2024年に, 米国のBarry Sharpless 教授らが、Click Chemistry (略してCC) 反応の開発及びその利用に関して、ノーベル化学賞 (2度目) を受賞した。 実は、 この CC は、 2001年に、彼が MIT に勤務していた頃に、発明した ("銅イオン"を触媒とする) 化学反応である。
2013年にインドの有機化学者チームがウルソール酸 (PAK1 遮断剤) を、CC 反応を介し、("アニソール" と脱水反応させ) エステル化して、その抗癌作用を (細胞培養系で) 100倍近く飛躍させた。 しかしながら、 一体なぜ、このエステル化が、抗癌作用を飛躍させたか (その "分子メカニズム" ) について, 彼らは、全く検討しなかったし、"特許" すら申請していなかった。。。
2015年に我々は、沖縄の琉球大学構内で、その論文を読んで、先ず気付いたことは、エステル化によって、酸性だった分子が中和され、(燐脂質からなる) 「酸性」の細胞膜を通過しやすくなった可能性、だった! この推量は、創薬学者の "一般常識" (ABC) に基づく。
そこで、先ず徳島大学の有機化学者と共同で、他の "PAK1" 遮断剤で COOH を持った化合物を 2、3、同様に "CC" でエステル化して、その抗癌作用及び細胞透過性を比較してみた。 先ず、ブラジル産のプロポリスの主成分 Artepillin C をエステル化して、15A (1, 2, 3-Triazolyl ester) を合成した。 エステル化により、その抗癌作用が100 倍に飛躍した! 次に、NZ 産 プロポリスの主成分 CAPE の原料であるコーヒー酸 (CA) をエステル化して、15C を合成した。 その結果、抗癌作用が400倍に飛躍した! 最後に、 ケトロラックと呼ばれる鎮静剤が、米国のグループにより、PAK1 遮断剤である事が明らかになったので、それも同様にエステル化した。
最終産物 (15K) は、何とケトロラックの "500倍" を越える抗癌作用を発揮した (CC の言わば「ギネス記録」を樹立!)。
結論/解説/展望:
いずれの場合も、抗癌作用の飛躍は、(主に) エステル化 による「細胞透過性」の飛躍にあった.
更に、15K の場合は、(癌の増殖を促進する) COX-2 を阻害する活性 (in vitro) の飛躍も観察。
つまり、2者の「相乗作用」をもたらす。実は、ケトロラックは光学異性体の R 型と S 型の混合物 (1:1) であるが、PAK1 遮断活性はR 型に、COX-2 阻害はS型に由来する。 従って、各々の異性体が 全く"別々" の機構で、活性化されて、相乗作用を発揮している事になる。
こうして、我々は、COOH を有する化合物の (CC を介する) エステル化により、薬物 (健康長寿の薬) の大巾な「化学的進化」を確立!
次の「挑戦」は、アミノ基を持つ (????????? )とのアミド結合により、同様な進化が成し遂げられるかを、試すことである。。。
Footnote:
さて、鎮痛剤「アスピリン」 (アセチルサリチル酸) にも、カルボン酸があるが、これを同様に CC でエステル化しても、僅か "5倍" にしか作用は増強されない。
従って、作用の「飛躍度」は、(結婚相手の如く) "相棒" の種類によって、「段違い」である。。。従って、有機化学の世界でも、"理想の相手"を見つける事が極めて肝心!
言わば、キューリー夫妻 (マリーとピエール) の如き組合せが理想的であろう。。。
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