鬱病と同様、統合失調症は認知機能に障害を伴わない精神病である。その証拠に、有名な天才がその生涯のある時期に統合失調症にかかっていたというケースがいくつもある。最も卑近な例は、1994年にノーベル経済学賞をもらった数学の天才、ジョン・ナッシュ教授 (1928-2015) であろう。 1998年出版のシルヴィア・ナサール著「A Beautiful Mind」(2001年には映画化) によれば、彼は30才以後、数十年この精神病にかかっていたが、前妻などによる看病の末、幸い受賞式に出席できるほどに快復した。リンゴの実が木から落下するのを観て、「万有引力の法則」を発見したといわれる、英国の数学/物理学の天才、アイザック・ニュートン(1642ー1727)も50才前後に、この病気にしばらくかかっていたといわれている。
さて、十数年前に、統合失調症の原因遺伝子の一つが同定された。「DISC1」と呼ばれる遺伝子が欠損あるいは機能不全になると統合失調症を発症させることがわかった。面白いことには、「DISC1」蛋白が機能不全になると、PAKの活性化に必須なRACという G蛋白が活性化され、最終的にはPAKが異常に活性化されることが、線虫を使った実験で最近明らかになった。従って、鬱病同様、PAKを遮断すれば、統合失調症も治療可能であると思われる。 実際、PAK遮断剤の一つであるベルベリンが統合失調症を治療しうることが2010年に動物実験で証明された。
更に十年ほど前に、米国のボルチモアにあるジョンス・ホプキンス大学医学部の 澤 明 (あきら) 教授 (東大医学部卒) のグループが「DISC1」を欠損した (統合失調症) マウスを実験モデルにして、PAK阻害剤 (例えば、FRAX486など)が、統合失調症によって発生する神経伝達末端 (シナプス) の損傷を遅延あるいは修復することを証明した。ただし、この薬剤はそのままでは細胞膜透過性がかなり低いので、(将来)臨床へ応用するためには、今後その改良が望まれる。ともあれ、近い将来、統合失調症は、プロポリスや (海藻由来の) フコイダンなど様々なPAKを遮断しうるハーブ類や市販合成医薬品 (例えば、「Gleevec 」や 催眠ホルモン「メラトニン」 など ) によって治療しうる可能性が出てきた!
1950年代初期以来、ドーパミン遮断剤「クロルプロマジン」(CPZ)が統合失調症の治療薬として、長らく使用されてきた。 しかしながら、CPZにはパーキンソン氏病症状 (手足の痙攣) や横隔膜の痙攣など、いくつかの副作用が生じることが知られている。 その副作用を避ける為に、代わりに「クロザピン」が 2002年以来、 特効薬として使用されるようになったそうである。 ところが、 「クロザピン」には、 皮肉にも、「患者の命を縮める」副作用があることが、判明した!
米国の研究グループによれば、主に線虫を使用した実験 (2011年) から、抗癌キナーゼ (AMPK) を遮断し、 しかも、発癌/老化キナーゼ (PAK) を活性化によって、健康長寿に必須である転写蛋白 (FOXO) の核への移行を妨げることが判明した! 従って、 (「健康長寿」を望むならば) 統合失調症は (逆に) 「PAK遮断剤」で治療すべき!
REF: KR Weeks , DS Dwyer, E J Aamodt (2011).
Clozapine and lithium require Caenorhabditis elegans β-arrestin and serum- and glucocorticoid-inducible kinase to affect Daf-16 (FOXO) localization. J Neurosci Res.;89: 1658-65.
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