1959年に、アーサー=コンバーグ (1918-2007) とスベロ=オチョア (1905-1993) へ
大腸菌由来のDNA 合成 とRNA 合成に関する酵素の発見に対して、ノーベル医学賞
が与えられた。いわゆる「コンバーグ酵素」は実際、DNA を合成する「polymerase」
だった。 ところが、「オチョア酵素」 (Polynucleotide Phosphorylase, PNP)
は、実際には、RNase (RNA 分解酵素) だった! 酵素とは、反応と逆反応の両方
を、試験管内では、触媒できるが、大腸菌内では、RNAを分解するが、合成には関与
しないことが、後に判明した! つまり、オチョアは、「間違った理由」で、ノー
ベル賞をもらったわけである。 実際、 我が輩が東大薬学の院生 (修士) の頃 (1960年
代後半) 、我々はPNP で、専ら大腸菌のリボゾームRNA が分解するメカニズムを研究していた (培地から Mg を除くと、リボゾームRNAが PNP によって分解を受け、蛋白合成が止まる! この反応は可逆的で、Mg を培地に加えれば、リボゾームRNAが合成され始め、リボゾームによる蛋白合成が再開される)!
皮肉にも、オチョアの研究室 (ニューヨーク大学) で、PNP が試験管内で 「RNAを合成」することを発見したのは、Marianne Grunberg-Manago (1921-2013) というソ連から亡命してきたフランス人女性 (美人) だった! ここでも、明らかに「女
難」がたたっている。。。
もっとも、フィル=リーダーによれば、「遺伝子暗号の解読」の為に、種々の "RNA
Triplets" (AUG, UUU, UAG etc) を酵素的に合成するために、この「PNP 」が大活躍
したそうである。従って、結局「怪我の功名」になった! 他方、(有機化学が得意な「ライバル」) 西村さんは、RNA Triplets を化学合成したそうである。
さて、「本物」の (DNA-dependent) RNA polymerase の研究で、ノーベル化学賞を、
2006年にもらったのは、DNA Polymerase 研究でノーベル賞をもらったArthur Kornberg
の長男, Roger Kornberg (スタンフォード大学) である。 つまり、親子でこの分野を結局、独占した! 父親は息子の受賞に満足しながら、翌年, 安らかに他界した。。。このエピソード ( 仮称「DNA/RNA 親子丼」) も、もし (ハリウッドで) 映画化したら、 (地元、カルフォルニアの) 観客を沸かせると、 我が輩は思う。。。あるいは、宮崎 駿 (監督) による 「アニメ映画」でも良いと思う。
我が輩の高校時代の同期生 (新井賢一 くん、1942-2018) は、東大医学部を卒業後、
アーサー=コンバーグの研究室で、ポスドクを勤めた後、コンバーグらが設立した
「DNAX」という製薬研究所の分子生物部長を勤め、(奥さんと海外研究生活) 13年
後の1989年に、日本に帰国して、東大の「医科研」の所長などを歴任した。その
彼が中心になって、コンバーグの自伝「それは失敗からはじまった: 生命分子の
合成に賭けた男」(訳本) を1991年に出版した。 (我が輩自身も出版されて間もな
く、拝読させてもらったが) コンバーグ家について知るための良い参考書として、
若い (分子生物学) 研究者や「アニメ」制作者などにお勧めしたい。。。
キューリー夫妻はラジウムの発見で、(チェコ出身の) コリ (Cori) 夫妻はグリコーゲンの代謝酵素 (Glycogen Phosphorylase, GP) で、各々
ノーベル賞に輝いたが、コンバーグ夫妻はコリ夫妻の下で、研究を始め、(更
に) 新井夫婦もコンバーグ夫妻の下で、ポスドク研究を始め、キューリー夫妻の
始めた輝かしい (人類らしく「極めて知的な」) 伝統を守り続けた。。。
コリ夫妻もコンバーグ夫妻も「ATP」を基質とする酵素を扱った。めざす「標的」は違うが、我が輩も 同じ「ATP」を基質とする酵素 (PAK という「キナーゼ」) を長らく扱っ
てきた。従って、恐れながらも、「コリ=コンバーグ」酵素学派の端くれと、自認
している。。。我が輩に (将来) 自伝を書く機会が訪れたら、「全ては ATPから始まった: 健康長寿
の為に!」という標題で行こう!
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