2023年2月2日木曜日

(長生きの) 我が恩師: Lester Goldstein 博士 (1924- )
巨大アメーバの「核移植」の名人!
神の存在を否定する「ダーウイン学派」
細胞分裂期の "核膜" の消長?

我が輩が1973年7月に、横浜から船便で渡米した最初の目的地は、米国中西部 (ロッ キー山脈の山麓、ボールダーにある) コロラド大学のレスター=ゴールドシュタイ ン教授の生物学研究室だった。 ここで、最初のポスドク生活 (一年間) を送った。 レスターは我が輩が当地に到着してから数カ月後に、50歳の誕生日を迎えたが、 (顕微鏡下) 巨大アメーバ (Amoeba proteus) の核移植をこなす(数少ない) 「名 人」の一人だった。ユダヤ系の学者だったが、我が輩が受けた印象では 如何なる宗教にも無関心のようだった。勿論、クリスマス(降誕祭) は子供たちの ために祝うが、教会に行く様子はみられなかった。 ごく最近初めて確認したのだ が、レスターは、神の存在を否定する「ダーウイン学派」(Freedom from Religion Foundation) の会員だった! つまり、人類の祖先は (旧約聖書に書かれている 天地創造に基づく「アダムとイブ」ではなく)、猿などの類人猿 から、 "ランダム な" 突然変異を経て、環境に最も適するよう「選択的に」「進化」してきた、 つまり「ダーウイ ンの進化論」を、我が輩同様、そのまま受け入れているようである。
さて、レスターの研究室で、我が輩が行なった "アメーバ研究" について、ごく簡略に述べた い。 アメーバを初め、全ての有核細胞は、細胞分裂の直前に核膜が消失し、細胞 分裂の直後に核膜が再現される。 先ず気付いたのは、細胞分裂や核膜の再現は、蛋 白合成を阻害しても起こる! つまり、核膜を構成している (少なくとも) 「核蛋 白」は、既存の蛋白が一端 (細胞質内に一様に) 分散して、分裂後に再構成され ると考えられる。 さて、角膜の「脂質」は一体どうだろうか? それが、我が輩 の主な研究テーマだった。 その為には、先ず、アメーバ全体の脂質をアイソトー プでラベル後、核だけを取り出し、それをラベルされていない (然も予め脱核した) アメーバに移植する必要がある。 そこで、直径 500 ミクロンもある巨大アメーバ を研究材料として選んだわけである。 核移植後、そのラベルされた「核膜由来の脂 質」が、(細胞分裂の前後で) 一体どう挙動するかを "ラジオオートグラフィー" で追 跡観察するのが、主なテーマだった。
結論:
(ラベルされた) 核膜の脂質は (核膜の蛋白同様)、細胞分裂の直前に、細胞質に一様に分散 し、分裂後、2つの新しい核膜に均等に分布することが判明した。つまり、核膜の 解離と再構成が、「脂質や蛋白の合成無し」 に進行することが証明された!
REF:
H Maruta, L Goldstein (1975).
The fate and origin of the nuclear envelope during and after mitosis in Amoeba proteus. I. Synthesis and behavior of phospholipids of the nuclear envelope during the cell life cycle.
J Cell Biol. ;65(3):631-45.
追記:
米国の留学先を自分で選定するために、先ず太田次郎 (お茶大教授) 著「ア メーバ:生命の原型を探る」(NHK ブックス) を読んだ後、先ず (ロッキー山麓で ) 巨大アメーバの「核移植」に挑戦することに決めた。
"細胞及び核に損傷なく"、アメーバの核移植をマスターするのは、極めて高度なテク ニックと「辛抱強さ」が要求される。先ず、(ホッケーのボールを扱うような) 繊 細なガラス棒を自分で細工し、(朝早くから) 顕微鏡下で長い間、作業をしている と、ストレスが急速に貯まり、昼飯後は、"気晴らし" にテニスを2-3時間やらないと、 精神がもたない! 御蔭で、別のポスドク (女性) とテニスをやる機会がしばし ばあったので、かなりテニスの腕も上がった。。。当時、核移植の実験を常時やっ ていたのは、レスターとその助手 (クリスチンという年輩の中国系の女性) と我 が輩だけだった。
さて、核膜の解離と再構成についての我々による大発見から、既に半世紀ほど経て いるが、そのメカニズムの詳細については、ESCRT 等 2, 3 の蛋白が同定されて いるが、全貌は未だ掴めていないようである。 我が輩の直感によれば、ある種の「キ ナーゼ」(Aurora B etc) が両現象を誘導していると予想される。。。ただし、「PAK 1」無しに細胞分裂は進むので、少なくとも
"PAK 1" は関与していない!
Latest reviews:
1. Alexander von Appen , Dollie LaJoie, Isabel Johnson , Michael Trnka , Sarah Pick , Alma Burlingame, Katharine Ullman, et al (2020).
LEM2 phase separation promotes ESCRT-mediated nuclear envelope reformation.
Nature; 582(7810):115-118.
2. Stefano Sechi, Roberto Piergentili, Maria Grazia Giansanti (2022).
Minor Kinases with Major Roles in Cytokinesis Regulation. Cells.;11(22):3639.

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