前回、種々のカルシウム結合蛋白 (CAL 蛋白) を紹介したが、 実は、幾つかのCAL 蛋白は "発癌蛋白" である。 その一つ「S100B」は抗癌蛋白「p53」に結合して、 その機能を抑えることが知られている。 そこで、「S100B」の阻害剤から、抗癌剤を捜し出す努力が10年ほど前から始まった。 その中で、最近注目され始めているのが、85年ほど昔、"駆虫剤" として開発され (市販されている)「Pentamidine」と呼ばれる薬剤である。
2021年に、中国の研究グループによって、この薬剤が PAK を抑制する抗癌フォスファターゼ 「PTEN」遺伝子の発現を高めることによって、抗癌作用や消炎作用を発揮することが明らかにされた。 化学的構造としては、温帯プロポリスの主成分 「CAPE」に似ているが、両端の芳香環の水酸基が "Amidine" に置換されている (右下図を参照)。 従って、より水溶性かつ細胞透過性も高いと考えられる (IC50 = 1 micro M).
有名な駆虫剤「イベルメクチン」に比べると、薬効はそれほど強くないが、 "BBB" を通過するので、 脳疾患 (NF腫瘍や認知症など) の治療にも役立つはず。
参考文献:
Yi Wu, Zhong Zhang, Zuqiang Kou (2021).
Pentamidine Inhibits Ovarian Cancer Cell Proliferation and Migration by Maintaining Stability of PTEN in vitro. Drug Des Devel Ther.;15:2857-2868.
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