ビタミン C の発見競争では、セント=ジョルジと米国のキングが、醜い争いを起
こし、それが、後々まで長らく尾を引いて「不幸な結果」を招いた。。。
さて、科学者の世界では、極稀れにではあるが、「友好的なライバル」関係が長らく存
続し得る。 卑近な例を一つ、ここで紹介したい。 我が輩がNIHのコーン博士の研
究室にポスドクとして、勤務し始める前に、ハーバード大学医学部出身のトム=ポ
ラード (我が輩とほぼ同年) が、この研究室で、2、3年かけて、(土壌アメーバに
存在する) ミオシン研究に関して、極めてユニークな発見をした。 1。 前代未聞
の「単頭」ミオシンを発見、2。このミオシン (ATPase 1) のアクチンによる活性
化には、第3の蛋白が必須。 彼はこの時点でハーバードに戻り、インターンを終
えて、ジョンス=ホプキンス (JH) 大学医学部に助教授として就任。
筋肉で発見されていたミオシンは全て 「双頭」で、ミオシン分子2本が互いに絡
まっている。その上、(心筋の) 双頭ミオシン(ATPase 2) は、カルシュウム存在
下で、アクチンによって、容易に活性化を受ける。従って、トムは、この土壌ア
メーバ中に、「謎の蛋白」を発見したわけである。勿論、彼は、その後しばらく、
このアメーバを使って、謎解きを継続していたようである。 我が輩の研究テーマ
も、この謎解きに集中した。つまり、NIH と JH との間で、ミオシン ATPase 1
に関するいわゆる「デッドヒート」が展開しつつあった。。。
さて、驚くなかれ、実は、このアメーバには、双頭のミオシン(ATPase 2) も存在
することが、先ず (我が輩の手で) 判明した。しかし、ATPase 2のアクチンによ
る活性化には、「謎の蛋白」は必要なかった! 次に、判明したことは、アクチ
ンをゲル化する一連の蛋白 (Gel-actins) が存在することが判明した。 最後に、
"謎の蛋白の正体" が偶然、判明した。 実は、 NIHキャンパス内にある10号館に、血
小板のミオシン (ATPase 2) を研究しているグループがあった。 ハーバード出の
ボブ=アーデルシュタインのグループである。 彼らは1975年に、血小板のATPase
2のアクチンによる活性化には、特殊なキナーゼ (燐酸化酵素) が必須であること
を発見した! ミオシンは一般に、重鎖と軽鎖からなっているが、このキナーゼ
は軽鎖だけを燐酸化する。 しかしながら、このキナーゼはアメーバのATPase 1を
燐酸化しなかった。
その後、2年が経過したある週末の昼前、我が輩は、アメーバに "前代未聞のキナー
ゼ" を発見した! 何んと、ATPase 1 の重鎖だけを燐酸化するキナーゼであった。
これが、それから17年後に、哺乳類にも発見される「PAK1」の前哨だった。 その
(世紀の) 発見を、偶々事務所にいたボスのコーンに報告すると、彼は早速電話で、(JHの)
トムにそれを知らせ、3人で「意外な発見」を互いに祝い合った。 以後、半世紀
近く、この3人 ("Myosin kinase" 三銃士、師弟) の間には、「友好的なライバル関係」が続いている。。コーン博士 (94歳) もトムも一時癌に苦しんだが、結局無事に克服し、"健康長寿"を楽しんでいる。。。
30年後 (2007年) には、我々の手で、(1) このキナーゼが我々の寿命を司っている
こと、及び (2) 市販のプロポリス (Bio 30) などが、それを見事に遮断することを発
見!
もし仮に、1932年のキング博士が、昔の弟子からビタミンCに関する報告を受け取っ
た時、素直に、セント=ジョルジに祝電を送っていたら、恐らく、1937年に、この
3人がノーベル賞を分かち合う結果になったかと、私は想像する。。。覆水、盆に帰らず!
米国では、競争を奨励する余り、ライバル同士がデータの盗み合いや、グラントを
獲得するために、相手の足を引っ張り合う、ケースが頻繁である。 我が輩はそう
いう (騎士道を心得ぬ) 風潮に飽き飽きして、結局、米国をあとにして、豪州に永住する決意をした。
トムは、我が輩同様、「ボストンマラソン」ランナーでもあるが、「騎士道を心得
る」数少ない米国人科学者である。。。
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