が、日本政府の内閣府の予算で、(英語が公用語の) "沖縄科学技術大学院大学" (OIST) を創立しつつあったからだ。我が輩もOIST に一時関心はあったが、彼が「創薬」研究に全く興味を示さなかっ
たので、結局、この (難病の治療に無関心な) 「象牙の塔」からも、たもとを分かつことにした。 我が輩の「究極の目標」は、NF などの脳腫瘍の治療に役立つ "安全かつ安価" な薬 (PAK遮断剤など) を開発することだったから
である。
さて、丁度その頃、米国コロラド大学のトム=ジョーンズらが、 線虫を使って、
寿命と熱ショック蛋白 (HSP16.2) 遺伝子との間に相関性を見い出した! そこで、
その弟子だったクリス=リンクが、新しいGM 線虫株 (CL2070) を開発した。
その株では、 GFP (グリーン蛍光蛋白) 遺伝子がHSP16.2 遺伝子のプロモーター
に連結して、このプロモーターが活性化されると、GFPが産生され、透明な線虫が
グリーンの蛍光に輝き、その蛍光量を測定することによって、HSP16.2 遺伝子が
どれだけ活性化されたを「定量」できる仕掛けを開発した! 原理的には、CL2070を
使用することによって、GFP の蛍光量から、"線虫の寿命を伸ばす物質"を短時間 (24時
間以内) にスクリーニングできる! 因みに、GFP は1960年にプリンストン大学
の下村 脩 (博士) によって発見された。彼は2008年に、この功績でノーベル化
学賞をもらった。
2007年の夏休みを利用し、我々は、CL2070株を使用して、先ずプロポリス中のPAK遮断物質、CAPE
(Caffeic acid phenethyl ester) やARC (Artepillin C) が、HSP16.2 遺伝子を
活性化することを発見した! つまり、これらのPAK遮断物質が、線虫の寿命を延
ばす可能性を強く示唆した。
同時に我々は、これらのPAK遮断物質が、線虫の産卵能を極端に低下 (野生株の7分
の1!) することを発見した。更に、PAK欠損株 (RB689) でも、産卵数が野生株の
7分の1 だった! 一般に動物界では、「寿命と産卵数が反比例する」ことが知
られていた! 従って、PAKを遮断/欠損すると、HSP16.2 遺伝子が活性化されて、
「長命」になることが予想された。数年後に、PAK欠損株が野生株に比べて6割も
長く生きることを、我々は実証した。2021年には、同様な現象が、マウスでも証
明された。
従って、"CL2070株"は "RB689 株" (PAK欠損、nobody knows who made this mutant) と共に、PAK遮断剤が長命 (及び熱耐性) をもたらす、と
いう我々の画期的な発見へ、極めて重要な役目を果した!
ここで、一つ指摘しておきたい重要なポイントは、"熱ショック" (35度で2時間!) を与えなければ、
PAK遮断剤で処理しても、CL2070株は蛍光を発しない! 例えば、紫外線やその他
の (寿命を縮める) ストレスが、熱ショックと同様、それ自身のみで、HSP16.2 遺伝子を活性化し得る「可能性」
が未だ否定できない。 従って、PAK遮断剤のスクリーニングには、そのHSP16.2 遺伝子活性化が、「熱ショック依存性」であることを確認する
必要がある!
来年の6月末に、英国のグラスゴー (スコットランド) で、「国際 C. elegans (線虫
) 学界」が開催される予定である。 もし、Chris Link (CL) もやって来るなら、彼に
初対面するため、我が輩も、この学会に初めて参加したいと思っている。。。この学会に初参加する最大の目的は、「線虫モデルが、究極的には、難病の治療に多大な貢献をする」典型的な例を紹介するためである。
動物の寿命は、一般に体重にほぼ比例する。体長が僅か1 mm の線虫は、20度で寿
命が僅か14日。片や、哺乳類で最小のマウスは寿命が2年半、人類に至っては、寿
命が80年以上! 従って、寿命を延ばす物質 (Elixirs, 例えば、PAK遮断剤) を短
時間にスクリーニングするには、線虫 (特にCL2070株) が最適! "時は金なり" だから、3年以上
もかかって、マウスでElixirs を探すいわゆる「太公望」 (「気長な」院生/ポスドク) は、
もう今世紀には殆んどいなくなった!
線虫と哺乳類の基本的な違いは、線虫には心臓と視覚がない! しかし、脳 (魂)
はある! 従って、線虫の "AD" (認知症) モデルを使用すると、BBB を通過しうる(=脳腫瘍など
の治療にも有効な) PAK遮断剤をスクリーニングし得る!
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