2023年4月2日日曜日

(我が) エール大学時代 (1985-1986)
at Kline Biological Tower
「終り良ければ、全て良し!」
(ゲーテ/シェークスピアの名言)

西独のMAX-PLANCK研究所 (ミュンヘン) で数年、細胞性粘菌や真性粘菌 (Physarum) などのアメーバに存在するアクチン=キナーゼの発見や脳内のチューブリン(微小管) のGTP 結合部位に関する研究を済ませた後、もう一度米国に戻って、 Recombinant DNA (RD) 技術を学ぶため、エール大学の Joel Rosenbaum 教授の研究室に弟子入りした。 実は、1984年の夏、(「カルモジュリン」= CAM と呼ばれるカルシウム結合蛋白を発見した) 阪大医学部 (脳研) の垣内史郎教授 (50代半ば) がスイゾウ癌で、急死したことを聞いた。 もう少し長生きしていれば、ノーベル賞は殆んど確実だったと言われていた! 我が輩より10年ほど先輩だったが、とても親しかった。 実は、細胞粘菌では、ミオシン重鎖の燐酸化がカルシウムとCAM によって阻害されることを、我が輩は発見した。 Physarum では、アクチンの燐酸化がカルシウムと "Fragmin" (F-actin capping 蛋白) によって阻害された!

スイゾウ癌は9割以上が 「RAS (GTP蛋白) 遺伝子の変異による 癌」であり、癌の診断が下りてから、3か月以内に、(たとえ、抗癌剤の治療を受けても) 9割が死亡する! その悲惨な状況は (40年後の) 今日でも、ほぼ変わっていない! そこで、RAS 癌の解明をめざして、先ず「RAS 遺伝子」を扱い得る "RD 技術" の基礎を学ぶために、エールにやってきた訳である。我が輩が42歳の誕生日を迎えた直後だった。 日本なら、どこかの大学の教授になっている年令である。。。 我が輩は「大器晩成」を自認しているので、年令を無視して、職 (研究先) を選ぶことに決めていた。 (幸い) 未だ「独身」だったから、(自分自身の生活費を確保できれば) 妻や子供の生活費の心配をする必要がなかった!

エールの研究室の巨大な水槽では、「クラミドモナス」と呼ばれる緑藻アメーバが、鞭毛で泳ぎ回っていた。この鞭毛は、実はチューブリン (alpha と beta) から形成されているが、染色体の紡錘体と違って、alpha チューブリンが (鞭毛形成中に) アセチル化されることが知られていた。 そのアセチル化酵素を鞭毛から精製して、チューブリンがアセチル化されると、性質がどう変わるかを解明するするのが、「生化学の専門家」である我が輩の役目だった。 その側ら、(代わりに) 院生などからRD 技術を学ぶという設定だった。 結論的には、アセチル化されると、チューブリンは敏速に重合して、安定な鞭毛を形成しうる。 面白いことには、チューブリンのアセチル化もカルシウムによって完全に阻害された!
2、3 年後、 チューブリンに結合するカルシウム結合蛋白 (Calponin) が、日本で発見された。 恐らく、 この蛋白がアセチル化を阻害しているらしい。 明らかに、これら Cytoskeleton (アクトミオシンやチューブリン) の "post-translational modification" に一連の "Calcium 結合蛋白" が重要な役割を演じている。 滞在期間 (僅か一年半) の研究成果を、院生 (キャスリン) と共著で、 2報にまとめて発表した。 最近になって、このアセチラーゼは (「精子の鞭毛化」ばかりではなく) 癌化にも必須であることが判明した!

さて、 我が東大時代の同級生で、医科研で博士号を取得し、昭和大学薬学部の助手をやっていた女性が、未だ独身だったので、エールにやってきて、いわゆるポスドク体験をしばらくやってみたらどうかと誘ってみた。幸い、同じ生物学部 (15階建ての "Kline Biological Tower") の同じ階 (6階?) の直ぐ隣の研究室の若い教授 (Mark Mooseker: ミオシンの研究が専門) と直ぐ親友になったので、相談したところ、空きポストがあるとのことだったので、彼女はしばらく (日本の職を一時休職して) 海外研究を始めた。

