2001年に、野依良治教授 (京大出身) ら と共に、(光学異性体に関する研究領域で
) ノーベル化学賞を受賞した米国 MIT の Barry Sharpless 教授は、その同じ年に、画期的な有機化学
反応 ( Click Chemistry、 CC) を発明した! このCC は、従来 (1960年以来) 知られていた
「Huisgen」反応 (Alkyne と Azide を高熱で縮合させる化学反応、生成物として
光学異性体である1、4-isomer と 1, 5-isomer が50% づつ出来る) を、更に改良
して、(室温で) 「銅触媒」を利用して、1、4-isomer のみを100% 生成できる反
応である。 (生物活性がはっきり異なる) 光学異性体の混合 (Huisgen 反応) 生成物から、(求める生物活性がある) 片方の異性体のみを分離するのは、甚だやっかいで、然も余計な経費もかかり、製薬企業からは余り歓迎されない。 従って、このCC が発表されるや、世
界的に一躍有名になり、年間1000報以上の「CCを利用する化学反応」論文が次々
と発表されるようになった!
我々 (生化学者) も、遅ればせながら (ようやく2015年頃から)、このCC を利用
することに気づき始め、COOH を含む (細胞透過性が低い) PAK遮断剤 (ケトロラッ
ク等) の透過性を飛躍的に上げることをめざし、(水溶性の高い) 1、2、3-Triazolyl エス
テル化に利用した。 その結果、驚くなかれ、市販の鎮静剤「ケトロラック」の透
過性が、たちまち "500倍" 以上に高まった (ギネス記録を樹立!)。 従って、我々自
身の例 (「15K」の合成) をも含めて、このCCは、ノーベル化学賞に値いすると、我々は確信してい
る! さて、今年のノーベル化学賞の受賞発表は10月5日 (水) の予定であるが、
Sharpless 教授の「2度目の受賞」の可能性が、かなり高まりつつある。。。
予想通り、彼は、他の2名の学者 (コペンハーゲンの Morten Meldal 教授 とスタンフォード大学の Carolyn Bertozzi 女史) と、今年の化学賞を分かち合った!勿論、Barry 宛てに急ぎ祝電 (メール) を送った! 数年前の夏に、彼はメルボルンに初めてやってきて、 CC に関する特別講演を「WEHI」 (メルボルン大学病院の隣) でやってくれた。
我が輩の記憶が正ければ、ノーベル化学賞を2度も受賞した例は極めて稀れで、英
国 Cambridge 大学の生化学者、フレッド=サンガー (1918-2013) で、最初の受賞は1958年 (インス
リンのアミノ酸配列)、2度目の受賞は"22年後"の1980年 (DNAの塩基配列) だったと記憶して
いる。。。
女性では、ポーランド出身のマリー=キュリー (1867-1934) が、ラジウムの発見で、
夫ピエールと共にノーベル物理学賞 (1903年)、後に単独でノーベル化学賞 (1911年
) を受賞したことは、特筆に値いするだろう。。。
なお、2022年の Nobel 生理/医学賞 は、 人類の進化を研究したSvante Paabo 教
授 (スエーデン人、Leipzigにある Max-Planck 進化人類学研究所の所長、沖縄にある "OIST" にも所属) が受賞。 "ネアンデルタール原人" 特有の(感染免疫などに関する) 遺伝子が、現代の人類のゲノムにも 2-3% ほど含まれていることを証明。 従って、(約4万年昔、絶滅する前の) ネアンデルタール原人とホモ=サピエンスとの性交 (交配) が、そ
の後の人類の進化 (少なくとも、健康長寿) に寄与したことが明らか。 言い換えれば、「異人種同志」の 交配 も、人類の進化 (改良) に寄与することが、予想される。 逆に、近親結婚や「人種差別」は、人類の退化のみをもたらす。。。雑種共生と越境が、文明の発達の原動力である!
詳しくは、Svante Paabo著 (自叙伝風)「ネアンデルタール人は私たちと交配した 」(訳本、文藝春秋、2015年) を参照されたし。 もし、我々薬学者が近い将来、同様な自叙伝を著わすとしたら、 その題名は恐らく「生化学者がCC有機化学者に恋をした時」となるだろう。。。
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