2023年4月30日日曜日

Contact Inhibition (CI) を巡る「陰陽」:
PAK vs Merlin or PTEN
TOR vs TSC (Tuberous Sclerosis)

前述したが、 "Contact Inhibition" (CI, 増殖 及び 運動) は "正常細胞" の特徴である。
癌 (あるいは腫瘍) 細胞は、このCI を示さず、無限に増殖と移動 (転移) を続け る。。。この現象が最初に発見されたのは、大昔 (1953年頃) のことである。

しかしながら、その分子レベルのメカニズムが解明されたのは、 実は、半世紀後で ある。 先ず1998年頃に、「PTEN 」 と呼ばれる抗癌遺伝子が発見された。この産 物はフォスファターゼの一種で、発癌キナーゼ 「PAK」を脱燐酸化して、失活さ せる。
さて、 正常細胞は、ペトリ皿 (培養皿) の上では、増殖するが、軟寒天上では、 増殖できず、死滅する。 その主な理由は、軟寒天に移すと「PTEN」遺伝子が活 性化され、PAK を失活させるからである。つまり、正常細胞が軟寒天上 で増殖を続けるためには、PAK が必須である。他方、癌細胞には、過剰なPAK が 存在するので、軟寒天上でも、無限に増殖しうる。 我々 (癌学者) は、 この軟寒 天上の増殖を 指標にして、細胞の「癌化」を決定する。。。
専門用語では、この現象を「Anchorage-Independent Growth」(ペトリ皿の底に密 着しなくても増殖できる) と呼ぶ。

2014-2015年頃に、更なる発見があった! 先ず、メルリンを欠損した良性 (NF2 腫瘍) 細胞は、細胞同士が接触しても 「CI」を示さず、無限に移動 (転移) し続 ける。メルリンは本来、PAK を阻害して、いわゆる"Membrane Ruffling" を抑制し て、細胞移動を抑えるが、それが欠損すると、PAK が異常活性化して、移動が停 止しない。
同様に、抗癌遺伝子 TSC が欠損した良性 (TS 腫瘍) 細胞は、細胞同士の接 触があっても、もはや「CI」を示さない! TSC は本来、発癌キナーゼ「TOR」を 阻害し、細胞移動を抑えるが、それが欠損すると、TORが異常活性化して、移動が 停止しない。

これが、細胞の 「CI 」を巡る (分子レベルの) 「陰陽」関係である。 それを聞いて、"CI" の元祖「Abercrombie」博士も、草場の陰で、さぞかし 満足しているだろう。。。

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