2022年10月9日日曜日

友好的なライバル: トム=ポラード

ビタミン C の発見競争では、セント=ジョルジと米国のキングが、醜い争いを起 こし、それが、後々まで長らく尾を引いて「不幸な結果」を招いた。。。
さて、科学者の世界では、極稀れにではあるが、「友好的なライバル」関係が長らく存 続し得る。 卑近な例を一つ、ここで紹介したい。 我が輩がNIHのコーン博士の研 究室にポスドクとして、勤務し始める前に、ハーバード大学医学部出身のトム=ポ ラード (我が輩とほぼ同年) が、この研究室で、2、3年かけて、(土壌アメーバに 存在する) ミオシン研究に関して、極めてユニークな発見をした。 1。 前代未聞 の「単頭」ミオシンを発見、2。このミオシン (ATPase 1) のアクチンによる活性 化には、第3の蛋白が必須。 彼はこの時点でハーバードに戻り、インターンを終 えて、ジョンス=ホプキンス (JH) 大学医学部に助教授として就任。
筋肉で発見されていたミオシンは全て 「双頭」で、ミオシン分子2本が互いに絡 まっている。その上、(心筋の) 双頭ミオシン(ATPase 2) は、カルシュウム存在 下で、アクチンによって、容易に活性化を受ける。従って、トムは、この土壌ア メーバ中に、「謎の蛋白」を発見したわけである。勿論、彼は、その後しばらく、 このアメーバを使って、謎解きを継続していたようである。 我が輩の研究テーマ も、この謎解きに集中した。つまり、NIH と JH との間で、ミオシン ATPase 1 に関するいわゆる「デッドヒート」が展開しつつあった。。。
さて、驚くなかれ、実は、このアメーバには、双頭のミオシン(ATPase 2) も存在 することが、先ず (我が輩の手で) 判明した。しかし、ATPase 2のアクチンによ る活性化には、「謎の蛋白」は必要なかった! 次に、判明したことは、アクチ ンをゲル化する一連の蛋白 (Gel-actins) が存在することが判明した。 最後に、 "謎の蛋白の正体" が偶然、判明した。 実は、 NIHキャンパス内にある10号館に、血 小板のミオシン (ATPase 2) を研究しているグループがあった。 ハーバード出の ボブ=アーデルシュタインのグループである。 彼らは1975年に、血小板のATPase 2のアクチンによる活性化には、特殊なキナーゼ (燐酸化酵素) が必須であること を発見した! ミオシンは一般に、重鎖と軽鎖からなっているが、このキナーゼ は軽鎖だけを燐酸化する。 しかしながら、このキナーゼはアメーバのATPase 1を 燐酸化しなかった。
その後、2年が経過したある週末の昼前、我が輩は、アメーバに "前代未聞のキナー ゼ" を発見した! 何んと、ATPase 1 の重鎖だけを燐酸化するキナーゼであった。 これが、それから17年後に、哺乳類にも発見される「PAK1」の前哨だった。 その (世紀の) 発見を、偶々事務所にいたボスのコーンに報告すると、彼は早速電話で、(JHの) トムにそれを知らせ、3人で「意外な発見」を互いに祝い合った。 以後、半世紀 近く、この3人 ("Myosin kinase" 三銃士、師弟) の間には、「友好的なライバル関係」が続いている。。コーン博士 (94歳) もトムも一時癌に苦しんだが、結局無事に克服し、"健康長寿"を楽しんでいる。。。
30年後 (2007年) には、我々の手で、(1) このキナーゼが我々の寿命を司っている こと、及び (2) 市販のプロポリス (Bio 30) などが、それを見事に遮断することを発 見!
もし仮に、1932年のキング博士が、昔の弟子からビタミンCに関する報告を受け取っ た時、素直に、セント=ジョルジに祝電を送っていたら、恐らく、1937年に、この 3人がノーベル賞を分かち合う結果になったかと、私は想像する。。。覆水、盆に帰らず!
米国では、競争を奨励する余り、ライバル同士がデータの盗み合いや、グラントを 獲得するために、相手の足を引っ張り合う、ケースが頻繁である。 我が輩はそう いう (騎士道を心得ぬ) 風潮に飽き飽きして、結局、米国をあとにして、豪州に永住する決意をした。 トムは、我が輩同様、「ボストンマラソン」ランナーでもあるが、「騎士道を心得 る」数少ない米国人科学者である。。。

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