我が輩は、タワーから歩いて数分の所に下宿していた。 下宿の持ち主は、白髪のおばさん (アイリーン) でイタリア系 (ミラノ出身なので、ドイツ系の血統が混じって、長身で、昔は金髪だった! 旦那は有名なオペラ歌手だったが、癌で他界したそうだ。息子さんが一人いた) 。下宿人は3人、我が輩と、マーチンという西独から留学中の学生、 と台湾から来たという学生がいたが、(残念ながら) 台湾人の学生は、我が輩が「日本人」だと言ったら、ムットしたような顔をして、会話を避けた。恐らく(戦前)、 日本が台湾を占領していた時期に、(日本軍から) 家族か親類が酷い目に会ったに違いない! 台湾出身の研究者を(海外で) 我が輩は数組知っているが、(幸い) 大部分は (日本人の私に) 好意的だった。。。

さて、2、3か月遅れて、エールに到着した我が同級生は、最初、我が輩が暫く逗留していた別の下宿 (アパート) に泊まっていたが、最終的には、自分で下宿を見つけて、ちょっと離れた一軒屋の下宿に落着いた。 我が下宿と距離的に近かったので、週末や休日には、我が下宿に遊びにきて、アイリーンと極めて親しくなった。 近くにある公園のテニスコートで、時折テニスも楽しんだ。 一年ほど経った頃 (春)、南部の大都会「アトランタ」で米国細胞生物学会が開催されたので、列車 (寝台車) で一緒に長旅を楽しんだ。その学会では、10年ほど昔、我が輩が大変お世話になったコロラド大学のレスター=ゴールドシュタイン教授にも再会する機会に恵まれた。

彼女は3人のインテリ姉妹の長だったが、男の兄弟がいないと聞いている。 我が輩には、2人の妹がいたが、残念ながら学問には向いていなかった。 そこで、 「文武両道」(大学時代にはボート部に所属し、 登山 など "スポーツ万能") の 彼女を言わば「妹代わりに」付き合った。 実は、彼女と我が輩の上の妹が全く偶然にも、同年、同月、 (殆んど) 同日に生まれた! 言わば「天からの授け物」だった!

1986年の9月に、我が輩は (米国生活に慣れた) 彼女をエールに残して、 西海岸 「San Diego」にあるカルフォルニア大学 (UCSD) に転勤を決めた。 本格的にRAS の研究に着手するためである。 そこでは、我が人生を激変させる全く意外な出会いが待ち受けていた。。。他方、彼女は同僚の Joan Carboni (女性のポスドク) との共同研究、ニワトリ小腸の繊毛分化に関する (2年間の) 研究結果をまとめて、 J. Cell Biol. (英文雑誌) にめでたく発表した!

翌年 (1987年の夏)、 我が輩がサンディエゴで、ギリシャ系の数学教師 (実は、我が輩の下宿のおばさん) と結婚直後、我が同級生は、米国大陸の横断旅行の末、日本に帰国する途中で、わざわざサンディエゴにも立ち寄り、新婚の我々を祝福してくれた、彼女自身も、帰国後間もなく、ある詩人と結婚にゴールインした! やがて、我が輩は豪州メルボルンの国際癌研 (LICR) に定職 (抗癌剤開発部長) を得て、 赤道の向こう側に転勤した!
なお、その同級生は、 十数年後に、日本で、「納豆由来のビタミンK2がスイゾウ癌などの増殖を抑える」という貴重な発見をして、有終の美を飾りながら、 研究生活を終えた。
ゲーテ曰く: Ende gut、 Alles gut! (実は、シェークスピアの戯曲「All's well that ends well」の独訳): 如何なる道程 (道筋) を経ても、 最終的に「正解」に達すれば、 "成功" である。 皮肉にも、人生とは「数学」ではなく、「迷路」である! 「理詰め」だけではなく、 岐路で (常識を越えた) "決断" が必須!

結論: スイゾウ癌に限らず殆んど全ての固形腫瘍の増殖や転移は 「PAK」 と呼ば れる発癌/老化キナーゼに依存するため、 様々なPAK遮断剤 (プロポリス、フコイダン、イベルメクチン、Gleevec、ビタミンD3/K2 など) により、副作用なしに治療しうる! しかも「健康長寿」にも繋がる! これが、 1988年より豪州で本格的に開始した「抗癌剤開発研究」の成果である。

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